174.総司令と調査団長
「…以上が、昨日天崎さん達から送られた報告です。天崎さん、どこか相違点はありましたか?」
「いえ、大丈夫です」
翌日昼過ぎ、予想通り俺達三人と桜先輩は軍本部へと呼び出され、そのまま会議に出席する運びとなった。事態が急転するため最早常態化している気がするが、これは一応緊急会議だ。
メンバーは俺達に加え、葛城総司令、今日はどうやら正真さんも来ているようだ。トウキョウに着いてからはあまり目にする機会がなかったから、随分久しぶりな気がする。
それと、メンバーについて気になるというか、珍しいことがもう一つ。
(なんか、メンバーが変わってないか?)
流石にここまで何度も出席すると、会議に出席している人間の顔ぶれも何となく覚え始めていたが、今日は半数ほどの人員がいつもと違う。
そしてそのいつもと違う面々だが、俺の見る限りでは皆かなりの実力を有した人達だ。多分、オーガくらいなら単独でも何とかなりそうだ。なんとなく見覚えがある気がするので、調査団の人員か、ここ二週間の依頼に参加していた軍人なんじゃないかと思う。
「まさかあの山の内部に、そんなものがあるとは…」
「もう一度、山の爆破について議論すべきかもしれませんね」
俺の疑念をよそに、報告を聞いた出席者達で議論が始まった。その中には葛城総司令がかつて出案した山の爆破についての声もある。これだけ立て続けに悩みの種が顔を出せば、もういっそのこと更地にしてしまおうという考えも分からなくはない。
ただ、あの壁を含めて全て爆破させるとなると、その硬度からかなりの量の火薬が必要になると思う。それだけの物資を、今のトウキョウが用意できるかと言われれば、多分微妙な所だ。
「ちなみにだが、もしその壁の奥に迷宮が広がっていたとして…」
議論の途中、やけに重々しい正真さんの一声が、俺の耳元まで届いた。
「その中に、何か我々にとって利用できるようなものはあるのか?」
「利用できるようなもの、ですか?」
「そうだ。確か君の迷宮には、その銃と、
正真さんのその言葉を聞いた瞬間、他の幹部達の声がピタリと止み、辺りは静寂に包まれる。
…その話、正真さんや菊川さんにはしてないんだけどな。桜先輩は人の過去を好んで話すような人達じゃないし…隠してるわけでもないから別にいいけど。
何となく察するに、正真さんはカツロ山に新たな資源が眠っていることを期待しているんだと思う。確かにこの銃のような武器が見つかれば大きな戦力増強になるだろうし、それこそ
「俺はあの場所しか知らないので、何とも言えないですね。シルヴィア、何か分かるか?」
「そうですね…迷宮に関しては我々も分からないことが多いですが、確かに未知の魔導具や魔法武器が見つかることは珍しくありません。ただ、
へぇ…よくあるゲームのダンジョンみたいに、宝箱に入ってたりするんだろうか?だとしたらちょっと見てみたい。
「…総司令、どうだろうか?議論にあったように爆破してしまうのも手だが、一度中を探った方が良いように思う」
「確かにそうですね。勿論危険はありますが、もし中に迷宮があった場合、私達にとって強力な戦力になるかもしれません」
…正真さん、初めから中の様子を探る気だったな。調査団の戦力増強や、強力な外交カードを得るチャンスを逃したくないんだろう。
そして、葛城総司令もそうする予定だったように見える。魅力的な話なのは分かるが、いくら何でも簡単に誘導されすぎだ。正真さんの職業である【
「確かに、中の様子を確認もせずに抹消してしまうというのは、少し早計でしたね」
「現状の戦力ではいつか限界が来る。今のこの街には、防衛の要となるようなものが必要だ」
「ああ。もしあの山の中に、強力な武器が眠っていれば…」
先程までは様々な意見が飛び交っていた緊急会議は、一気にその方向が収束した。
(ここまで分かりやすいと、いっそ清々しいな)
この街を取り仕切る総司令と、外部との交流を担う正真さん。この街において絶大な影響力を持つ、この二人の意見が一致するということは、それはすなわち、全体の意見の一致となる。
二人の意見に反論するのは中々勇気がいるだろうし、もし何か反論したとしても論破されるのは目に見えているからな。
「………」
批判する気はない、時には強行突破も必要なことだ。だが今まで葛城総司令は、あくまで出席者全体の意見を重要視していたように思う。そんな総司令が、今回は強引な手段に打って出た。それの意味するところは、正真さんの介入があったか、それとも…
(…博打に出なければいけないほど、この街が切羽詰まった状況なのか)
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