71.久々の休日
翌日。しばらく働き詰めの日々が続いていたので、そろそろ休憩を入れようということで、二人で相談して今日は一日休息を取ることにした。
「まずはどこに行くんだ?」
「とりあえず武器屋に行ってもいい?そろそろメンテナンスをお願いしたいから」
ということで、最初は武器屋に向かう。俺のラル=フェスカもお願いしたいところだが、残念ながらマーティンに銃のメンテナンスをお願いできる武器屋は存在していない。どうやら俺の他に銃使いはいないらしいし、こればっかりは仕方ない。
「すいませーん」
「……いらっしゃい」
シルヴィアがやってきたのは、ガイさんのおすすめで俺がナイフを購入した場所だ。あの時にも思ったが、やっぱ不愛想な人だな。ガイさんやシルヴィアが通っているくらいだし、腕は確かなんだろうけど。
「メンテナンスをお願いします」
「あいよ」
店主は剣を受け取り、鞘から引き抜いて厳しい目でそれを見つめる。
「……こりゃマズイな」
「え?」
「まだあと少しはもつだろうが、剣の限界が近い」
「……そんな、手入れは欠かさなかったのに」
店主の言葉を聞いたシルヴィアは、ちょっと落ち込んでいるようだ。自分の得物って、使えば使うほど愛着が湧くんだよな。
俺ももしラル=フェスカに限界が来たなんて言われたら、かなりショックを受けると思う。俺の場合、次の銃を探すのにも苦労しそうだ。
「武器ってのは消耗品だ。例え俺が毎日手入れしたとしても、限界はある」
「……」
「……まだしばらくは問題ない。良いのが打てたら教えてやるから、それまでに代金を用意しとくんだな」
言い方はあれだが、彼なりにシルヴィアをフォローしているらしい。
「……ほら、完了だ」
「……ありがとうございます」
「来週、もう一度来い。定期的に俺が診れば、多少は寿命を伸ばせる」
「分かりました」
シルヴィアの手に戻された剣は、まるで新品かのような光沢を取り戻している。素人目に見てる限りは会話の合間に済ませたみたいな感じだったが、あの何気ない動作一つ一つに、職人の技術が込められているんだろうな。
「稼ぐ理由、また一つ増えちまったな」
「……そうね、また明日から頑張らないと」
最初は落ち込んでいたシルヴィアだが、店主の励ましのおかげか多少は元気を取り戻したようだ。良かった、折角の休日なのに落ち込まれたら、こっちまで気持ちが沈んじまうからな。
「明日から頑張るためにも、今日は精一杯リラックスするわ。行ってみたかったお店があるの、付き合ってくれる?」
「ああ、勿論」
♢ ♢ ♢
「パンケーキセットを一つ、飲み物は紅茶の砂糖たっぷりで。エイムはどうする?」
「あー……じゃあ俺も同じのを。飲み物はコーヒーのブラックで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
やってきたのは、シルヴィアの家の近くに最近できたらしい喫茶店だ。俺がこの街に来た時にはすでにあったが、確かに外見や内装に真新しさがある。
せっかくの快晴ということもあり、一番外側のテラス席を選んだ。ここらへんは整備されていて治安もいいから、外の景色が綺麗だな。テラス席はまだちらほら空きがあるものの、もう少し時間が経てば満席になりそうな感じだ。
「ユミコさんに教えてもらったんだけど、ここのパンケーキがおいしいらしいのよ」
「結構仲良くなってんのな」
事務的な話しかしている印象はなかったが、意外と交友は深めていっているらしい。あまりそういう印象はなかったが、シルヴィアもそういう話をするんだな。
「私がというより、ユミコさんが話好きなのよ」
「あー、それは分かる」
入隊受付の時も色々質問してきたし。はじめは少し固めの印象があったが、今ではふわふわしたお姉さんといったイメージだ。多分シルヴィアも同じような印象を抱いてるんじゃないだろうか。
「お待たせしました。パンケーキセットになります」
「ありがとう」
「……これはまた」
分厚いパンケーキに、これでもかと生クリームが使われている。なんなら生クリームの方が体積はデカイ。食べきれるか心配だが、まぁ残してもシルヴィアが食べてくれるだろ。
「ごゆっくりどうぞ~」
「それじゃ早速」
「ああ」
「「いただきます」」
クリームをたっぷりと絡めて、まずは一口…これは、
「ん~~~~!!おいしい!!」
「うまいな」
どちらかいうと甘さ控えめのクリームで、全くと言っていいほどクドさがない。舌触りも滑らかで、口の中で程よく主張したあとにスーッと消えていく。由美子さんがおすすめするのも納得だ。
ふと周りを見渡してみると、ほとんどの客がパンケーキを注文しているようだ……というか、今気付いたが女性客ばかりだな。少数の男性も、明らかに女性の付き添いと言った感じだ。
(ま、俺もそうなんだけど……ん?)
突然、どこからか視線を感じた。しかもいつもと違い、シルヴィアに悪意が向いている様子はない。男性客が珍しいのかとも思ったが、別に男性客は俺だけじゃない。
(それに視線の方向は……外だな)
しばらくしても視線は離れない、俺は視線の方向へと顔を向ける。向ける方向は店内の反対側、つまり街道側だ。
「一体なんのよう……」
「こんにちは。久しぶりだね、エイム」
視線の主は、入隊試験で激戦を繰り広げた黒ローブ、リーゼだった。
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