186.休息と考察
「WAOU!?」
サバイバルナイフで首を切り裂き、最後の一匹を仕留め終える。
「…ふぅ」
「丁度良いですね。一旦ここで小休憩を取りましょう」
「…いや、まだ私は」
「もし先輩が大丈夫だとしても、さっきから戦闘の間隔が短すぎます。休めるタイミングで休むべきです」
最初のコボルドのとの遭遇から、体感で一時間。最初は鳴りを潜めていたこの施設だが、徐々にその顔を現し始めた。この場所は魔石なしコボルド達の住処、一つの集落のようになっているらしい。つい今しがたも一仕事終え、計五匹のコボルドを葬り去ったところだ。
この場所は五人が体を休めるのに十分な広さがあり、入り口が一つしかなく、窓も非常に小さなものなので、体を休む場所としてはうってつけだと思う。これからもこのペースで遭遇し続けるなら、今このタイミングで休むべきだ。
「…分かった、英夢君の判断に従うわ」
「私も、少しお休みさせてもらっても?」
「ええ、見張りは俺がやります」
入り口が一箇所しかないとはいえ、やはり見張りは必要。道中はマッピング諸々で戦闘にあまり参加しなかった俺がやるべきだろう。実際この中で、一番消耗が少ないのは俺だろうしな。
逆に一番消耗が激しいのは、多分菊川さんだと思う。この中だと一番の重量武器である鉄剣を使っていることに加え、狭い屋内での戦闘が多かったため、どことなく動きにやりにくさが垣間見えていた。
「ちょっとショックだわ。まさかまたコボルドに苦戦する日が来るなんて」
「まぁ、どう考えても普通のコボルドではないですけどね」
「そもそも、コボルドなのかどうかすら怪しいですよ…」
適当に腰掛け、なるべくリラックスできる態勢を取りながら、俺達はコボルドとの戦闘を思い出す。
まず特筆すべき点と言えば、ここにいるコボルドは皆一様に魔石が存在していないことだろう。こんなこと普通なら有り得ないし、この中にも魔石のない魔獣について聞き覚えのある人間はいなかった。
そして、筋力や単純な戦闘力に比べ、異様に知能だけ発達した個体が多かったことにも違和感が残る。中にはしっかりと戦術立てた動きをした奴らまでいたくらいで、苦戦を強いられる場面もあった。
勿論、そうは言っても所詮はコボルド。苦戦を強いられたのも、貴重品を持ち帰るという別の目的があるため、あまり大胆な破壊行動を行えないというのが理由の大部分であり、それがなければ俺やリーゼで簡単に処理できるレベルのものだ。待ち伏せされても、壁ごとぶち抜けばそれで解決だしな。
「妙に動きが人間臭かった」
「それは少し思った。まるで人間の誰かから、戦いを教わったみたいな…」
「教わったというより、私は擦り込まれているように感じたわ」
「…それはどう違うんだ?」
シルヴィアの微妙な表現の違いに、若干の違和感を覚える。
「なんというか…人間の剣術の流派みたいなものを想像してみて欲しいのだけど」
「…?ああ」
「その中で、いくつかの型や技があるとする。流派の人は型を練習して、技を習得していくわけだけど…体格や性別の違いから、どうやってもその人の癖みたいなものって出るじゃない?」
「まぁ、確かに」
「多分それは魔獣でも同様だと思うのだけど…あのコボルド達には、それが無かったように感じたの。必ずしも適切な動作をしているわけじゃなくて、所々に体を無理やり制御しているような、そんな印象を受けたわ」
今までの戦闘で、そんなことまで読み取っていたのか。すげぇな。
「…その方法が想像できないとはいえ、かなり気になるな」
「そこなのよね。擦り込まれてるって感じたのは事実なんだけど、誰がやってるのか、どうやってやってるのかに関しては検討も付かないわ」
「…洗脳?」
「無くはないが、目的が分からんな」
正直、方法に関しては考えてもあまり意味はないと思う。この世界にはスキルなんて概念があるわけだし、その気になれば大抵のことはスキルで行えてしまうだろうからな。
だから、考えるべきはそれを誰がやったのか、そしてどんな目的でやったのか。まだシルヴィアの言う「刷り込み」の事実があったかどうかは分からないが、動機を逆算して考えていくことで、見えてくるものがあるかもしれない。
「仮にその刷り込みが誰かの手によって行われてるものだとして…その目的は?」
俺が投げかけた疑問に対し、この場の全員で考察してみる。
「まず考えられるのは、戦力の増強でしょうか。ゴブリンより上とはいえ、コボルドの知能はお世辞にも高いとは言えません。洗脳を行って、戦いを教え込む方が効果的なのかもしれません」
「なるほど…それはありそうですね」
「あとは…これはスキルによりものだとすると、自分のスキルを慣らすために使っているのかもね。コボルドは数が増えやすいし、元が弱いからスキルの上達も分かりやすそうだわ」
以前俺達の世界で行われていた、マウスを使った実験みたいなものか。確かにそれもありそうだな。
そんな感じで、みんなであれこれと意見を飛ばし合っていると、俺の耳に声とは違う何かが届く。
「…みんな、一旦静かに」
「…敵?」
「ああ、多分こっちには気付いている」
軍の人間じゃない、それにしては足音が軽すぎる。こちらにまっすぐ進んでいるし、狙いは俺達だろうな。どこかで取り逃がしてたか?
「俺が行ってくる。多分大丈夫だが、念のため体を動かせる状態にはしといてくれ」
今回は外が戦場になるから、俺が出ても問題ない。俺はそう判断し、ラル=フェスカを構えて建物から一気に飛び出す。相手にバレているなら、飛び出して意表を突く方が効果的だ。
「…っな!?」
だが、意表を突かれたのは俺の方だった。俺は思わず引き金を引く指を止め、目を見開く。
「WAOUUUU…」
「UUUUAAAOW!!」
「…嘘だろ」
相手はいつも通りコボルド。だが、今までのコボルドと明確に違う点が、そいつらには存在していた。
「……黒」
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