156.神の苛立ち
「くっ…」
爆風が辺りに立ち込め、俺達の視界を塞ぐ。アイツがこのくらいの攻防で大人しくやられてくれるとは思えない。まず間違いなくまだ生きているはず。
『危機察知』は常時発動状態だから俺が不意を打たれる心配はないし、シルヴィアも類似したスキルを持っているが、リーゼにはそのようなスキルがない。視界を別の場所に飛ばす『
流石の
「命の危険が差し迫ったときは、暗霊達が教えてくれると思うから大丈夫だよ」
「教えられてからアイツの速度に対応できるか?」
「…無理かも」
俺も反応出来るとは言えないが、近くにいれば『危機察知』が反応してくれる可能性も高まる。そして反応してくれさえすれば、少なくとも相手に先手を取られるという最悪の状況は回避できる。体を強張らせ、全身の感覚を研ぎ澄ませながら煙が晴れるのを待つ。
特に向こうからのアクションもなく、辺りの景色が鮮明になると、そこには…
「ふむ、少々評価を改めないといけないようだな」
「…流石にこれはちょっと厳しいわね」
「あの一撃を食らってもその程度かよ」
無傷ではない、だがそれだけだ。身体の所々に小さな傷は見られるものの、とてもさっきの一撃を食らった状態だとは思えない。咆哮を使って相殺したとはいえ、いくら何でも頑丈過ぎるだろ。
そしてこちらも無傷ってわけじゃない。シルヴィアはさっきの攻防で少なからず傷ついているし、俺は言わずもがな。俺達の方が見せた手札が多いことも考えると、こちらの方が失ったものが大きい。
「…マズイな」
俺達と
それは、今戦闘を行っている場所。
ここは鉱山の地下深くであり、もし崩落するようなことがあれば俺達はもれなく全員生き埋め。そして今、その危険性が現れた。
流石にすぐ崩落することは無いと思うが、このまま戦闘を続けていけば、まず間違いなく別の形で勝敗が決まる。両者敗北となるか、それとも俺達だけ死ぬのかは分からないが、少なくとも俺達に未来はない。
その未来を回避する一番の方法は早期に決着することだろうが、それだけの突破力は残念ながら俺達に存在しないんだよな。いや、俺達の突破力はそれなりだと思うが、向こうの防御力が高過ぎる。
「……楽園」
「ん?」
「ここは我にとっての楽園だった。誰にも干渉されることなく、ただ悠々と時を過ごすことが出来る。少々薄暗いが、それでも今までの生の中でこれ以上の場所は無かった」
「………」
ヤツがこれまで、どんな生活を送ってきたのか、初めから神として生まれたのか、それとも俺のようにどこかで神の職業を授かったのか、一から十まで分からないことだらけだ。
だが、並大抵の旅路を送って来ていないことだけは分かる。俺でさえ人間の尺度で測れば、一般的な生活を送れているとは言えない。『神』なんていう他と比べて明らかに異質な職業に就いてる存在が、他のやつらと変わらない生活を送っているとは思えない。
「そんな場所に、貴様が入ってきた。今思えば、我にも少なからず苛立ちという感情があったのだろう」
ここは誰の場所でもないと思うが、自分の居場所を見つけたのにもかかわらず、そこが荒らされるようなことがあれば、その感情が生まれるのも理解は出来る。俺達からすりゃ知ったこっちゃないけどな。
「一体どんなヤツが来たのか、そう思いながらも、我は静観を選んだ。だが貴様は、我の目の前にやってきた」
「静観?お前が俺をここに落としたんだろうが」
「何を言っている、お前がここまでやってきたのだろう」
「??」
なんだか会話が嚙み合っていない気がする、先程から何度かこういう場面があるし、俺達と
だがその違和感を解消するだけの猶予を、目の前の存在は許してくれない。
「貴様を一目見た時、力の差は歴然だと思った。実際その評価は間違いではなかった。だが同時に、間違いでもあった。貴様の真価は、使徒と掛け合わせて初めて発揮するものだった」
「……人という種族は、他の生物と比べてあまりにも脆い。だからこそ、俺達は数で抵抗するんだ」
「ああ、そうであったな。我も久しく忘れていたよ」
そういえば、狼も群れを為す生物だったな。「一匹狼」なんて言葉もあるが、確か基本的には家族単位の群れを形成する生物だったはずだ。
「先程の評価を撤回し、謝罪しよう。貴様は、いや貴様達は強い。だからこそ、我も本気で相手をする」
──
「「……え?」」
二人は突然の出来事に理解できていないようだ。恐らく、全身が激しく痙攣していることにも気付いていないのだろう。
俺は瞬時にシルヴィアの元まで移動し、首元を掴んでリーゼの元まで投げ飛ばす。かなり荒い扱いになってしまったが、この状況でアイツから視線を外すわけにはいかない。許してくれ、シルヴィア。
「…なるほどね」
ここから先は、神の職を持つ者だけが踏み入れられる領域。二人は神に抗えるだけの力を持っているが、それでも人という枠組みを逸脱しているわけじゃない。
「「エイム!!」」
「…どうした?」
二人の呼び声に、俺は後ろを振り返ることなく反応する。
「ナイフ、使えないんでしょ。これ使いなさい」
後ろから飛んできたのは、シルヴィアの新たな得物である黒剣。
「どうやら私は戦えないみたい、だからこれあげる」
リーゼのその言葉と共に、足元から植物が生え、俺の腕に絡みつく。
一体なんだと思ったが、その疑問はすぐに晴れた。植物から俺の体へと何かが送り込まれ、満たされていくのを感じる。
「これは、魔力?」
「ん。空っぽみたいだし、ここじゃあのスキルは使えないでしょ?」
「…ああ。二人とも、ありがとな」
二人の力を授かり、俺は神と対峙する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます