51.アルスエイデン王国

「ここよ」

「……なんか神殿みたいだな」



 シルヴィアの案内で来た場所は、テレビや世界史の教科書に載っているような白色の建物。こんな場所に所蔵してあるのか。


「さっきも行ったけど、以前本は貴重品だったからね。高級品には、それなりの装飾が施されるものよ」

「そんなもんか」



 確かに、ちょっと高いお菓子とかは包装紙も高級感のあるやつ使ったりするもんな。



「ご利用ですか?」

「はい、みんなはどうする?」

「私はパス」

「俺達も遠慮しておく、ちょっと寄るとこがあるんでな」

「了解、じゃ一人で」

「では銅貨五枚になります、ご利用についての説明はどうされますか?」

「初めてなので、お願いします」

「畏まりました。ご利用料金については省略しても大丈夫ですね。まず、閲覧可能エリアについてですが、一階と二階全てが利用可能エリアになります。三階以降のエリアについては閲覧に特別な許可が必要になります」



 へぇ、そんなエリアもあるのか。どうすれば許可が下りるんだろう。



「本の内容を外部に伝えたり、写本したりするのは自由ですが、買取や持ち出しは禁止となっております。その点はご了承ください。紙とペンが必要な場合、各階の受付にて販売もしておりますので気軽にご利用ください」



 日本とは違い、本の貸し出しは行っていないらしい。個人的にはこの場で読めればいいので問題はない。



「特定の本をお探しの場合、受付に質問してくださればお答えできます。お客様は初めての利用とのことですが、何かご希望の本はございますか?」

「特定の、というわけではないですが、歴史について書かれた本を読もうと思っているんですが…」

「それでしたら二階になりますね、より詳細なジャンルをご希望の場合は二階の受付にてお願いします」

「分かりました」

「最後に、本を破損等されてしまった場合には罰金として、一律銀貨5枚を請求することになります。くれぐれもお気を付けください」

「了解しました」



 入館料の10倍か、中々手厳しい。



「それでは、ごゆっくりどうぞ」

「じゃ、エイム。今日は一日家でのんびりしてるから、好きな時に帰ってきて。でも夕飯までには帰ってきてもらえると嬉しいかな」

「了解、流石にそんなかからないと思うけどな」



 そこまで俺の目は活字に耐えられないと思う。






♢ ♢ ♢






 図書館に籠ってどれくらいの時間が経ったか、館内には時計がなかったので分からないが、結構な時間が経ったはず。だがお陰で、相当な情報を頭に詰め込むことができた。



 まず、このマーティンがあった国は、アルスエイデン王国というらしい。現在は王都が、ほとんどの街が日本に出現してしまったため、領土問題は大分面倒くさいことになっているそうだ。


 そして王都だが、どうやら海にも空にも魔獣が蔓延っており、王都─日本列島間の連絡がかなり難しくなっているそうだ。そして原因は判明していないが、その魔獣が以前の情報よりかなり強力で、それにより連絡がさらに難航しているらしい。



 次にアルスエイデン王国、並びに他の国の種族について。どうやらシルヴィア達の世界には、よく小説で出てくるようなエルフやドワーフなんかの妖精族。さらに体の一部に動物的な特徴を持つ獣人族なんかも生息していたみたいだ。


 これらの別種族は総じて亜人種とまとめられているそうだが、その扱いについては国によってまちまちで、アルスエイデン王国はかなり寛容な方で、ドワーフに至っては自治領があったらしい。だが反対に別の国では奴隷以外で生活しているものがいないなど、本当に雲泥の差だ。



(というか、あるのか奴隷制)



 別の資料を読み漁っていると、どうやらアルスエイデン王国にも奴隷制は存在していたそうだ。だが奴隷になるのはいわゆる犯罪奴隷のみ、貧困によって奴隷になることはまずないらしい。


 現代社会に生きていた身としては少し受け入れがたい制度だが、別に俺が関わらなければいい話だ。郷に入っては郷に従えだな。



 それとできれば『混沌の一日』以降の情報も頭に入れておきたかったのだが、受付に聞いてみるとまだ製本されたものは少ないらしい。様々な情報が錯綜しているため、街で情報統制のために製本を規制しているそうだ。わずかな書物については許可が必要なエリアに集められているらしく、少なくとも今の俺に閲覧は不可能だと言われてしまった。



(なるべく情報は共有した方が、軍の生存率も上がると思うんだけどな…)



 まぁデマ情報が流れてしまう危険性も考慮した上での判断なんだろう。そこらへんのバランスは俺には想像できないし、口を挟むのもおかしな話か。



「……そろそろ戻らないとな」



 そんなにかからないとシルヴィアに言ったのに、気付けば日が傾きかけている。こんなに読書に没頭したのはいつぶりだろう。もしかたら初めてかもしれない。



 図書館を出て、夕日が差し込む街並みを一人歩く。この通りはどうやら大通りらしく、昨日とは違い夜が近づくにつれて徐々に活気が溢れ始めている。三年前は鬱陶しいとしか思っていなかったが、久しぶりに見ると良いものだな。


 少し大通りから外れ、帰路へと足を進める。まだ一度しか訪れていないが、結構道は覚えられる方だ。迷宮でも鍛えられたしな。



「いい加減にしてもらえるかしら?」



 同じく三年間で鍛えられた耳が、聞き覚えのある声を拾った。先を急いだ方が良いかもしれない。

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