193.嫌らしい思考

「といっても、どうやって探すつもり?」

「まずは手当たり次第、それで無理そうならもう一度考える」



 ざっと見まわした感じ、目に見えてわかる扉は存在していないようなので、恐らく施設の入り口のようにどこかに仕掛けが隠されているんだと思う。あの場所とは違って床は掘れそうにないが、壁なんかに仕掛けがある可能性は十分にある。



(ま、魔術的な仕掛けだとほとんど詰みなんだけど…)



 言っても不安を煽ってしまうだけなので口にしないが、もし魔力を流す仕掛けや、魔術を使って初めて分かるようなタイプの扉の場合、俺達で発見するのはかなり難しい。流石にこの部屋の道具全てに魔力を流していたら俺でもガス欠になるし、扉じゃなくて変な仕掛けが作動してしまいそうだ。



 壁のくぼみに手を触れてみたり、机の下を覗き込んでみたり、とにかく手当たり次第で部屋を物色していく。このメンバーに斥候職が居ないというのが、ここに来てかなりの痛手になっている気がするな。戻ったらそっち方面のスキルも取得を目指してみるべきかもしれない。



「私もお手伝いします」

「お願いします」



 菊川さんも参戦し、俺達は三人で手分けをして捜索する。だがその努力も虚しく、どれだけ捜索を続けても、それらしいものはどこにも見つからない。



「うーん…あそこみたいに、床下にあったりするのかしら?」

「となると掘るというか、床を剝がさないといけないわけだが…うーん」



 施設の扉の前例があったから、そこらへんも気にしつつ捜索していたんだが、床下に空間は無さそうなんだよな。あの時は気にしていなかったから分からなかったが、歩いたときの音を聞けば、下に空間があるかどうかくらいは分かる。



「…だめだ、全く分からん」

「諦めるわけにはいかないのだけど…正直、匙を投げたい気分よ」



 ここまで探して見つからないってことは、多分、普通に探してちゃ見つからないんだろうな…というか、何故こちら側の扉を隠す必要があるんだ?


 ここに入って来るなら、俺達が通って来たルートを使わない限り、その隠された扉から入ってくるはず。そうなると、この部屋への侵入者は扉の場所を分かっているのだから、扉を隠す必要はない。開閉のスイッチを隠すのは分かるが、扉自体を隠すのは、あまり意味のない行為なんじゃないかと思う。



「それはどうでしょう?これだけ捜索しても見つからないほど入念に隠されているのであれば、侵入者を閉じ込めることは可能だと思いますよ」

「それはそうかもしれませんけど…あまり意味のある行為ではないというか、やり過ぎなように思うんですよね」

「何千年も前の人達の思考なんて、考えるだけ無駄でしょ」



 若干投げやりな思考になっているらしいリーゼは、俺の疑問にいい加減な解答をしてそのまま天を仰ぐ。まぁ、ちょっとイライラしてしまう気持ちも分からなくはない。



「……ん?」



 そんな様子のシルヴィアに苦笑いを浮かべていると、シルヴィアが突然何かに気付いたようにこちらに話しかけてきた。



「…ねぇ」

「ん、どうした?」

「あれ、スイッチみたいに見えない?」



 シルヴィアが指を指した方向は…天井?



「…確かに。見えなくもないというか、完全にスイッチだな、あれは」

「ええ、全く気が付きませんでしたよ…地面の次は天井ですか」

「ここの図面を引いた人は、随分嫌らしい思考を持ってるみたいね」

「ああ…古代人の気持ちは分からねーよ、本当に」



 ってかあれ、どうやって押すんだよ。この中で一番体の大きい、菊川さんが手を伸ばしても届きそうにない。



「机かなんかを踏み台にするしか無さそうね」

「ここに来ている奴は、毎回そんなめんどくさいことをやってたのかよ…」

「古代に生きている人々は、私達よりも巨体だったという線もありますよ」



 確かにそれはあり…いや、それなら扉や道具もそれに合わせて大きくなるはずだから、その線はないんじゃないか?



「とにかく、何か上に乗るものをここまで運びましょう」

「ああ、そうしよう」



 勿論、あのボタンは扉を開閉するためのものではなく、侵入者用の罠という可能性もある。それならあんな分かりにくいうえに押しにくい場所に設置するのかとも思うが、これまでの経緯から考えると十分にあり得る。


 だが、押さなければ進展がないのもまた事実。罠なら押し通れば良いというか、押し通るしかない。



 シルヴィアが手頃な机を見つけたので、それを二人で協力してボタンの位置まで運ぼうと机を持ち上げる。



「あれ?なんだかこの机…」



 ──ゴトンッ。



「…今何か、いやな音が聞こえた気がする」

「奇遇だな、俺もだ」



 机は持ち上がらず、糸で動かせないように固定されていた。これだけ凄まじい技術を持っておきながら、こういうところは古典的なのな。



「って、そんなこと気にしてる場合じゃないか!」

「英夢君!壁が!」



 壁の方へと目を向けると、今まで俺達コボルドを遮っていた壁が、轟音を鳴らしながら地面に沈んでいくところだった。外の光と共に、コボルド達が流れ込んで来る光景が俺達の目に映る。



「WOUNN!!」

「WAOOOON!」



「……不味いな」

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