31.ガイとの語らい 後編

 直近の目的は収入を得ることだが、生活が安定したら俊やなぎさとか、その他にも安否を確認したい人はいる。それを行動に移そうと思った時、軍の仕事が弊害になるのはなるべく避けたい。



「そこまで重いペナルティは特にない。流石に仕事中に放りだしたりしたらその限りじゃないが、基本的には多少の罰金を払わなければいけない程度だな。何かあるのか?」

「友人を探したいんです。拠点にいればいいんですけど、そう簡単にはいかない気がするんですよね」



 高校の奴らはともかく、あの姉が大人しくひとつの場所に留まっているとは思えない。そもそも日本にいるのかすら謎だ。



「なるほどな……良ければ名前を教えてもらっていいか?俺なら軍の名簿を確認できるから、もし軍に所属しているなら居場所を突き止められるぞ」

「ほんとですか?」

「ああ、あくまで第一拠点の軍所属者だけに限定されるがな」



 それは願ってもない申し出だ。俺はガイさんに数人の名前を教える。個人情報を他人に教えることになるが、名前くらいは問題ないだろう。



「……少し話が逸れちゃいましたけど、脱退に関しても問題なさそうですし、拠点に到着したら試験を受けてみようと思います」

「助かるぜ。坊主が加入してくれれば、軍としてもかなり余裕ができそうだ……で、ここからが本題なんだが」

「え?」



 まだ何かあるのらしい。俺は構わないが、ガイさんはそろそろ寝ないときつくないか?まさかこのままカルティさんとの交代の時間まで起きるつもりじゃないだろうし。



「軍では所属者の生存率の上昇のため、なるべくチームを組むことが推奨されている。単独で活動する奴も、任務の度に臨時でパーティーを組むのが普通だ」



 迷宮内で自分しか頼れるものがなかったから身に染みて実感しているが、自分一人で出来ることというのは非常に少ない。


 例えば戦闘ひとつとっても、単独と複数だととれる選択肢の数に雲泥の差がある。選択肢が多いというのは、それだけ戦闘を有利に運べる可能性が高いということだ。軍がそれを奨励するのも当然のことだと思う。



「それでなんだが……坊主には、お嬢と組んでほしいんだ。臨時じゃなくて、正規に」

「え?」

「勘違いすんじゃねぇぞ?別に俺達がお嬢のことを足手まといだとか思ってるわけじゃねぇ、むしろ逆だ」



 一呼吸おいて、ガイさんは言葉を続ける。



「俺とカルティは正規にパーティーを組んでるんだが、実はお嬢とは臨時で組んでるだけなんだ。といっても、最近は毎回組んでいるから、ほとんど正規に組んでるようなものだけどな」

「そうだったんですか」

「詳細は伏せるが、お嬢は仲間を失うことに異常なほど恐れを抱いている。だから絶対に信頼できる奴としか組まないし、任務の内容もいざとなれば自分一人でなんとかできるようなレベルのものばかりだ」

「……」

「最近は俺達を信用してくれたのか徐々に難解な任務にも赴くようになってくれたが、そろそろ俺達も限界だ。実際この任務では危うくお嬢を死なせるところだった」



 信頼できる人としか組まないことは普通だと思うが、ガイさんがここで挙げるということはそれが異常なレベルなんだと思う。



「本来なら俺達がもっと上を目指すべきなんだろう。まだまだ現役だし、鍛錬を怠るつもりはねぇ。だけど俺達がお嬢の位置まで辿り着くころには、きっとお嬢はもっと高みへ登ってる。悔しいが、俺達じゃ追い付けねぇ」

「だから、それを俺に?」

「坊主はよく分からないかもしれねぇが、お嬢が初対面の相手にあそこまで気を許すのは珍しい。実力的にも認めてるようだしな。軍としても、お嬢のためにも、ここでお嬢を立ち止まらせてる場合じゃねぇんだよ、頼む」



 そのまま頭を下げるガイさん。本気でシルヴィアのためを思っているんだろう……正規パーティーか。何度も同じメンバーで任務に向かえばそれだけ連携の質も上がるし、他にもメリットは多いように思える。だが、



「すいません、ちょっと考えさせてください」



 俺の場合弊害も多い。まず俺の職業、これに関しては情報を集めて【死神リーパー】の世間的な扱いがどうなのかを調べないといけない。もしこれが隠さなければいけないような職業だった場合、同じメンバーで何度も任務を行うということはそれだけボロが出る可能性が高まるということだ。


 それに三人は俺のことを評価してくれているようだが、だからといって自ら望んで危険な任務を受けるつもりはない。勿論必要に駆られれば危険でも挑戦するが、できる限り避けたいのが本音だ。



「……そうか。いや、そうだよな。この場ですぐに決めてくれってのは無理があるよな」

「……すみません」

「謝らないでくれ。ここで断られなかっただけでも、俺は嬉しいんだ」



 ニカッと豪快な笑みを見せるガイさん。話を聞く限りシルヴィアとはあくまで他人のようだが、何故そこまで親身になって彼女のことを考えるんだろうか。



「というか、これシルヴィアに話してます?本人置いてけぼりな気がするんですけど」

「お嬢も考えてるようだが、さっき言った通り仲間を失うことを恐れているからな。今ではもう仲間を作る事すらビビっているように感じる」

「……」

「……少し長話をしすぎたな、これ以上は明日に響く。悪いが時間になるまで任せていいか?」

「ええ、元々そのつもりでしたから」

「助かるぜ、それじゃ」



 手をヒラヒラと振りながら、ガイさんはテントに戻った。


 迷宮の魔獣に対してあそこまで勇敢に立ち向かったシルヴィアが、仲間を作ることを恐れている、か。いった何があったんだろうな……。



 そんなことを考えながら、俺は一人の夜を過ごした。

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