272.王たちの家族会議

「あ、英夢君!!シルヴィアちゃんにリーゼちゃんも!!」

「おう、訓練中だったか?」



 王城に戻ると、そこには広間で魔術を放つなぎさの姿があった。【賢者セージ】のなぎさがこんな場所で魔術を放つと大変なことになりそうだが、なぎさ自身もそれは理解しているらしく、使用している魔術はかなり威力がセーブされている。



「うん!!あんまり休んでると感覚を忘れちゃうからねー。最近は騎士団が王城にいたからこの広場も使えなかったんだけど、今日はいないみたいだから」

「……そうか。まぁ、しばらくは使えると思うぞ」

「あ、やっぱりそっちにいた?」

「ああ」



 俺達から話した覚えはないが、多分俊から今日の外出先は伝えられていたんだろう。



「無事に解決できたの?」

「微妙なところだな……マリア様がどこにいるか分かるか?」



 今日の一件、流石に報告しないわけにはいかないだろう。向こうから被害者面で偏った報告をされる前に、こちらから先に伝えて置くべきだ。駆り出された騎士団はある意味被害者ではあるが。



「この時間なら俊君の部屋にいるんじゃないかな。隙を見ればアプローチしてるから」

「な、なるほど」

「俊君がモテモテなのは昔からだけど、マリアちゃんはかなり本気みたいだねー」

「実際のところ、俊の方はどうなんだ?」



 これまで数えるのが面倒になるくらい言い寄られているのを目にしていたが、俊が誰かと交際したことは一度も無かった。まぁ、俺やなぎさに隠れてこっそり付き合っていた、なんて可能性もなくはないが……いや、ないな。



「んー、嫌ってはないと思うよー?ただ恋仲になることを望んでいるかと聞かれると……ちょっと分かんないかも」

「……いつも通りか。俺がいない間も、恋人一人作らなかったのか?」

「うん」



 なんとなくそんな感じだろうとは思っていたが、今回もそんな感じなのか。王女相手でもダメなのかと思う反面、やっぱりそうかと思う自分もいる。あの男、【勇者ブレイヴ】なんて職業に就いたのにもかかわらず、未だに想いを伝えられずにいるらしい。



「ま、今話す話題じゃないな。とりあえず俊の部屋に行ってみる」

「うん!もし私がマリアちゃんに会ったら探してたって伝えとくねー!」

「助かる」



(……ったく。こいつだって人気者なんだから、さっさと伝えないと他の男に盗られちまうぞ)





♢ ♢ ♢





 その日の王城のとある一室では、宴振りに一同に会した王族たちが、厳かな雰囲気で議論を交わしていた。



「いくら勇者の友人と言えど、今回は庇いようがない。即刻、奴らを処罰すべきだ」

「だけど、彼らの言い分が正しいのであれば、今回の一件は完全とは言えないまでも被害者側だ。僕が同じ立場であれば、処罰には納得できない」

「そもそも、それだって一方的な言い分だろう。よしんば正しかったとしても、騎士団に看過できない被害を負わせたのは事実だぞ?」



 議題は当然、本日日中にあったグリードハイド邸での暴力事件のこと。事件とは言っても、まだこの件は公になっておらず、知っているのは当事者達を除けば勇者達と王族、そして他の公爵家と言った極少数の者達のみ。


 だがその当事者の数が数であるため、周囲に広まるのはそう時間がかからない。そのため、早急に今日の処遇を決める必要があった。



「陛下はどのようにお考えですか?」

「……悩ましいな。国防のことを考えるのであれば、彼らを全く罪に問わぬというわけにはいかん。だが、ユリウスの言うように彼らが被害者であるというのもまた事実。どちらかに処罰を与えるのではなく、両者に課すべきではないかと思う」

「日本のことわざにある、喧嘩両成敗というものですね。私もそれに賛同します。自らの立場を利用し、私的に騎士団を動かしたグリードハイド卿にも罰を与えるべきだと思いますし」



 このような議会の場合、基本的に多数決を行い、同率の場合はもう一度議論を行ったうえ、それでも決まらなければ国王側の意見が採用される。将来誰が国を統べる立場になるか分からない以上、なるべく全員を政治に参加させたいという意思を反映させた結果だ。


 今回参加しているのは、国王、第一王子のユリウス、第二王子のコーラル、第一王女のステラ、第二王女マリア、そして第三王女キリユの計六名。勇者パーティーの一員ということもあり、立場上公平な意見が出せないマリアは進行のみを務めているため、あと一票入れば国王の案が採用されることになる。



「キリユ、お前はどうだ?」

「……私も陛下の意見に賛成。だけどエイム達への処罰は、私の一件と相殺してほしい」

「ふむ、一理あるな。褒美にも悩んでいたところであるし、恩義に思ってもらえれば儲けものだ」

「珍しいね、キリユが意見を出すなんて」



 この会議においても、キリユが発言することはほとんどなかった。勿論自分の意思表示はしていたが、逆に言えばそれだけで、追加の要望を言うことなど初めてのことだったのだ。



「ふん、あの男に惚れでもしたんじゃないか?」

「ちょっと、コーラル」

「……実際のところ、どうなのだ?」



 国王はコーラルと違い、興味本位で聞いたわけではない。王族の品位を下げないよう、彼ら王族派、将来の相手を選ぶ際もそれに準ずるような立場である必要がある。【勇者ブレイヴ】である俊は例外としても、アルスエイデンからしてみればただの一般人である英夢と恋仲になることを望むのであれば、それを易々と認めるわけにはいかない。



「……正直、気にはなってる」

「……あらあら」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る