79.里の景色
「……お待たせ、付いてきて」
しばらく待ったあと、リーゼが一人で戻ってきた。
「里長さんはどうしたの?」
「家で歓待の準備をしてる。里にお客さんが来るなんて滅多にないし、ちょっと張りきってるみたい」
図書館で読んだ情報や先程のやり取りから、なんとなく他の人間に対して排他的な印象を持っていたが、結局のところは俺達人族と同じく人によるらしい。排他的な性格の人が多いというだけで、全員がそうだというわけではないんだろう。
改めて考えてみれば、リーゼにだって最初は大人しいだとか会話が苦手だとかそういうイメージがあったが、今となってはそんな印象はどこかへ行ってしまっている。やっぱ種族なんて見た目の違いでしかないな。
里を歩くと、そこには自然をうまく活用した美しい町並み。大木をくり抜いた住居や、木の上に建てられたツリーハウスなど、その形は様々なれど、そのどれもが自然との共存を意識した造りになっている。
「ごめん、大丈夫だって説明したんだけど……」
「これくらいは大丈夫だ。なんとなくこうなるんじゃないかと、来る前から予想はしてたからな」
事前の説明があったとはいえ、結界が反応したという衝撃は大きいらしく、家の前や窓から奇異の視線を受けている。それも俺達二人ではなく、明らかに俺の方に。
ただまぁ、リーゼ曰くそもそも自分達以外の種族を見ることが稀らしいし、ある程度は仕方ない。多分結界云々が無くても、似たような状況になったんじゃないかな。街に見慣れない外国人がいたら、なんとなく気になっちゃうのと同じ感覚だと思う。
「着いたよ。ここが、私達の家」
「へぇ、綺麗な所じゃない」
シルヴィアの言う通り、周りの木々より一際大きな大木をくり抜いて造られているその家は、木の種類が違うのか若干白みがかっていて、とても清潔感の感じられる住居になっている。さらにどうやらまだ木は生きているらしく、頭上の枝からは何やら赤い果実が見えるな、リンゴではなさそうだ。
「さ、入って」
「「お邪魔します」」
「いらっしゃい」
──あれ、リーゼが二人?
「私はリーゼの母でジンの妻、ミルアーゼ・ラルクウッドです」
「……天崎英夢です」
「シルヴィア・アイゼンハイドです」
どうやら母親だったらしい、ぱっと見姉妹どころか双子だぞ。よく見ると髪色が若干ミルアーゼさんの方が白みが強い気がするが、それ以外は本当に瓜二つだ。多分服装を逆にしたら、普通に気付かないと思う。
「短い間かもしれないけど、自分の家だと思ってくれていいですからね?」
「お世話になります」
「うふふ、早速だけどご飯にしましょうか。お口に合うと良いのだけど」
実は先程から、家の奥から非常に良い匂いが漂っている。食文化の違いもあるので少し不安もあったが、これは期待できそうだ。芋虫みたいなゲテモノの類も意外といけるし、シルヴィアはともかく俺は大丈夫だと思う。
「……来たか」
「お邪魔してます」
「色々と話したいことがお互いにあるだろうが、ひとまず飯を囲むとしよう。話はそれからすればいい」
食卓に案内されたので、席に着く。家の中は俺達がよく見る木造建築の建物となんら変わりのない感じだ。違いらしい違いと言えば、木を切り抜いているから若干部屋が丸みを帯びていることくらいだな。
「今日はシチューにしてみたの、人族にもある料理なのよね?」
「ええ、おいしそうですね」
野菜がふんだんに使用されたシチューはスパイスを使っているのか、俺達が普段口にするものより香りが強い。その香りが、強烈に空腹を刺激してくる。
「では、頂くとしよう」
「「いただきます」」
合掌し、まずは一口。
「どう、かしら?」
「……おいしい!」
「へぇ、これはまた……」
まず口の中にスパイスと野菜の香りが広がった後、じんわりとほのかな甘さが主張してくる。全体的に少し薄味だが、そのお陰で野菜や肉の味が鮮明に感じられるな。
「うふふ、口にあったようで良かったわ」
「異国の使者に異世界の使者じゃからな、随分不安に思っておったのじゃよ」
「もうジン!余計なことを言わないでよ」
なんとなくだが気持ちは分かる。人に料理を振舞うのって、毎回謎のドキドキがあるんだよな。
「食事を楽しみながら、まずはお互いのことを知ることに時間を使うとしようかの。改めて、わしはジングリーズ・ラルクウッド、このダークエルフの里で長をやっている」
「マーティン地方開拓軍所属、天崎英夢、職業は【
「同じく地方開拓軍所属、【
「……じゃ、私も一応。アイリーゼ・ラルクウッド、職業は【
こうしてそれぞれの自己紹介を済ませた後、俺達はお互いのことを質問し合うことにより、親睦を深めていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます