16.去る者塞ぐ
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
「ええ、先導よろしくね?」
「はい」
お互いの質問が一段落ついたところで、俺達は出会った湖へと向かう。どうやら出口までの道自体は記憶しているのだが、途中にいる化け物が一人ではどうにもならず、湖を疑似的な拠点として迂回路を探していたらしい。
だが一人でどうにもならないなら、協力してそいつを排除すればいいだろう。俺もここにいるすべての生物と戦闘しているわけではないので絶対に勝てるとは言い切れないが、無理そうならそれはそれで一旦見切りをつけて引き返せばいい。俺もシルヴィアも、引き際を見誤るような真似はしない。
「……ねぇ、思ったんだけどさ」
「はい、何でしょう?」
「その口調、よそ行きでしょ」
……突然藪から棒になんだろうか、まぁそうだけど。普段の口調が少々偉そうというか、生意気に見られがちなのは自覚しているので、余程親しい間柄でもない限り口調には気を遣っている。
「別にいつも通りでいいわよ」
「いや、でも」
「別に偉いわけでもないのにそんな丁寧な口調されると、なんだかむずむずしちゃうのよね。だから無理にとは言わないけど、できればお願いしたいくらいなんだけど」
日本なら学年が上がって後輩が出来れば敬語を使われるなんて当たり前だが、シルヴィアの世界だと違うんだろうか。
ここで口調を変えて生意気だと思われる可能性もあるが、まぁ嫌われても出口までは一緒に行動してくれるだろう。
「分かった、これでいいか?」
「ええ、助かるわ」
「まさか口調を崩してお礼を言われる日が来るとはな」
「あはは!確かに、考えてみると変な話ね。でも自分のことを助けてくれた恩人に敬語を使わせておいて、私だけこんな口調なのも変な話でしょ?」
……俺からすればシルヴィアの方が地獄に現れた救世主みたいなもんだったが、どうやらそうに思っていたのはお互い様だったらしい。
「確かにそうで……そうだな」
「……もしかして無理してる?」
「いや、長いこと会話してなかったからな。ちょっと自分の口調が思い出せないんだよ」
意識して敬語を話すことはよくあったが、自分の素の口調を意識して話すことなんてなかったからな。意識してみると意外と難しい。
「まぁそのうち慣れると思う」
「そう?」
「ああ」
♢ ♢ ♢
それから湖へと辿り着き、そこからはシルヴィアの先導で出口の方向を向かう。シルヴィアの足取りに迷いはない、この代り映えしない景色の中で道順を完全に把握しているらしい。
「……もうそろそろよ」
「了解。そういや聞いてなかったが、件の化け物ってどんな生物なんだ?」
劣化ケルベロスとの戦闘を見る限り、素人目に見てもシルヴィアはかなりの実力者だ。俺は一撃で爆散させてるが、あいつは自慢の脚力を駆使して得物を刈り取り、そのスピードを攻略しても半端な火力だとスキルで瞬時に回復する厄介極まりない相手だ。
そんな強敵の一番の武器であるスピードで互角に張り合うシルヴィアが、ここにいる生物に対してそうそう遅れをとるとは思えないんだが……最悪無理やり走り抜ければ脱出は出来そうだし。
「そういえば言ってなかったわね。……あれを生物と言っていいのか分からないけど」
「何?」
一体どういうことだろうか?
「まぁ簡潔に言うと──下がって、エイム!」
「!!」
シルヴィアが警告よりも早く、常時発動させていた『危機察知』に反応が出た。方向は下。すばやく跳躍してその場から飛び退く。
ズドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!
けたたましい音を立てて硬い床から這い出てきたのは──。
「……なるほど。確かに生物とは言い難い」
「でしょ?」
通路を塞ぐほどの巨体を持つ石のゴーレム。周囲と同化しているのか、足元が通路にまだ入ったままだ。あれがあいつのスキルだろうか。
「───」
ゴーレムは発声器官がないのか声を出すことはないが、雰囲気でこちらに敵意を向けていることは分かる。
「ここの番人か?」
「入ってくるときは邪魔してこなかったんだけどね」
来るものは拒まず、去る者は塞ぐってことか。
「頭吹き飛ばせば機能停止したりしねぇか?」
「そう思ったんだけど、ね!」
シルヴィアは走り出してゴーレムに接近する、相変わらず凄まじいスピードだ。
「ハァァァァ!!」
剣に手をかけ、一閃する。すると斬撃は衝撃波となって、ゴーレムの頭部に直撃するが…
「───」
「こんな感じ」
「なるほどね…」
スパっと切れて地面に落ちた頭は一人でに動き出し、念力のような謎の力で宙を舞ってそのまま元の位置に戻ってしまった。不死身かよ。
「とりあえず、俺も確かめてみるよ。銃ならなんとかなるかもしれない」
「オッケー、なにか手伝うこととかある?」
「いや、ないとは思うが誤射が怖い。後ろにいてくれ」
流石にそんなヘマはしでかさないと思うが、今まで誤射なんて気にする必要なかったからな。シルヴィアのスピードで射線に入られたら反応できない可能性もあるし、念のためだ。
「分かったわ、後ろの警戒しておくわね」
「頼んだ」
まさかここにいる間に背中を任せられる相手ができるとはな。シルヴィアの実力なら安心して任せられる。
……とはいえ、完全にシルヴィアを信じきっているわけではない。質問の中でも一つ、俺は嘘をついた。
「【
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