幕間.預言者
「菊川、報告を」
「は。再開したカツロ山の採掘は想定通りの進行速度で進んでおります。コボルドの数が激減したことにより、見積もり以上になるかとも思ったのですが…」
「仕方あるまい。軍で働けるのであれば、そちらの方が懐に余裕が出来るからな」
エイム達が出て行ってからしばらく経った後のトウキョウでは、取り戻した活気を絶やさないため、みな一様に忙しい日々が続いていた。
一連の問題が解決した解決したカツロ山だが、この半年の期間で軍人としての生活基盤を確立したものの中には、そのまま以前の仕事に戻らずに生活することを選んだ者も一定数いる。あの不法侵入者二人がいい例だろう。
カツロ山の管理が正真の手に渡ったことにより、内部の労働環境や福利厚生も充実しつつあるが、単純な収入で言えば流石に軍の稼ぎには敵わない。それだけ軍の仕事が危険であり、供給が不足している仕事だからだ。
「それに軍備を増強できるのは悪いことではない…桜はどうだ?」
「あれからより一層訓練に力を入れています。恐らく、後衛としてお嬢様に肩を並べられる人材はこの街にいなくなるかと」
ただでさえ、以前から才能に溢れ努力も怠らない桜は街の中でも頭一つ抜けていたのだ。そんな桜が今まで以上に努力を重ねれば、そうなることは想像に難くない。
「上がさらに上へと駆け上がれば、下もそれに引っ張られる…だろうか」
「あまりに速いと、付いていけなくなりそうですが」
「むぅ…そこまでか」
菊川は桜の世話人ではあるが、決して彼女を贔屓目に見ることはない。そんなことを桜が望むはずが無いし、彼女のためにもならないと分かっているからだ。
そんな菊川が、「下が追い付けなくなる可能性がある」と評価した。それを聞いた正真の胸内には、複雑な感情が湧き上がる。
(恐らく、彼らの姿を見て思うところがあったのだろう…無理をしないと良いが)
どこまで行っても父親な正真の心境を察し、菊川は小さく苦笑いを浮かべる。
「…まぁ、どちらにせよ軍備の拡張は進むのだ。後ろの者達には何とか喰らいついてもらいたいものだな」
「ええ」
「防衛設備の方は?」
「そちらも滞りなく…と言いたいところですが、耐火設備に関しては」
「何か問題が?」
「単純に資材不足です。資金力もそうですが、我々だけでは輸送にも限度がありますから」
手渡された資料に目を通しながら、正真の表情は険しくなる。
「これでは間に合わんか…」
「正直に申しますと、期限が無謀過ぎるかと…本当に来るのですか?」
菊川にしては珍しく、正真に対して訝し気な表情を浮かべた。それだけ彼にとって、自分の主の言葉が信じがたいことだったのだろう。
「私としても信じ難いことではあるのだがな…今までの経験から判断するのであれば来るだろう、確実に」
「………」
「…間に合わないのであれば、優先すべきは避難ルートの確立だ。非常時のマニュアルに目を通しておくように、団員だけでなく一般市民や軍の方にもそれとなく伝えておいてくれ」
「は。ルートに問題がないかも併せて確認致します」
「頼む」
一礼した菊川が出ていった後、正真は目を瞑り、数週間前に脳裏に映った光景を思い浮かべる。
トウキョウに突如として出現した炎の巨人が、街を破壊していく光景を。その炎に巻き込まれ、全身を焼かれる娘の姿を。
「…急がなければ」
【
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