255.襲撃の翌朝

 翌朝、気持ち早めに目を覚ますと、そこには既にキリユの姿はなかった。暴れたために少し荒れたベッドだけが、昨晩の出来事が夢でなかったことを物語っている。



(本当に一体何だったんだ……)



 元より睡眠は浅い方なので、身体的には十分に休息できたと言って良い。だが精神的な面ではむしろ悪化してしまっている。



「おはよう、はやいわね」

「まぁ、いつもよりは寝たからな……おはよう、ふたりとも」

「ん、おはよ」



 どうやら二人とも既に起きていたらしい。昨日アレだけのハードスケジュールをこなしたというのに、二人の顔には眠気が見えない。



「そういう二人こそ、今日は随分はやいな」

「扉の開く音がした気がしたのよね、それで目が覚めたの」

「私も」

「……二人ともなら気のせいじゃないのかもな。私物が盗られたりとかは?」

「確認したけど、多分大丈夫」

(……絶対アイツだろ)



 心当たりがあり過ぎる。



「エイムも後で確認してみて」

「ああ。といっても、こっちも多分大丈夫だ。流石に寝室の扉を開けられたら嫌でも気が付く」

「んー、それもそうよね。やっぱり気のせいだったのかしら?」



 なるべく早く話題を流したいところではあるが、二人は勘が鋭い。絶対にボロを出さないためにも、ここで急いではいけない。



「あー、誰か起きてます?ちょっと伝えたいことがあるんスけど」



 そんな俺に、部屋の前の騎士が助け船を出してくれた。俺は早速とばかりに立ち上がり、二人に内心を悟らせないように注意しながら、部屋の扉を開ける。



「あれ、もう皆さん起きてるんスか?早いっすね」

「いつもよりは遅いんだけどな。それで?」

「ああはい。今日なんですけど、昨日の侵入経路とかを調べなきゃいけないんで、減るべく外出は控えるようにしてほしいそうッス」



 一応お願いという形ではあるが、これは……。



「実質、今日は軟禁状態ってことか」

「申し訳ないッスけど、そうなりますね。どうしてもという場合は、部屋前の騎士に目的地を伝えてくださいッス。城内であればすぐに許可が下りると思うんで」

「ああ、分かった」



 【勇者ブレイヴ】となった俊に会いに行くという、王都にやってきた一番の目的は既に達成したし、特に次の目的が決まっているわけでもない。体を動かせないのは少し辛いが、一日二日なら問題ないだろう。



「それじゃ、多分そろそろ自分は交代なんで」

「ご苦労様……いや、ちょっと待ってくれ」

「ん?どうしたんスか?」

「これよりも前に扉をノックしたか?二人が扉が開く音がしたと言っているんだが」

「え……?いや、これが初めてッスよ?」



 もしあればこれでシルヴィア達の疑念は晴れると思ったのだが、残念ながらそういうことにはならなかった。



「誰かが入ってきたりとかは?」

「あり得ないスよ。そもそも、部屋の前を通ったのも数えられるくらいなんスから」

「……お前が寝てた可能性は?」

「いやいや!流石に扉が開いても気付かないほど、爆睡したりはしないっスよ!」

「寝てたことは否定しないと」

「寝てもないッス!」

(アイツ、本当にどうやって入って来た)



 あそこまで大胆に部屋に入り込んでおいて、誰にも気が付かれてないってどういうことだ。昨日使われたらしい『誘惑チャーム』もそうだが、随分と王女には不似合いなスキルを所持している気がする。今度俊に彼女の職業について聞いてみよう。いたずらにそういった情報を聞くのはマナー違反な気もするが、向こうには寝込みを襲われているのでお互い様だろう。


 本当にこの男が眠りこけていた、という可能性も無くはないが、彼の言う通り、部屋への侵入と脱出の両方に気が付かないほど長時間寝ていたとは考えにくい。もしそうなら一発殴らなければならない。



「な、何か物騒なこと考えてないッスか?」

「気のせいだ……機密事項まで教えろとは言わないが、何かあったら俺達にも共有してくれ」

「了解ッス、交代の奴にも伝えておくッスね」



 食事に関しても部屋まで送り届けてくれるそうなので、今日は本当に一日この部屋で過ごすことになりそうだ。



「ふーん、やっぱり気のせいだったのかしら」

「外に出れない……暇そうだね」

「そうだな」



 目的は達成したので、少しくらいは王都を観光してみたいところであったが、それはそう少し先になりそうだ。





♢ ♢ ♢





 昨晩の宴で出た料理に勝るとも劣らない朝食に舌鼓をうった俺達は、早速暇な時間を持て余していた。



「訓練場とかないの?」

「あったはずだけど、私達が使わせてもらえれるかは微妙なところね。今は騎士団が城内に集められてるだろうから、彼らが独占してそうだわ」



 そもそも俺達が訓練するとなると、街中でやるのはかなりマズイ。本気で体を動かすつもりはなくても、もしものことがある。



「まぁ、そのうち俊達が遊びに来るんじゃないか?あいつらには騎士団も命令できないだろ」

「それは確かに」



 俊も俊で、空気を読んで必要以上に外出することはしないだろうが、どこかのタイミングで顔を出すくらいはしてくれる気がする。


 そんなことを考えていると、コンコンとノックの音が鳴る。



「そら来た」



 一番近くいたので、俺が部屋を扉を開ける。



「どうも」

「……えーと、どなたです?」

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