187.三匹の『黒』
通常のコボルドの体毛は様々だが、そのほとんどが灰色で、ここまで真っ黒の個体は見たことが無い。偶然黒い体毛をもった個体が生まれた可能性も存在しているが、それはない、と俺の勘が告げていた。
数は全部で三匹。体格にはそれほど変化は見られず、若干大きくなっているような気もする、というくらいだ。
「…落ち着け、アイツらはまだ黒にはなってない」
そう自分に言い聞かせ、動揺した心を落ち着ける。体は大きくない、人の言葉を話している様子もない。アイツらが黒になる素質を持っていたとしても、まだ「成りかけ」の状態であって、完全な姿ではないはず。
(相手は複数…油断は出来ないな)
複数となると、必然的に視界外からの攻撃も増えて来る。『死圧』ではなく『危機察知』を発動させておくべきか。
もし桜先輩や菊川さんが様子を見に来た時のことを考えると、使える手札も限られてくるが…
「WAOU!!」
俺が脳内で戦術を組み立てていると、痺れを切らした黒コボルド達が先制攻撃を仕掛けてきた。攻撃自体は単調な突進だが、その速度は通常のコボルドからは考えられないもの。やはりこいつら、普通のコボルドじゃないな。
相手の筋力が分からない以上、迂闊に迎撃するのは避けたい。ここは一旦回避を選択。急な方向転換も考慮して、上空に跳躍する。
「WAUNNN!!」
「「WANN!!」」
「なっ!?」
そうして一度攻撃を回避することに成功したのも束の間、二匹のコボルドが片足を使って急ブレーキをかけ、残りの一匹を協力して蹴り上げてることによって、こちらに弾き飛ばして来た。咄嗟にサバイバルナイフを構え、飛んできたコボルドを迎撃する態勢を取る。
(くっ…)
コボルドの短剣と俺のナイフ、空中での鍔迫り合いは、勢いがあった分向こうに軍配が上がる。俺は衝撃を逃がすため、敢えてその勢いに身を任せ、後ろに飛ばされることによって三匹から距離を取る。
地面に足を付け、土煙をあげながら勢いを殺しきった俺は、声を張り上げる。
「シルヴィア!!」
「はあああああああ!!」
建物から飛び出したのは、白銀の女剣士。俺の方を向いていたコボルド達にとっては背後からやって来た刺客であり、シルヴィアの超速では反応することもままならないはず。
だが二匹のコボルド達は、真後ろからの攻撃をまるで見えているかのようにギリギリで左右に跳躍して回避した。察知系…多分俺と同じ『危機察知』か。厄介な。
「エイム!こいつらは?」
「分からん!だが、相当強いぞコイツら」
その速度、筋力もさることながら、一番驚異的なのはこの三匹での連携だ。元々群れを為す生態のコボルドだが、ここまで見事な連携を繰り出されたことは俺の経験上存在しない。
黒いコボルド達は一連の戦闘で俺達を脅威と判断したのか、一箇所に固まり、それぞれの背中を守り合うような形で俺達に短剣を向けている。
「これは出し惜しみしてる場合じゃない」
俺にも背中を任せられる相手が現れたため、『危機察知』を『死圧』に切り替える。動きを完全に止めることは難しいだろうが、それでも牽制程度にはなるはずだ。実際、コボルド達の額には途端に汗が光り始めている。
「いくわよ!!」
「ああ!!」
まずは俺がフェスカの銃弾で奴らの地面を撃ち、土煙を起こして視界を塞ぐ。『危機察知』を使っているだろうからあまり意味を為さないかもしれないが、視界を塞ぐことが出来れば、少なくとも向こうから仕掛けてくる可能性は限りなく低くなる。
「はあああああ!!」
そしてその土煙ごとコボルド達を両断する勢いで、黒剣に魔力を纏わせたシルヴィアが突っ込んだ。『気配察知』を持っているシルヴィアは、あの煙の中のコボルドを正確に捉えている。
「WOU!!」
「WU!!」
だが、これでは先程の奇襲と同じように躱されてしまうだけ。だから、
「
三人目の仲間の力を借りる。地面から生えてきた狂気の華は、コボルド達に棘を刺し、その魔力を吸い取ろうとする。
「WAOU!?」
どうやら俺と鍔迫り合いを行ったコボルドは『危機察知』を持っていなかったらしく、その肌に棘が深く突き刺さった。見た目は細くか弱い棘だが、一度捕らえた餌を逃すことは無い。
残りの二匹は跳躍することにより、華から逃れることに成功した。だがそれは、俺達のシナリオ通り。
「空中なら、察知出来ても意味ないだろ!」
だからこそ、三人で協力してこの状況まで持ち込んだのだから。俺は宙に浮く当てやすい的に照準を当て、二匹のコボルドを撃ち抜き、声も出さぬままに絶命させた。
「WAOU……」
そしてリーゼの
これで人数差は逆転、流石に勝負あったな。
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