140.大量討伐依頼

「さてと、依頼内容は…」

「…コボルドの討伐?」



 朝食を終え、改めて依頼書を読んだ俺達は、みな一様に首を傾げる。


 コボルドはそこまで強力な魔獣とは言えず、この依頼が不人気なのは少々不自然だ。コボルド程度の魔獣に街の軍人が怖気づいているようなら、この都市は既に魔獣達の手に落ちているはず。



「よーく内容をご確認ください、備考欄を読めば理由が分かると思います」

「……あ」

「『最低討伐数100』…なるほどね」

「なんでまたこんな内容に…」



 いくらコボルドと言えど、三桁討伐となれば俺達でも油断は出来ない。報酬も普通のコボルド討伐依頼よりは多少割高なのかもしれないが、それでもこれが出来る軍人は他の割の良い依頼を選択するだろう。



「これ、なんでこんな条件を設けたんです?」



 討伐場所にも指定があり、しっかりとカツロ山の名前が記載されている。つまりは今カツロ山を巣食っているコボルドの纏まった頭数を減らしたいということなんだろうが、それなら数の制限を設けず、たくさんの軍人に依頼した方が良いと思う。



「確実にカツロ山のコボルドを討伐してもらうためです。現状だと、カツロ山のコボルドとそれ以外のコボルド、その見分けがつきません。こうして数の制限を設けておけば、嫌でもカツロ山の中に入って討伐を進めなければなりませんので」

「ああ、そういうことですか」

「勿論それ以外の場所を生業とするコボルドも脅威ではあるのですが、今お願いしたいのはあくまでカツロ山の攻略ですからね」



 それで依頼が埃を被っていたら意味がない気がするが、そういうことなら仕方ないか。下手に割高な依頼を用意してしまうと、外のコボルドが取り合いになる、なんて事態にも発展してしまうかもしれない。



「依頼の報告に関してですが、緑色の窓口にこの依頼書と、討伐証明を出せば完了となります」

「そういえば、コボルドの証明部位は?」

「右耳、ですね。ゴブリンと同一ですよ」



 それは分かりやすいな、助かる。



「証明部位はこれに入れて持ち帰ってください。臭いを通さない特殊な加工が行われた革袋です」

「ありがとうございます…なんか如何にも高そうですけど、本当に良いんですか?」

「ええ。貴重品ではありますが、それはまだ試作段階の品でして。できれば使い心地を報告していただけると助かります」



 なるほど、試験的な品なわけか。



「了解です…じゃ、早速行くか?」

「ええ、着替えてくるわ」

「私はもういけるよ」

「…どうせ暇だし、私も行こうかしら」

「いえ、今回は俺達だけで行かせてください」



 桜先輩が付いて来ようとしたが、先輩がいると俺が全力を出せないので遠慮してもらった。


 まだカツロ山の行く末がどうなるかは分からないが、もし件のコボルドと戦闘になった場合、十中八九桜先輩はその戦闘に名は連ねないだろう。いざとなればエゴは出さないだろうが、余程の事態にならない限りそれをあの親バカ父さんが許すとは思えない。



 コボルド程度、俺達なら問題ないとは自負している。だがやはり、実際に行ってみないとその自信を確証へと変えることは出来ない。それに鉱山という限られた場所でどれだけ俺達の連携が通用するか、試したいという理由もある。



「…三人で良いの?」

「ええ、俺達だけで十分です」

「鉱山だと、人数が多ければ良いってわけでもない」

「そう、なら私は…どうしよう?」

「一応、お待ちいただいている面会のご約束がありますが」

「あれは嫌」



 その面会が余程嫌らしく、いつもより声を窄ませた桜先輩。その会う人物が嫌なのか、面会自体が嫌なのか…当人のためにも、これ以上の考察はやめておこう。



「カツロ山は、トウキョウを出て北にまっすぐ進めば良いわ。周りにはカツロ山以外特に何もないから、迷うことはないと思うわよ」

「分かりました」

「カツロ山の地図って…あったっけ?」

「こちらに。とはいえ、これは撤退前のものになります。流石にコボルドが採掘をすることはないと思いますが、崩落などにより地形が変わっている可能性はありますので、あくまで参考程度にお願いします」

「了解です」



 俺が常に一緒に行動すればまず迷うことはない。それこそ攻略中に崩落なんかで地形が変わらない限りは大丈夫だと思う。



「お待たせ」

「おう。それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。鉱山内は太陽光が差さないから、時間管理には気を付けて」

「夕暮れごろに帰っていただけると、シェフとしては助かります。依頼は一日で完了させる必要はありませんので」

「分かりました」



 シェフの要望もあるし、なるべく短時間で帰ってくるとしよう。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る