勇者と死神
211.ヨコハマへ
「ここが?」
「ああ、ヨコハマ……のはずだ」
トウキョウを去りマーティンに一度戻った俺は、親友との再会を果たすために、王都と本土との中継地点、ヨコハマを訪れた。
王都は太平洋に浮かぶように存在しているため、当然訪れるためには船が必要になるが、そして海にも魔獣は生息しているので、生半可な船では航海に耐えられない。そもそも船を動かした経験もないので、俺達だけで王都を訪れるのは不可能。
(総司令には感謝しないとな)
そこで俺達は、マーティンのカイン総司令を頼った。丁度良く物資輸送船の護衛任務の席が開いていたため、その任務を受けさせて貰った。
海の魔獣は地上よりも強力な個体が多く、海という非常に戦いにくい環境下であるため、生半可な者では任せられないから助かった、と逆に感謝されてしまった。
流石に最近我儘を言い過ぎな気もするので、今度何かしらお返しを考えておこう。
だが、如何せん俺達は数が少ない。目的が魔獣の討伐なら実力があれば問題ないが、護衛となると手が回らなく可能性がある。サイス総司令としても三人だけで任務を任せるわけにはいかず、追加の人員を寄越してくれていた。
「なんやかんやで、坊主達と任務を受けるのは初めてになるか」
「そうだね、今回はよろしく頼むよ」
「こちらこそよろしくお願いします。ガイさん、カルティさん」
そう、ガイさんとカルティさんだ。俺達の都合に巻き込んで申し訳ない気持ちでいっぱいだが、二人も王国を訪れたことはないそうで、楽しみにしてくれているのが救いかな。
因みに、四人には既に目的の人物が【
「にしても……マーティンに比べると随分防衛が薄いな」
ガイさんの言う通り、マーティンやトウキョウは防衛都市らしく凄まじい高さの防壁が築かれていたが、ここの防壁は俺の二倍程度、その気になれば跳び越えられるような高さだ。
「ここは海の連絡口ってこともあって、腕の立つ軍人が多く在籍しているからね。そこらの魔獣じゃ相手にもならないんだと思うよ」
「だが、最近は黒の魔獣だの十王だの色々と物騒じゃねぇか。いくら何でもそいつらに対抗できるような戦力じゃないだろ?」
「それは言ってもしょうがですよ、防衛設備は数日でどうこう出来るものじゃないですし」
そう言いながら、俺はヨコハマの街を見つめる。
残念ながら『混沌の一日』以前の横浜を訪れたことは無かったため、昔の横浜の姿というものが分からないが、おおよそテレビの向こう側に映っていたあの光景からはかけ離れたものが俺の瞳には映っているように思う。
トウキョウは象徴とも言える電波塔が残っていたが、こっちにはそんな感じの象徴的な建物が残っていないので、変わり様はより大きく感じてしまうな。
(何というか……とても異世界)
王国と本土の中継地点ということが起因しているのか、人の活気は今まで見てきた街の中で一番と言えるだろう。俺達と同じような軍人、肌を真っ黒に焼いた船乗り、果ては頭部に動物の大きな耳を付けた獣人など、様々な人種、種族が共存している。
もし俺が迷宮から出て初めて訪れた街がヨコハマだったら、異世界に転移してしまったと勘違いしていたかもしれない。
「……まぁ、もうほとんど異世界みたいなもんだけど」
「ん?」
「ああいや、何でもない。確か一度軍に顔を出すんだったな?」
思わず口にしてしまったセリフを誤魔化すため、俺はシルヴィアに話しかける。
「ええ。そこで任務の内容を確認して、それから船長に会うことになっているわ」
「なら早速向かうか」
「その前に軽く腹ごしらえしていこうぜ。海の街の料理って、ちょっと楽しみにしてたんだ」
それは同感なので、ガイさんの要望通り道すがらの屋台でつまみながら向かうことにした。串料理なんかで片手が塞がっている通行人も多いので、マナー的にも問題ないだろうし。
「意外と肉料理が多いんだな」
「海鮮系はここらでも値が張っちまうからなぁ。鮮度管理も難しいし、屋台だと出しずれぇんだ」
ガイさんと店主の会話を横に流しながら、俺は肉串に齧り付く。やはり海が近いからか、塩が効いていて少々塩辛い。これはこれでうまいが、ずっとこの味付けだと舌がおかしくなりそうだ。
「アンタら外の人間だろ?今回は任務か?」
「ああ、輸送船の護衛だ」
「ならそん時の楽しみに取っときな。鮮度抜群の海の幸にありつけると思うからよ」
「ほう、それは楽しみだな」
「ところで、軍の場所を聞いても良いかい?」
「おうよ。そこの道を真っ直ぐ行ったところにある黄色の建物だ、デカイから見ればすぐ分かると思うぜ」
親切な店主に礼を言って、俺達は軍へと向かう。
(もうすぐで、アイツらに会える)
俺は逸る気持ちを抑えるため、肉串に思い切り齧り付いた。
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