175.円滑な会議

「さて、まずはどうやって中の様子を探るかですが…天崎さん、あなたのパーティーで何か方法はありませんか?」



 会議はそのまま進み、壁の向こう側を調査する方向で固めたトウキョウ軍の幹部達は、具体的な方法を模索し始めた。



「不可能です、あの壁を破壊できるなら、自分はもっと早くあの迷宮を脱出できたでしょうから」



 本当は何とかなるのだが、多分山ごと崩れてしまうと思うんだよな。もしそうなれば最悪そのまま生き埋めになるかもしれないし、何とか別の方法を探してほしい。



「そうですか…爆発させてしまう手もありますが、そうなると今度はカツロ山の方が心配になりますね」

「ええ、そもそもあそこはこの場所にとって貴重な鉱産資源を生み出してくれる場所ですから。刺激してもしものことがあれば、かえって損失を生んでしまいます」

「となると、やはり正規の入り口を見つけ出すことが一番正攻法と言えるでしょうか?」



 それが一番無難だと俺も思う。勿論土に埋まっているだろうが、壁伝いに掘り進めればどこかしらに入り口はあるはずだ。



「ですがそうなると、今度は突然現れるコボルドが厄介ですね」

「そればかりは人員を割くしかないのでは?スキルが効かないのであれば、対策のしようがない」

「そうですね。同時に出現地点や時間の情報を集め、何とか法則性を割り出せないかやってみましょう」



 出現地点に関しては分からない気がするが、確かに出現頻度が分かりさえすれば、掘り進める時間と討伐する時間が明確化されるため、かなり時間効率は上がると思う。それに、現場の軍人の精神的負担も軽減できそうだ。



「では、一旦通常の採掘作業は取りやめて、壁周辺の掘り進めと、彼らを守るための警戒に人員を回すこととします。その他、コボルドの出現地点・出現地点の収集もお願いしましょう」

「調査団からも何人か人を寄越そう。採掘はからっきしだが、用心棒くらいにはなるだろう」



 今回に関しては、俺達の出番はほとんど無さそうだな。周囲の警戒だけならわざわざ俺達が出張る必要はないだろうし、これまで通り入り口での警戒に留まりそうだ。



(ま、それも壁の向こう側への侵入口が見つかるまでだろうけど)



 壁の向こう側にどれだけの空間が広がっているのかは定かじゃないが、露出していた壁のサイズからしてそれなりの大きさだと思う。もしあの場所がトウキョウ軍の期待通り迷宮だとすれば、まず間違いなく俺達にも何らかの仕事が舞い込んでくるはず。



「では次に、現場の軍人達への報酬に関してですが──」



 そのまま会議は滞りなく進んでいき、もうすぐ夕日が傾きそうな時間帯に、緊急会議は終了した。






♢ ♢ ♢






「ごめんね、英夢君。結局最後まで付き合ってもらっちゃって」

「いやいや、先輩が謝る事じゃないですって」



 会議の帰り道、会議の冒頭以外ほとんど発言の機会がなく、そのまま着席して暇を持て余すだけになってしまった俺達に対して、先輩がわざわざ謝罪してきてくれた。これに関しては途中で退室を願い出なかった俺達にも非があるし、そもそも先輩は何も悪くない。



「俺はともかく二人にはいい休息になったでしょうし」

「ん、寝てた」

「リーゼと一緒にしないでもらえる?」



 そうは言うが、シルヴィアも髪の毛をいじりながら暇そうにしていたのをばっちり目撃してるからな。まぁ、俺も周りの様子を観察しているくらいには手持無沙汰だったわけだけど。



「最近はあまり外に出ていなかったから、私も準備を進めないと」

「ん?今回は先輩も参加するんですか?」

「ええ、多分菊川さんも出ると思うわよ?もしあの場所が本当に迷宮ならの話だけど」



 へぇ、菊川さんに関しては先輩が参加するなら当然傍に付くだろうが、そもそも先輩がこういった依頼を受けるのはかなり珍しいというか、俺達の付き添いを除けば初じゃないか?



「目的は戦力増強だからね。軍人の中には見つけた貴重品をそのまま自分のものにする人もいるでしょうし、攻略はそういった心配のない人間のみで行われるって会議で言ってたんだけど…」

「…すみません、聞いてませんでした」



 だが言われてみれば、例え武器が見つかったとしても、それがトウキョウの利益になる使われ方をしなければ意味がない。極端な話、それを俺達が見つけて隠し通し、マーティンまで持ち帰ったりしたら、トウキョウにとってはむしろ損失ですらある。



「じゃあ、今回私達の出番は無し?」

「いえ、多分私達と一緒に行動してもらうことになると思うわ。というか、そういう方向で話を進める」

「我々で手っ取り早く攻略してしまうのが、他の方々にとっても最善でしょうから。他の方々だと、どうしても足並みにズレが生じてしまいますし」



 確かに、【曲芸師アクロバッター】と足並みを合わせるのは難しそうだ…という冗談は置いといて、それだけ二人の実力が飛びぬけているってことなんだろうな。



「勿論、私は英夢君達が物資を盗むだなんて思ってないけど…他の人達は、そういうわけにもいかないでしょうしね」

「まぁ、でしょうね」



 どれだけ功績を重ねても、所詮俺達は外の人間だ。頼りにされることはあっても、信用されることはないだろう。

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