212.家族

「と、そうだ。俺達は先に港に寄っとくから、軍にはお嬢と坊主で行ってくれねーか?」

「え?」


 肉串の店主から聞いた通りに黄色い建物が見え、そろそろ入口に差し掛かると言ったところで、ガイさんから突然の申し出が舞い込んできた。



「港の人間に、何か必要の物がないか聞いてくるからよ。現地の人間だからこそ分かることとか、意外とあるもんだからな」

「それは構いませんけど…二人ですか?」



 ガイさんの言い分は分かるが、疑問なのはその振り分けだ。俺とシルヴィアで軍へと行き、リーゼだけガイさんについて行くってのはちょっとおかしい。



「エイム達の荷物事情が分かる人がこっちに一人は欲しいからねぇ」

「いや、それならシルヴィアか俺が行った方が」

「坊主は一応パーティのリーダーなんだから顔を出さないわけにはいかないだろ。それに、お嬢がこっちに来て坊主とリーゼちゃんが軍に行ったら軽く事案だぞ」

「……」



 俺とリーゼは二人とも全身黒ずくめ。しかもリーゼはフードを深く被り、余程近くまで覗き込まない限り顔は見えないような状態だ。確かに怪しまれる可能性は皆無とは言い難いが…



(絶対別の何かがあるよな)



 言い分は分かる。だが、わざわざまだ交友を深めていないリーゼを連れ出すほどの必要性は感じない。



「…まぁ、分かりました。リーゼは?」

「ん、別にいいよ」

「じゃあ一旦ここで別れようか。多分そっちが先に終わると思うから、港まで来ておくれ」

「了解です」






♢ ♢ ♢






「で、なんで私?」



 エイム・シルヴィアと別れた後、リーゼはガイとカルティに真意を問いただす。リーゼもエイムと同じく、この振り分けは妙に感じていたのだ。そして、自分に何かあるんだろうとも。



「いや何、たいした事じゃねぇ。俺らはまだリーゼちゃんのことを詳しく知らねぇからな」

「これから同じ任務を遂行する身だ、ある程度は互いのことを知っておくべきだろう?」

「…なるほど」



 何故あの二人を引き剥がすような行動に出たのか、という疑問はまだ残るものの、一応は納得する。二人の前だと聞きづらいようなこともあるだろう。



「勿論、話したくないようなことを無理に話せとは言わないよ?リーゼちゃんは種族的に秘密も多いだろうしねぇ」



 街を出る前に簡単な自己紹介は済ませ、リーゼがダークエルフであることもその時に明かしてある。だが移動中はガイがずっと運転を担当していたこともあり、それ以上の会話はあまり出来ずにいた。



「まぁ、なんで二人と組むことにしたのかってのは話して欲しいところだけどな」

「そうだねぇ。あの二人がどうやってお眼鏡に適ったのか…」



 別に不満や思うところがあるわけではない。ガイとカルティも、二人なら問題ないと思っている。種族差別思想は無いし、実力の方は言うまでもないだろう。



 二人が理由を聞きたがったのは、単純な好奇心と、なぜリーゼがあの二人を選んだのか、ということ。「適任」という観点だけを見れば、別にあの二人である必要はない。


 彼女のスキルや職業を考えれば、多少種族の問題があっても引く手数多だったことは想像に難くない。場合によっては、今以上の好待遇でパーティーの一員に迎えられることも可能だったはず。少なくともガイとカルティはそう考えていた。



「富や名声に興味はない…私は里長の娘。里に居れば、将来は安泰。あの二人と一緒に居たくて森を出たんだから、二人と組む以外の選択肢はなかった」

「ほう…」



 その選択肢はない、と恥じらいもなく言い放つリーゼに対し、ガイとカルティは感心したような目線でリーゼを見つめる。



「随分二人のことを気に入ったみたいだねぇ」

「…何度も助けられれば、気に入りもする」

「ガッハッハ!それもそうか!」



 豪快な笑い声を見せるガイにジト目を向けつつも、今度はリーゼから質問をする。



「二人こそ、なんでエイムとシルヴィを気にかけるの?」



 エイムとシルヴィアの二人から、ガイとカルティがそういうたちなのは聞いていたものの、リーゼの目には些かそれが行き過ぎているように見えていた。



「んー…まぁ、特に深い理由があるわけじゃねぇんだけどよ」

「なんとなく、自分の子供のように思っちまうんだよねぇ。二人はもう成人しているし、今更子供扱いされるのも嫌だろうけど…どこか危うい所があるというか」



 二人は子供に恵まれなかった。仮に授かったとしても、今の世界では無事に育てきれたかどうかは定かではないので特に気にしていなかったものの、どこか構いたがりの衝動のようなものがあったらしい。



「自分の子供にしちゃ、ちと育ち過ぎだがな。どっちかって言うと年の離れた兄弟ってとこか?」

「そうだねぇ。あたし的にはリーゼちゃんも娘みたいなんだけど」

「…私、二人よりもずっと年上だよ」



 今度はカルティにジト目を向けるリーゼ。精神的な年齢で言えば二人の方が上かもしれないが、そもそもリーゼには本当の両親が存在しているのだ。

 エイムのように、孤独の身という訳ではない。



(…あれ?)



 とそこで、リーゼはあることに気づく。



(そういえば、シルヴィの家族って…)

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