243.国王への謁見 後編
「お久しぶりです」
やはり、二人は以前から面識があるようだ。心なしか、俺の時よりも国王の口調が軽い気がする。
「戻って来た……わけでは、ないのだな」
「はい。王都に再びやって来たのは、公爵家の私ではなく、一人の軍人でしかない私です。今更家に戻れるとは思っていませんし、そのつもりもありません」
それを聞いた、騎士団長のエルドリッドが鋭い視線を向けるが、シルヴィアは全く気にしていない。
「くっ……ははは!そうか!家には戻らぬか!」
国に戻るつもりはない、そう捉えられても仕方のない発言をしたシルヴィア。にもかかわらず王は、それを聞いて愉快そうに笑う。
「まぁ、それもよかろう……して、そこの黒いローブが、件のダークエルフか?」
「ん、アイリーゼ・ラルクウッド」
国王でもダークエルフを目にする機会は今までなかったようで、エルフとの違い、普段の生活等、中には堪えられないような内容の質問もどんどんと質問していく。俺達の時よりも明らかに時間が長い。
その質問の中で全く敬語を使わないリーゼの姿に、それを快く思わない連中もいたようだが、国王本人が気にしていない様子なので、進言したり注意するわけにもいかないようだ。
(なんというか……予想とは少し違うな)
国王は確かに威厳に満ちた表情をしており、リーゼに対して自身の知識欲を満たしている最中も、それは消えていない。だがその一方で、どこか愉快な好々爺のような雰囲気も感じ取ることができる。とても勇者を人質に取った人間と同一人物とは思えない。
(まだ見せていない一面がある、ってことか)
仮にも一国の王、裏の顔を俺に悟らせるような真似はしないだろう。
「陛下、少しお耳を……」
「む?……そうか!間に合ったか!」
国王は文官らしき男から話を聞き、快活な笑みを浮かべる。
「皆の者!今宵は迷宮攻略の祝福、そして日頃の諸君の慰労を兼ね、宴を開く!この場の者には全員参加を許すゆえ、とくと参加するがよい!」
「「「おおおお!!」」」
騎士達から歓声が上がる。エルドリッド以外は兜を被っているため表情を窺うことはできないが、きっと笑み浮かべていることだろう……というか、なんでアイツだけ兜を脱いでいるんだ。
仲間達の様子を見ると、概ねみんな苦笑いといったところだ。なぎさは何故か目をぱちぱちとしている。あいつ、自分の話す機会がないから寝てたな。
(俊、これって)
(僕達は実質強制参加だろうね、多分英夢達も)
(だよなぁ)
こういった催しが嫌いなわけではないが、現状敵対気味の騎士達と食事を共にしても、楽しい食事とはいかない気がする。
「めんどくせぇ……」
思わずそう漏れ出してしまうのも、仕方のないことだろう。
♢ ♢ ♢
「ふぅ。英夢、大丈夫?」
「まぁ、なんとか。やっぱり慣れないことってのは予想以上に疲れるな」
俊達が普段生活に使用しているという王城の一室で、英夢は椅子に倒れるように座る。
ただでさえ、日本列島から王都、王都から迷宮、迷宮から王都という大移動をほとんど休みなく行っているんだ。カミラの迷宮での日々でかなりスタミナは付いたと自負しているが、それでも流石に身体が疲労を訴えている。
「正直、僕もこういったことは慣れないよ」
「お疲れ様でした……と、言いたいところなのですが」
「宴ですよね、欠席ってわけには?」
「不可能ではないですが、出来れば避けて欲しいですわね」
ですよね。
「流石に宴となればその服装もどうにかしなければなりませんし、休息はもう少し先になりそうですわ」
「あれ、そうなんですか?でも俺、代わりの服も似たりよったりなんですけど……」
「それなら大丈夫、僕のを使えばいいよ」
確かに俊と俺は体格が近いので、問題はないかもしれない。少し俊の方が、ガタイが大きくなっている気もするが。
「お二人の分は私がご用意しましょうか。一流の【
「わざわざすみません」
「構いませんわよ。鎧を纏った貴女も素敵ですけど、やはり着飾った姿も見たいものですし。ねぇ?」
「……何故そこで俺を見るんでしょうか」
「場合によっては王国を敵に回すくらい、彼女達が大切なのでしょう?」
どうやらマリア様は、港での俺の発言をしっかり憶えていたらしい。確かにあの言葉に偽りはないが、面と向かって復唱されると恥ずかしいものがある。
「ついでに私達のドレスも手直ししてもらいましょうか」
「うん、そうだね!いこいこ!」
「え、ちょっと。私も〜?」
ぐいぐいとなぎさが連れ出すような形で、女性陣は部屋を出て行き、残ったのは俊と俺の二人となった。
「謁見では大人しくしてたが、相変わらずだな」
「それがなぎさの美点だからね、変わらずにいてくれた方が嬉しいものだよ……『
何故か俊は、皆が出ていった後にスキルを発動させた。名前からして、盗聴防止用のスキルだろうか。
「これで誰にも、僕らの会話は聞くことができない」
「……どうしたんだ?」
「英夢、聞かせて欲しい。君の三年間、本当は何があったのか──その物騒な職業のこととか」
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