82.攻略開始…?

翌日。



「……ここが入り口?」

「そうだよ」

「いかにも入り口といった感じね……これだけ見ると、本当にただの迷宮にしか見えないのだけど」



 シルヴィアの言う通り、大木(サイズがでかすぎて最早城壁といった感じだが)の一部に取って付けたような金属質の扉がはめ込まれており、その様子だけを見れば、ほとんどの人間には迷宮にしか見えないだろう。扉にはよく分からない紋様が刻まれ、その紋様がゆっくりと明滅している。



「……」

「あれ、リーゼは読める?」

「あの模様みたいなヤツ、字だったの?」

「……ごめん、何故か字だと決めつけてしまったわ」



 シルヴィアはあの紋様が何かの言語に見えたらしい。俺もリーゼと同じくただの模様としかみてなかったが、もしかしたらどこかで見覚えのある形なのかもな。とはいえ、シルヴィアが思い出せないなら今この場にいる人間では分かりようがない。



「とりあえず中に入ろう。中の構造は半分くらい頭に残ってるから、先導は私がする。戦闘時にはシルヴィが前衛、エイムが遊撃、私が後衛でいい?」

「ええ、了解よ。移動中は、私が真ん中が良いかしらね?」

「……ああ、それで行こう」



 俺は『危機察知』があるため、咄嗟の攻撃でも躱せる可能性がある。シルヴィアも同じようなスキルである『気配察知』が使えるが、トレントのような『気配察知』を無効化してくる魔獣が棲息している可能性もゼロじゃない。それを考えれば、一番理想的な編成と言えるだろう。


 昨日話を終えた後でもらった資料に記載されていた魔獣の生態は、シルヴィアに補足を入れてもらいながら粗方頭に入れてきた。だが当然、この里の人達もこの迷宮内をくまなく探索したわけではないので、把握漏れも存在するだろう。いつものことだが、油断は厳禁だ。



「……いくよ」



 体の何倍あるか分からない両開きの扉を、腕をいっぱいに広げてググっと押し込むようにしてゆっくりと開けていく。



「……なんで一人で開けようとするかね」



 二人どころか三人いるんだから協力すればいいだろうに。ということで、俺が片側を担当して二人で開ける。



(以外と重いな)



 扉は片側だけでも相当な重量がある。ゆっくりとはいえ、それを開けることができるリーゼ。見た目だけで言えばこの中で一番華奢だが、実際に一番貧弱なのは俺かもしれないな。


 俺達が入った後、扉はゆっくりとだが自動的に閉まっていく。出るときは扉を引かないといけないだろうから、今よりもしんどそうだな。帰りは間違いなく疲労が溜まってるだろうし。



 バタンッ



 ……今が丁度いいか。



「……エイム!?」



 扉が閉じた瞬間、俺はラルをホルスターから抜き出し、その銃口をリーゼへと向ける。



「──どうして俺の、答えてくれるよな?」

「……」

「え……?」



 昨日、リーゼに請われて耳を近づけた時に囁かれた衝撃の発言。



『【死神リーパー】のことなら知ってるから大丈夫だよ』



 ありえない、ありえるはずがない。なんせ俺の本当の職業を知っているのは、今俺の隣で驚愕の表情を浮かべるシルヴィアただ一人だけのはず。



「とりあえず昨日と今日で言いふらす気がないのは分かった。だけどな、それで安心できるほど、小さな秘密じゃないんだ」



 『勇者の冒険』に出てくる死神と、俺の職業である【死神】に、どのような関連性があるのかは今の所分かっていない。だが、むしろそれが未知であるからこそ、今はこの事実を他人に知られるわけにはいかない。



「……ん、いいよ。でも流石にそれは下げて欲しいかな」

「悪いがそれは無理だ。俺にとっては命を握られてるようなもんだからな」

「……むぅ、仕方ない」



 むしろ今この状況でようやくフェアな状況だ。






♢ ♢ ♢



─side Irise─



あれは今から一か月くらい前、まだ件の巨大ゴブリンが生きていたころ。



「……潰れろ、土弾ラルド

「GUGYAGYA!?」



 土の塊をぶつけ、一匹のゴブリンの頭を消失させる。



「……あ、頭壊したらだめなんだっけ」



 証明部位が回収できなくなっちゃった……ま、いっか。別に生活費は足りてるし、里に持ち帰っても使えるわけじゃない。



「GUGYA!!GUGYA!!」

「GUGYAGYA!!」



 早く里に帰りたいなぁ、あいつが現れる前の平和だった里に。人族の街は宿代とか食費とか、考えないといけないことが多すぎてなんだか窮屈に感じる。



「あの日々を取り戻すためにも、早く依頼相手に目途を付けなきゃ」

「GUGYAGYAGYA!!」

「──うるさい、多段マルチプル氷弾フロス



 目の前で騒いでいたゴブリン達を、数十に及ぶ氷弾で瞬時に凍り付かせる。瞬く間にゴブリンの氷像の完成だね。



「───」

「ん?どうしたの?」



 どこからともなく声が聞こえる、私だけが聞こえる精霊の声。基本的には一方的に話しかけてきて、いつの間にか消えていく。魔術スキルを行使するときにはいつも手を貸してくれるから、どこか近くにはいるんだろうけど、その姿を見られることはほとんどない。



「───」

「……へぇ、彼が」



 どうやら、軍の入隊試験で戦ったあの青年が精霊の感知範囲に引っかかったらしい。街の外で見つかるのは珍しいね。



(……やっぱり、異様な程精霊が反応している)



 精霊が私以外の人間にここまで興味を示すのは珍しい、というより初めて。どうやら精霊の声は聞こえてなかったみたいだけど…



(……よし)



「ねぇ」

「──」



「彼の場所、教えて?」

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