244.規格外の勇者

「………は?」



 俊の突然の言葉に、俺は取り繕うことも忘れ体を強張らせる。



「僕にはね、『職業看破ジョブズ・スルー』ってスキルがあるんだ。だから英夢が【銃士ガンナー】じゃなくて【死神リーパー】ってことは、最初から分かってたんだよ」

「規格外すぎるだろ【勇者ブレイヴ】……なぎさもか?」

「いや、使えないと思うよ。それに今のところは誰にも言ってない。訳ありなのはその職業名から明らかだったしね」



 俊が味方で、そして理解ある人間で本当に良かった。危うく本当に王国を敵に回すところだった。



「バレてるんなら仕方ないか。つっても、大体は話した通りだけどな──」



 俺は俊に、カミラの最奥で就いた職業が、本当は【死神リーパー】であることを伝える。ついでなので、狼神マナガルから聞いたこの職業が他人にバレることによる危険性についても話しておいた。



「なんだいそれ……転職は出来ないのか?」

職球ジョブスフィアを使うには、どうしても人の目に触れちまうから無理だろ。それこそカミラの最奥みたいに、人に見つかってない職球ショブ・スフィアがあるなら話は別だが」



 正直後者に関しても望み薄だと思っている。職球ジョブ・スフィアはもし新規のものが見つかれば、それこそ一生遊んで暮らせるような金額が手に入るような代物だ。今更新しいものが見つかるとも思えないし、あるかどうかも分からないものを求めて、未開の地を探索するつもりもない。



「職業を偽る理由には何となく察しがついていたけど……流石に予想以上、と言うしかないね」

「まぁ、色々と厄介な職業ではあるが……この職業じゃなきゃ生き残るのは不可能だったろうし、今では俺の職業を知ってなお隣を歩き続けてくれる人がいる。今ではそこまで重荷には感じてない」

「……そっか」



 思い浮かぶのは、当然シルヴィアとリーゼ。【死神リーパー】の職業と同じように、彼女達がいなければ、俺はどこかのタイミングでこの生命を終わらせていたことだろう。



「お前にバレたらやばそうだと思って、隠してたんだけどな」

「まぁ、そうだろうね」



 俺達二人は揃って苦笑いを浮かべる。勇者と神の関係性は不明だが、なんとなく無関係だとは思えなかった。



「……なぎさにも、話すべきだろうか」

「最終的に決めるのは英夢だけど、僕は話しても良いと思うよ。不安になるのも分かるけど、彼女も大人になったから」



 高校生だったころから変わらず、見た目や言動は能天気そのもの。だが彼女も俺達と同い年だし、きっと【賢者セージ】として様々な経験を積んできたはず。大人になったという俊の言葉も、完全ではないものの信じることができる。



「先生やマリア様が居ないタイミングで、それとなく話すことにするわ」

「……先生には隠すのかい?」

「正直、ちょっと悩んではいる」



 アルスエイデンの王女であり、聖女というバリバリの宗教職に就いているマリア様に話すには論外。そこまで信仰心が深いわけではなさそうだが、そもそも俺自身が彼女のことを信用しきれていない。それに王国にバレても面倒だ。


 問題は一ノ瀬先生だろう。個人的な感情としては、話しても問題ないとは思っている。高校生時代にも何かと気にかけてくれていたし、色々とお世話になった。信用、という意味では俊達と同じくらいのものがある。


 だがだからといって話す必要があるのかと考えれば、そこまで感じない。なぎさに隠し事をするのは、幼馴染として、そして俊だけに話すのもという罪悪感があるが、教師に対しては、隠し事の一つや二つあってもおかしくないだろう。



「そもそも、なんで先生は俊達を追ってきたんだ?」



 俺は再会した時から疑問に思っていたことを、俊に聞いてみる。生徒を守るため、死地へと飛び込むその様は、「先生」としての枠組みを逸脱しているように感じたからだ。そもそももう、教師と生徒という関係ですらない。



「うーん、何となく理由は分かるんだけど……僕の口から話すことではないかなぁ」

「……そうなのか?」

「まぁ、気になるなら本人に聞いてみるといいよ」



 要領を得ない俊の回答に疑問を抱いていると、コンコンとノックの音が鳴る。



「失礼いたします。手直しが必要とのことで、王女殿下より伺ったのですが」

「ああ、そうですか。ありがとうございます……英夢、話はまた今度で。とりあえず行こうか」

「分かった。でもどこに行くんだ?」

「それは勿論、僕の衣装室だよ」





♢ ♢ ♢





「……劇団の衣裳部屋かよ」

「やめてよ、僕もそう思ってるんだから」



 案内された勇者の衣裳部屋に並べられたのは、思わず目を細めてしまう程の煌びやかな衣装の数々。装飾過多で重そうなので、綺麗だとは思うが着たいとは思わない。



「こっちのは用意はされてるけど、ほとんど僕が着ることは無いかな。普段式典で着るのはあっち」



 指差された方向にあるのは、俺にとっても馴染みのある礼服……整然と並べられたスーツだ。日本ではあまり目立つことのない服装だったが、これらの衣装と同じように並べられると、逆に異彩を放っている。



「勿論、俺もこっちを着て良いんだよな?」

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