194.黒と灰の軍勢
「菊川さん、武器は?」
「…このナイフなら」
菊川さんが手にしたナイフは、バターナイフかと見間違うほどに小さい。というかあれバターナイフだろ、いくら何でも魔獣相手には役不足だ。
「なら、ひとまずこれを渡しておきます」
俺は途中で大剣を捨てて来てしまった菊川さんにサバイバルナイフを渡し、ラル=フェスカを構え、大量のコボルド達と対峙する。
コボルドは全員がこちらに対して明確な敵意を持って睨みつけており、その体を黒く染めた、一回り大きい個体も何体か見える。あいつらの相手をするときは絶対に油断しちゃいけない。
「…行くぞ」
俺は地面に靴の跡を残し、コボルド達の渦中へとその身一つで飛び込む。
「WOUA!!」
「WAOUWAAA!!」
「来いッ!!」
コボルド達はそんな俺に対し、我先にと奪い合うかのような勢いで俺に飛びかかって来た。俺は体を回転させながらラル=フェスカを乱発し、コボルドの波を崩していく。
「はあああああああ!!」
そして、波を崩すものがもう一人、シルヴィアは一振りで三匹のコボルドを切り捨てた後、勢いそのままに黒コボルドへと斬りかかる。
「WOUAAA!!」
「甘いわっ!」
黒コボルドは手にした棍棒で対抗し、刹那の間拮抗したが、黒剣はすぐにその棍棒をたたき割り、そのままコボルドの体を両断し、鮮血を飛び散らせる。
「接近戦は厳しいと思う。腕力は中々よ」
「了解だ」
サバイバルナイフを渡してしまったこともあり、今の俺に近接戦闘は難しい。流石にこの状態で、あいつら相手に肉弾戦を挑む勇気はない。
「
リーゼも土塊を幾つも生み出し、それを確実に急所に当てることによって、近づくコボルド達は丁寧に処理していっている。魔力がそろそろ厳しそうだと思っていたが、あの様子だとまだもうしばらくは大丈夫そうか。
「ちょこまかしても無駄よ!!」
「通しません!」
桜先輩と菊川さんはコボルドを殺すのではなく、目や足元を狙うことによって無力化することを優先しているようだ。先輩もそろそろ矢の残量が底を付き始めている。リーゼとは違い、そこまで近接戦闘は得意じゃないだろうから、こちらは長期戦になると厳しいかもしれない。
「…ねぇ、なんか向こうの方に見えない?」
「…ああ、何かあるな。何かは全く分からないけど」
シルヴィアが示す先にあるのは、水晶のような巨大な球体。形は
さっきまであの場所には、普通に建物があったはずなんだが…建物はカモフラージュだったってことか。
「……コルネラの繭」
「…ん?なんだそれは?」
「あそこの資料にあった。人工魔獣の作成を自動化したもの…資料だとまだ構想段階だったはずなんだけど」
「…できれば構想段階で止まっておいて欲しかったよ」
つまりあれは、半永久的にコボルドが生み出されるってことか?古代人め、とんでもないものを残しやがったな。
「素材がどれだけ貯め込まれてるか知らないけど…構想だと、素材の貯蓄も自動化されてた」
「…なぁそれ、もしかしてだけどよ」
「ん?」
「この場所が眠っていた数千年の間、コボルドを生み出すための素材が貯め込まれてた可能性があるってことか?」
もしそうだとすると、ヤバイなんて話じゃない。あれを破壊しない限り、無限にコボルドが襲い掛かるということになる。
「距離はギリギリだが…!」
あれはすぐにでも破壊した方がいい。そう判断した俺は、ラルの銃口をコルネラの繭へと向け、引き金を引く。
銃弾はコボルドの間を掻い潜り、真っ直ぐにコルネラの繭へと向かっていったが…。
「あん?」
繭へと向かっていった銃弾は、繭の前で何かぶつかり、そのまますべるように繭の頭上を通り抜けていってしまった。
「コルネラの繭には、表面に斥力場が形成されてる。破壊は諦めた方が良い」
「つっても、破壊しないことには逃げられないぞ」
俺一人だけというのならともかく、五人全員がここを切り抜けるためには、こいつらを一掃しなければならないが、無限に湧いてくるならそれも難しい。
「きゃあ!?」
「!?…先輩!!」
俺達がコルネラの繭に意識を奪われている間に、黒コボルドが二匹、先輩達の方へと向かってしまっていた。
「WOUAA!!」
「くっ…!」
菊川さんがナイフで一匹の黒コボルドと対峙するが、リーチの差もあって攻撃を捌ききることが出来ていない。捌けなかった攻撃は持ち前の身軽さで対処しているものの、あれだと時間の問題だ。
「WOAA!!」
「このっ、近づかないで!!」
先輩も急所を狙い確実に仕留めようとするが、なまじ知能があるせいで腕を使って防がれてしまっているようだ。そして矢自体は大したダメージになっていない。
「邪魔だッ!」
俺は近くのコボルドを踏み台にして、先輩へと襲い掛かるコボルドへと掴みかかる。黒コボルドはすぐに引き剝がそうとするが、
「先輩!!」
「やぁっ!!」
「WAOUA!?」
その隙を狙い、先輩の矢が黒コボルドの瞳を貫いた。この状況下でその正確な射撃は流石としか言えない。俺は痛みに呻くコボルドに銃口を直接当て、そのまま引き金を引いて絶命させる。鮮血が体に飛び散るが、今はそんなこと気にしてられない。
「WAOUAAAA!!」
黒のコボルドが、雄たけびを上げる。
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