176.二人の恩返し
「……暇」
「さっきからそればっかりだな。こればっかりはどうしようもないぞ」
あれから数日と経たない内に入り口の捜索作業が開始されたが、どうやら壁は結構な距離に広がっているらしく、作業開始から3日経過した今日まで、未だ入り口はその姿を見せていない。
勿論、それは俺達がこのカツロ山の前に3日間ずっと待機していることを意味する。以前の採掘作業とは異なり、中の人間も大人数で行動しているためか、怪我人やトラブルもほとんどなく、俺達がカツロ山の中に入ったのは3日間でたったの一回。リーゼが嘆くのも分からなくはない。
「いい加減、体が鈍って来た」
「つっても、俺達が動かないってのはそれだけ作業が順調に進んでる証拠だしなぁ」
因みに、シルヴィアは相も変わらず魔力制御の訓練だ。程々にしておけとは何度も言っているんだが、多分今日も疲れるまでここに戻ってくることはないと思う。シルヴィアは体の鈍りによる弊害が俺達よりも大きいし、あまり強く言えないんだよな。
「一番良いのは、入り口が今すぐ見つかる事」
「それはそうだけどよ、俺達や軍の人間じゃどうにもならないだろ」
入り口の場所に検討が付いているならともかく、建物の構造も分かっていない現状では手当たり次第に掘り進めるしか方法はない。こういうのは時間が解決してくれることだが、裏を返せば時間でしか解決できない。
「確か今日から土木系のスキルが使える
入り口が見つかる、とは言わない。多分存在しているとは思うが、確証があるわけじゃないしな。
「お、いたいた。おーい、アンタら!!」
「……ん?」
そんな感じで暇を持て余していると、俺達を呼ぶ声が聞こえる。いつもみたいに現場監督や入り口の門番かと思ったが、それにしては随分声が野太い。誰だ?
「久しぶりだな、大活躍だったみてぇじゃねぇか」
「アンタらは…」
「盗人」
「あー」
「その覚え方はひどいぜ…自業自得なんだけどよ」
俺達の目の前にやって来たのは、かつてカツロ山にて盗掘していたところを捕まえた二人組だ。ちょっと思い出すのに時間がかかった。
「足はもう良いのか?」
「おうよ、出血はちょっとやばかったが、幸いそこまで傷は深くなかったみたいでな」
「まぁ、完治してない状態で刑罰の依頼をこなしたから長引いちまったが、今ではこの通りさ」
確かに見た感じ、痛む様子も足を労わるような素振りもない。見た目は結構やばそうな感じだった記憶だが、意外とそうでもなかったらしい。
「んじゃ、二人も今は中の作業を?」
「ああ、採掘じゃなくて周囲警戒のほうだけどな」
「あれ、そっちなのか」
二人はもともとここの作業員だったらしいし、採掘作業の方が適していると思うんだけどな。
「いやぁそれが、あれから俺達、心を入れ替えてガンガン依頼をこなしてたんだけどよ?」
「いつの間にか、それが板に付いちまったと言うか…ぶっちゃけると、以前よりも稼げるようになった」
「……マジか」
危険度が段違いな分、以前よりも稼げるというのはある種当然なんだが、安定した収入を得られているというのは素直にすごいと思う。コボルドに殺されかけていたことを考えると、凄まじい成長速度だ。
「…で、突然どうしたの?私達を探してたみたいだけど」
「おっと、話に興が乗っちまって忘れるとこだったぜ…コイツを受け取って欲しいんだ」
二人から投げ渡されたのは、何かがこれでもかと詰められた布袋。触った感触だと、何か硬いものが詰められているようだ。詰め込まれ過ぎて、何かの衝撃で袋が破けてしまいそうなレベルだ。
「言っただろ?必ず借りは返すって」
「まぁ、開けてみてくれ」
言われた通り、袋の紐を解き、中を探ってみると…。
「これは…魔石か?」
「ああ、ホントは別の物にしようとしてたんだが、アンタらがいつまでこの街にいるのか分からねぇって話を聞いてな」
「単純に金にしようにも、見るからに金には困って無さそうだったし…何を渡そうかって、頭を悩ませてたんだよ」
そんな成金みたいな服装はしてないんだが…確かに金には困ってないけど。
「そんな時、デカイ兄ちゃんに教えてもらったんだ。アンタの武器は魔石を使うんだって」
「デカイ兄ちゃん?」
俺の周りでデカイ兄ちゃんってなると…菊川さんか?
だが、菊川さんにラル=フェスカについて教えたことはないはず…今日帰ったら、一度部屋を捜索してみるか。あの人が俺の情報を無闇に話すことはないと思うが、会議でも似たようなことがあったし、ちょっと不安になってきた。
(それにしても…よくこれだけ集めたな)
中身はほとんどがコボルドのものと思われるが、中にはサイズ的にかなり強力な部類の魔獣と思われるものまで入っている。
「これ、全部アンタらで?」
「勿論だ、今回は盗んだわけじゃないぜ」
この短期間でこれだけの量を二人だけで討伐したとなれば、収入が安定しているも納得だ。この街で頭角を現すのも、そう遠くないかもしれない。
「助かる。最近はほとんど狩りに出れてないから、そろそろ補給したいと思ってたんだ」
これはお世辞でもなんもない、本心からの言葉だ。なんせここ二週間ほど、ろくな戦闘をしてないからな。勿論その間は消費もしていないわけだが、その前にとんでもないヤツを相手取ったせいで、ラルの残弾はずっと余裕がない状態だった。
「本当に喜んでもらえるか不安だったが…その様子を見るに、無用な心配だったみたいだな」
「それじゃ、俺達は警戒作業に戻るぜ」
二人組はそう言い残し、再びカツロ山の中へと入っていった。
「良かったね、エイム」
「ああ」
更生するどころか、軍人としての才能を開花させたか…人ってのは変われるもんだな。
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