178.開かぬ口 後編
「さてと…まず探すべきは鍵穴か?」
「ええ、もしかしたらボタンの可能性もあるわ。色々探ってみましょう」
俺達は扉の装飾や付近の壁に何か仕掛けが施されていないか、扉をペタペタと触りながら捜索を開始した。
因みに軍人の方々には撤退してもらった。あの人達も連日の作業で疲れているだろうし、こんな気が休まらない場所でいつまでも待たせるのは酷だと思っての判断だ。本音を言えば見張りに1人くらいは残って欲しかったが、流石に一人だけ罰ゲームみたいな扱いをするのもな。
「うーん…扉付近にそれっぽいのはないわね」
「ああ、ひとまず鍵がかかってる可能性は除外して良さそうだな」
となると、単純に重いか、何か別の形で施錠されているか。流石に鍵穴を分かりづらい場所に設置する理由はないと思うし、見落としも無いはずだ。
「…だがそうなると、早速捜索の手がストップしちまうわけだが」
「まぁ私達、そっち系のスキルは誰も持ってないしね」
そっち系のスキルとは、主に罠の解除や、今回のような施錠された扉の開錠なんかを行う、所謂盗賊系に該当するスキルのことだ。世界が混ざってからは盗人との誤解を防ぐため、あまりそういった言い方はしないらしい。
スキルの取得難度は特段高いわけではないらしいが、残念ながら俺は持ち合わせてはいない。シルヴィアとリーゼも同様だ、思わぬ所でパーティーの穴が見つかってしまったな。
「つっても、スキル持ちはあの軍人の中に何人かいただろ。それで見つからないってことは、少なくとも分かりやすい仕掛けはないんじゃないか?」
勿論軍人のスキルを把握してるわけじゃないが、あれだけの人数がいれば一人くらいはスキルを持った人間が混じっているはずだ。薄暗い場所だから見逃した可能性も無くはないが、そもそもそういう技能はこういった場所でこそ発揮されるもの。日頃から訓練しているのであれば、そんなミスはしないと思う。
「うーん、私達にはちょっと荷が重いかしら?」
「そうかもな…で、さっきから黙りこくってるリーゼさん?一体どうしたんだ?」
捜索を開始してからリーゼは、ずっと扉を見つめ続けていた。よく分からないが邪魔をしてはいけなそうな雰囲気だったのでスルーしていたが、俺とシルヴィアだけだと限界が訪れたので流石に話しかける。
「この文字…やっぱり見覚えがある」
「文字?どれだ?」
「あれ。扉に書かれてるやつ」
扉に書かれてる文字…ああ、あの模様っぽいやつか。確かに文字に見えなくも無いが、当然日本語じゃないし、アルスエイデンで使われてる言語でもない。そうであれば俺でも読めるはず。なんでか分からないけど、アルスエイデンの言葉も分かるんだよな。勉強したわけでもないのに。
「たぶん、人族が以前使ってた文字だと思う」
「…てことらしいけど」
「知らないわよこんな文字、全然読めないし」
「私も簡単なやつしか知らないけど…確かあれは部屋って読むはず」
リーゼが指さす模様を眺めてみるが、やはりただの模様にしか見えない。
「人族は何回か文明が崩壊してるから、今の時代で読める人は考古学者くらいだと思うよ」
「そうなると、この壁や扉はその頃に作られたってことか?」
「多分」
「ちょっと待って。以前の文明って、それこそ数千年単位よ?そんな時代の建造物が、こんなに綺麗な状態で残ってたってこと?」
数千年…!向こうの世界は、そんな昔からここまで高度な文明があったのか…て、ちょっと待てよ?
「ってことはこれ、人工の建造物か?」
「…確かに、そうなるかも」
「嘘だろ…」
当時の人達には、この壁を加工する技術があったということになる。余程高度な文明を築いていたらしいな。もしかしたら、『混沌の一日』以前の日本よりも技術発展をしていたかもしれない。
「解読は出来そうか?」
「全部は無理。簡単なやつしか知らないし、掠れてて読めない文字もある」
「出来る部分だけで良い、頼む」
「ん」
扉に開錠の方法が書かれてるなんて間抜けなことは無いと思うが、今は何でもいいからとにかく情報が欲しい。
「部屋……これは訓練だったかな?てことは訓練場?」
「訓練場…」
「とりあえず、ここは迷宮ではなさそうかしら?」
「ん。だけど、中のものはそれなりに価値があるかも」
「それは確かに」
失われた文明の施設、勿論歴史的な価値もあるが、これだけ高度な文明だ。何か画期的な道具が発掘される可能性もある。
(葛城総司令も、攻略を続行するだろうな)
「他の文字はちょっと分からないかな」
「十分だ。一旦この情報を持ち帰ろう」
「そうね、これ以上私達に出来ることは無さそうだし」
残念ながら扉を開けるには至らなかったが、かなり有用な情報を手に入れることが出来たんじゃないかと思う。だがこれによって一つ、俺の中で小さな疑問が生まれた。
(古代文明が作り出した人口の遺跡…それなのに、なんで周囲にコボルドが出現するんだ?)
住処としているなら分かる。だが、間違いなくコボルドは転移してこちらに来ていた。それも等間隔で、一匹ずつ。古代文明の人々が魔獣を飼いならす術を持っていたとしても、その機能が今日まで生きているとは思えない。
(あの中には何が待っているのか…少し、楽しみになってきたな)
正直、義務感の部分が大きかったこの依頼。だがそんな俺の心に今、好奇心と探求心が湧き上がった。
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