3.崩れ落ちる日常
「……しませんよ、まだ死にたくないんで」
そんなことがあの父、学園の理事長にバレれば、社会的にも物理的にも殺されかねない。というか、更衣室にもカードキーによるロックがかけられるので、ロックを忘れでもしない限りそもそも不可能だ。
数分程で手早く片付けを済ませ、同じタイミングで先輩も着替えを終えたので、一緒に校門まで向かう、全校生徒が4000人を超えるそこそこなマンモス校のため、校門までは結構な距離がある。
「そういえば英夢君、来年はどうするの?行きたい大学とか見つかった?」
「うーん……そもそも、大学に進学するかどうか怪しいですね」
いろいろあって、俺の両親はふたりともいない。学費は学校側からの支援によってほとんど無償で通わせてもらっているが、生活費なんかは姉に頼り切りの状況だ。
まぁ、姉の収入から考えれば問題はないかもしれないが、大して目標もないのに大金を払ってもらうのは申し訳ない。
「え?大学いかないの!?」
「え、ええ……」
俺の回答がよほど意外だったのか、先輩は掴みかかろうとしてるんじゃないかと勘違いするほどの勢いで顔を近づけてきた。確かにこのエリート校に通っているのに、就職を考えているのは俺くらいかもしれない。
「そもそも推薦をもらわなきゃ、高校にも通うつもりなかったですから」
そういえばなんで推薦もらえたんだろうな、俺。別に中学の頃に弓道部に所属していたわけでもないし(そもそも弓道部はなかった)、いまだに謎である。
「ふ~ん……(ま、大学の方からよってきそうだけど)」
「ん?大学がなんて言いました?」
「こっちの話よ、気にしないで」
♢ ♢ ♢
そうやってお互いの近況を話しているうちに、校門までたどり着いた。そこに止まっているのは一台のリムジン、先輩の出迎えだ。
普段は割とフランクに話してくれているのであまり意識していないが、こういうところを見るとお嬢様だと実感するな。
「英夢君、乗ってかない?家まで送るわよ」
「いえ、すぐ近くなので」
俺の家はここから歩いて十分程度なので、本当に近い。別に高級車に乗ると緊張してしまうから嫌というわけではない、本当だ。
「そっか。じゃ、ここで。修学旅行楽しんでね、お土産期待しても?」
「……ええ、勿論。それでは、また」
そういえば、俺が行かない事を言っていなかったな。まぁ、他の部員がなにかしら買ってくるだろう。車に乗った先輩を見送った俺は、その足で帰路に向かう。
「……ナァオ」
帰り道の途中、登校時にいた黒猫にまた出会った。ここらへんは整備されているので野良猫はなかなか現れないから、誰かが手放したのかもしれない、首輪の類もつけてないし。
「……」
黒猫はじっとこちらを見つめてくる。朝あった時にも思ったが、愛らしい見た目をしているのになぜか不気味に感じるんだよな。
結局特に相手をすることもなくそのまま過ぎ去ったが、それからしばらく、黒猫のことが頭の片隅に残ったままだった。
♢ ♢ ♢
「ただいま~と」
誰もいない家に帰宅。姉は海外で仕事をしているので、家に帰ってくることは滅多にない。だから基本的にこの家にいるのは俺一人だけだ。
一人になった頃はいろいろと苦労もしたが、今では手馴れたもの。逆に姉が返ってくると面倒にすら感じる。姉も一人暮らしのはずなのに、なんであんなにずぼらなんだろうか。
制服を脱いで私服に着替え、テレビをつける。最近めっきりバラエティなんかは見なくなってしまったが、試験のためにニュースだけは軽く目を通すようにしている。
「本日のニュースです。ここ数ケ月の間に続々と姿を現した古代遺跡ですが、今度はインド洋沖に出現しました。現地の考古学者によると、今回の遺跡は──」
丁度昼食のときに話していた古代遺跡に関するニュースだ。中には未知の言語で書かれた書物なんかも見つかっているらしいし、ホントに不思議な話だ。
「ナァオ」
「……ん?」
なにやら聞き覚えのあるある声がしたので窓の方へ眼をむけると、件の猫がいた。ついてきたのか、こいつ。
何かしたわけじゃないんだが、気に入られたんだろうか。爪で窓をガリガリされても困るので窓を開けてやる。──ん?
まて、窓を開けてないのに普通に鳴き声が聞こえるのはおかしくないか?
「にゃーん」
「あ、おい……」
黒猫は窓を開けた途端機嫌のよさそうな声をあげ、家の中へと入ってきた。賃貸ではないので別に入られても問題はないが、土足は正直勘弁してほしいんだが……
「──見つけた」
「は?」
一人のはずなのに俺ではない声が聞こえ、思わず振り向いたその時、
ズドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!
「うおっ!?」
地面が激しく揺れだした。あまりに激しいその揺れに、俺は机の下にもぐるという選択肢が頭からすり抜け、転倒を防ぐために壁に背中を預けそのままずるりと床に座り込む。
これはただの地震じゃねぇぞ……!
そう、これはただの地震ではなかった、というより地震ですらなかった。
「──は?」
次の瞬間、俺は宙を舞った。いや、この表現は正しくないだろう。正確には地面が、俺が座り込んでいた床が消失した。そして支えを失った俺は勿論、
「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
それからしばらくして、すべてのテレビ局が臨時でニュースを開始し、こんな報道がなされたという。
「臨時ニュースです!世界各地で出現していた古代遺跡が、突如として日本各地にも出現しました!今までの遺跡とは異なり、一般の居住区にも出現が確認されているようです!出現した遺跡近隣にお住まいの皆さんは、地盤沈下などの危険性があるため速やかに避難を──」
世界の歯車は、大きく狂いだす──。
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