45.入隊受付にて

 軍本部の中に入ると、入り口付近は待合室みたいになっていた。



「試験はどこで受ければ?」

「あっちね」



 シルヴィアが指さした先は、他の受付と比べても結構な人が並んでいる。意外と志望者は多いらしい。



「とりあえず軍に入隊できれば職には困らなくなるからね、仕事は溢れるほどあるから」

「……あれだけ志望者が多くて、人手不足なのか?」

「あそこにいる全員が合格するわけないでしょ、全体の一割でも合格すればいい方よ。あそこにいる人たちも、ほとんどは再受験者ね」

「軍としても、実力のない奴を無駄死にさせるつもりはないからな。人手不足とはいえ、入隊基準を下げたりはしねぇ」



 命の危険が常に付きまとう軍だが、それでも志望者が溢れるくらいの人気職らしい……厳しい世の中だと思うのは、俺がまだ以前の価値観を捨てきれていないからなのだろうか。


 朝食で少し時間を使ったものの、まだ朝は早い。この時間であの量なら、昼間はすごいことになりそうだ。



「とりあえず並ぶか」

「その間に私達は任務の報告に行ってくるよ。多分私達の方が先に終わると思うけど……そうだね、もし先に終わったらあそこで待っといてくれ」

「頑張れよ。ま、坊主ならまず問題ないとは思うがな」

「分かりました、行ってきます」



 ああいう長蛇の列に並ぶのってあんまり好きじゃないんだが……文句を言ってられる状況じゃないな。






♢ ♢ ♢






「次の方~」



 三人と一旦別れ、長蛇の列に並ぶこと約三十分。ようやく俺の番が回ってきた。




「ようこそ、ここは軍の入隊試験受付です。あなたは入隊希望者で間違いありませんか?」



 受付のお姉さんは日本人だった。別に街でも普通に見かけていたが、この施設では少し珍しい。



「はい」

「ではまず受験料として、銅貨一枚の支払いをお願いします」



 どうやら受験に料金が必要らしい、まぁ当然か。街の入り口でもらった生活費の中から支払う。



「はい、受け取りました。ではこちらの用紙に記入を」



 差し出された一枚の用紙には、名前、使用武器、職業やスキル、その他にいくつかの記入欄がある。



「これ、全部書かなきゃだめですか?」

「名前と職業は必須です。その他については任意ですが、こちらとしては仕事を紹介するときに役立ちますので、なるべく記入することをお願いしています」



 なるほど、【銃士ガンナー】って書いたら武器を隠す意味はないな、武器は記入しておこう。【銃士ガンナー】がどんなスキルを持っているのか分からないが、とりあえず持っていてもおかしくなさそうなスキルをいくつか記入しておく。


 年齢は……二十歳だったな、住所はとりあえず空欄でいいか。宿で生活する人も多いらしいし、空欄でも違和感はないだろう。



「……あなたはここを受験するのは初めてですか?」



 記入している途中、お姉さんが話しかけてきた。今までの事務的な話し方とは違い、少しフランクに感じる。



「そうですけど、それが何か?」

「ああいえ、特に問題は無いのです……私はここの受付を初めてから長いのですが、あなたのような髪色の方は始めて見たので」

「ああ、なんか珍しいらしいですね」



 確かガイさんと床屋の人もそんなことを言っていた気がする。



「学校で色々言われたんで、あまりいい思い出はないですけどね」

「学校?もしかして日本人でした?」

「そうですよ、そうは見えませんか?」



 髪の毛以外は極々一般的な日本人顔だと思うんだが…



「確かにちょっと日本人ぽい方とは思いましたが、その髪色を見て日本人だとは思いませんよ」

「そんなもんですか」

「あ、気を悪くしたならごめんなさいね?」

「いえいえ、大丈夫ですよ。これでいいですかね?」



 雑談している間に記入が終わったので、お姉さんに用紙を差し出す。



「確認します……はい、問題ありません。これは受験資格の証です」



 渡されたのは、一枚の木板。板には番号が書かれている。



「順番が回ってきたらその番号が呼ばれますので、そうしたらあそこから試験会場に向かってください」

「分かりました」

「と言ってもあなたで丁度三十人なので、すぐに呼ばれると思いますよ」

「あ、まとめて試験する感じなんですね」

「一日に結構な数を捌かなければいけませんからね、一人一人試験している余裕はないんですよ」



 どんな試験を行うのかは知らないが、試験官もそれほど大人数用意しているわけではないだろうし、一人ずつ行うというのは確かに無理な話か。



「○○番から○○番の方、試験会場に向かってください!」

「ほら」

「ほんとですね。じゃ、行ってきます」

「頑張ってください、私としても日本人が軍に入隊していただけるのは嬉しいですからね。応援していますよ」

「ありがとうございます」



 会場に集まった人達は、確かに日本人の割合が少ない。やっぱりこんな状況でも、少数派の肩身は狭いんだろうか。実力主義っぽい場所だから、あまりそういうイメージはないけど。



「おし、集まったな!まずは木板をこちらに渡してくれ」



 わらわらと試験官の元に集まり、木板を渡す。



「ではこれより、〈マーティン〉軍・入隊試験を開始する!」



 さぁ、いよいよ試験開始だ──。


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