78.波乱の邂逅
「「「……!」」」
「……なんで急に襲ってきたのか、説明くらいは欲しいんだが?」
ダークエルフの面々は無言のまま、こちらへと武器を構えている。頭上を飛び越えれば包囲網から抜けることは出来るだろうし、何なら強硬突破も不可能ではないだろうが、それだと俺達がここへ来た目的が達成できない。
「待ってみんな、この人は敵じゃない」
「……アイリーゼは下がっていろ。結界が反応した者は、排除するのが掟だ」
「……でも」
リーゼは俺のことを庇おうとしてくれているようだが、まるで効果は無さそうだ。……結界が反応、か。俺が通った時にはビリビリと痛みが走ったが、一方でシルヴィアには何も起きていなさそうだ。流石に、やせ我慢とかそういうことをしているわけではないと思う。
「何事じゃ」
「……里長」
「父さん」
しばらくの間、お互いがお互いを牽制し合っていたのだが、突如としてダークエルフ達の包囲網が道を開けるように二つに割れる。そこを通ってやってきたのは、一人のダークエルフ。
リーゼの呟きから察するに、恐らくはリーゼの父親なんだろうが、その見た目はおおよそ父親とは思えないほど若々しい。よくよく見ると周りのダークエルフもリーゼと同年代っぽい人達がほとんどだな。
エルフを筆頭とした妖精族は長寿らしいし、見た目から年齢を判断するのは不可能ということなんだろう。もしかしたらリーゼも、とんでもなく年上だったするのかもしれない。
「……それを考えるのは女性的にNGよ、エイム」
「大丈夫、俺の思考を読めるのはシルヴィアくらいだから。ってか安易に近づくなよ、まだ緊張状態だぞ」
いつの間にか、シルヴィアが俺の隣まで来ていた。まだ包囲網は完全に解除されているわけではないんだが……どうやって入ってきたんだ。その一方でどうやらリーダー格らしいリーゼの父親は、周囲の人達に事情を聴いているらしい。その説明、俺にもしてくれねぇかな。
「騒がせてすまんな青年よ……わしはこの里で長をやっておる、ジングリーズ・ラルクウッドじゃ。お主の名を聞いても良いかのう?」
「……天崎英夢だ」
「天崎……日本人か?」
「ああ」
ジングリーズと名乗った男は、まるで全てを見通すかのような視線でこちらをじっと見つめる。嘘をつくことは許さないというような、そんな視線だ。
「1つ質問したい」
「……」
「お主がここへやってきた目的はなんじゃ?」
俺はしばらくの間熟考したあと上に指を指し、質問に答えを出す。
「あいつを倒しにきた」
俺の言葉を聞いた後、ジングリーズはしばしの間俺を見つめた後、
「……そうか、よろしく頼む」
「待ってくれよ里長!結界が反応した者は──」
「分かっておる。確かに我が里の結界は、我が里にとって不幸を持ち込む者を感知する結界。じゃが、この青年からは邪気が感じられん」
「そんなのいくらでも隠せるだろ!里長であるあんたが、里の掟を破るって言うのか!?」
「若いのがいつまでも掟に縛られてどうする。掟が作られた時とは、もう時代どころか世界すら違うのじゃよ」
どうやら二人の間にはそれなりの年齢差があるらしいが、見た目的には同年代だ。
「それにリーゼが連れてきたということは、少なくとも精霊様は認めているということじゃ」
「……ん。精霊が、彼なら大丈夫だって」
「なら大丈夫じゃろう……彼は日本人じゃ。流石の結界も、異世界の住人を正しく判別することは敵わなかったのかもしれぬな」
よく分からないが、とりあえず今すぐここを出ていくような事態にはならずに済みそうか?
「……分かったよ、だがこいつらの住居はどうするんだ?里に宿なんてないぞ」
「ひとまず我が家に招待しよう、もとよりそのつもりで準備を進めておったからな」
それでようやく納得したのか、ジングリーズと言い合いしていた男は周囲のダークエルフ達にハンドサインを送ると、どこかへ消え去った。多分、警戒任務に戻ったんだろうな。
「色々と迷惑をかけて済まぬな」
「いや、間を取り持ってくれてありがとうございます。それと、先ほどは失礼な言葉遣いをしてしまってすいません」
一応どちらの味方をするか分からなかったから、普段通りの口調で喋ってしまったが、この人はこの里のリーダー的存在。それは少し不味い気がしたので、敬語に切り替える。事実上の依頼主みたいなもんだしな。
「何、構わぬよ。重ね重ねで悪いが、もう少しここで待機してもらえるか?結界が反応したことで、中の民が緊張しておってな。誤解を解かねば、また面倒なことになるやもしれぬ」
「わかりました……シルヴィアもそれでいいか?」
「ええ」
「感謝する。そこの娘も、後ほど自己紹介といこう……リーゼ、付いてきてくれるか?」
「ん。わかった」
そう言ってジングリーズは、リーゼを連れて里の中へと入っていった。
「……悪いなシルヴィア。ここに来てから依頼を受けるか判断するって話だったのに、勢いで決めちまって」
「あの状況なら仕方ないわよ、気にしないで……はぁ、一体どうなることかと思ったわ」
「俺もだよ」
まさかここで躓くとは思っていなかったが、一応は理解を得られたようだ。
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