196.覚悟のその先で 前編

 【デス・の狂乱マッドネス】を発動させた俺は、周りの死体達から魔力や生命力を吸い取り、己の力へと変換していく。死体が魔石のない魔獣のせいか、心なしか送られてくる力が少ない気もするが、これだけの数があれば誤差だ。



「…いくぞ!」



 シルヴィアを下がらせ、俺はラル=フェスカを乱発させながらコボルドの軍勢を抉っていく。



「うおおおおおおおお!!」



 撃つ、撃つ、とにかく撃って、その数を減らす。この無限にも等しいコボルド達の波状攻撃を止めるためには、とにかくコルネラの繭に近づかなくちゃいけない。そのためにまず、こいつらを強引にでも突破する。



「WOUNN!!」

「WOUWOU!!」

「無駄だ!!」



 たまに俺の乱発を掻い潜り、隙間を縫うような動きで襲い掛かって来る個体もいるが、今の俺なら体術だけで十分対処が可能だ。銃のグリップで殴りつけ、頭だけを吹き飛ばして絶命させる。



「WANN!!」

「ちっ…!」



 力のままに進軍を続けていた俺だが、前方から強烈な『危機察知』の反応があり、一度体を捻って後退する。先程まで俺がいた場所には大きな薙刀があり、その先には、



「なんか、でかくねぇか?」

「WAOOOOOOOOOONN!!」



 黒コボルドは通常のコボルドよりも一回り大きい体格をしていたが、今俺の目の前に立ち塞がるコボルドは、通常のコボルドと比較すると三倍以上も大きいように見える。でかすぎて若干窮屈そうだ。



(本物の黒の魔獣か…?)



 だがそれにしては覇気がない。言葉を話す様子もないし、あの黒ゴブリンよりは弱そうだ。



「WOUNN!!」



 巨大コボルドはその刃で俺の体を二つにせんとするため、薙刀を思い切り振り回しながら接近してくる。このまま後退を続けると、後ろのシルヴィア達にこの薙刀が襲い掛かるかもしれない。こいつはここで止める。



「らぁッッ!!」

「WAOUNN!?」



 俺は少しだけ巨大コボルドに接近し、タイミングを見計らって薙刀を蹴り上げる。巨大コボルドは一瞬この大胆極まりない行動に驚きの声を上げたものの、すぐに上にあがった薙刀を振り下ろして来た。



「そう来ると思ったよ!」



 俺は体を捻ってあえてギリギリで回避したあと、地面にヒビを作った薙刀を思い切り踏みつけ、薙刀を地面に食い込ませる。コイツの腕力ならすぐに掘り起こすことが出来るだろうが、一瞬でも時間を稼ぐこと、それが重要だ。



 踏みつけた勢いそのままに、俺は前方へと跳躍する。巨大コボルドは薙刀を使ってさらなる攻撃を仕掛けようとするが、薙刀が地面に食い込んでいたこと、そして俺が急激に距離を詰めたことにより対応が遅れる。


 その巨体でリーチの長い薙刀を駆使されるのはかなり脅威だが、こうして接近してしまえば対処は難しくない。



「せいッ!」

「WAU!!」



 俺は一度地面に着地した後、勢いを殺さずに滑りながら巨大コボルドの股下をくぐる。お土産とばかりに右足に銃弾をぶち込むと、巨大コボルドは小さく怒りの声を上げながら俺を踏みつけようと足を持ち上げるが、残念ながらそこにもう俺の姿はない。


 俺に背を向けている巨大コボルドが、こちらへ振り向くまでの時間、この時間が稼ぎたかった。俺はこの隙にありったけの魔力をフェスカに注ぎ込み、巨大コボルドが振り返るその瞬間を待つ。



「WAOU…」

「喰らいやがれ!!」



 フェスカから放たれた光の銃弾は、巨大コボルドの頭を跡形もなく消し飛ばした。その体は頭を失ってもなおその場に佇んでいるが、あれはあれで良い壁になりそうだし放置しておこう。体も吹き飛ばそうとすると、体を貫いた銃弾がシルヴィア達に当たる可能性があるしな。



 今の所巨大コボルドはこの一匹だけのようだが、コイツも繭から生み出された個体だとすれば、この先同じような、いやコイツ以上の個体が襲い掛かって来る可能性もある。出来るのならそうなる前に繭を何とかしたい。



「…急がないとな!」



 コルネラの繭もそうだが、後ろを任せているシルヴィア達もそのうち余裕が無くなってくるはず。あまり時間は残されていない。


 押し寄せるコボルドの軍勢を消し飛ばしながら突き進んだ俺は、ついにコルネラの繭の目の前まで到達した。



(さて、まずはこいつを破壊するための方法を探らなければいけないわけだ)



 ラル=フェスカは絶大な威力を持つが、流石に力の流れには逆らうことが出来ないらしい。試しにこの至近距離で銃弾を放ってみたが、やはり着弾する前に逸れていってしまった。



「他の攻撃手段も、あるにはあるが…」



 この繭に有効打を与えるほどの攻撃となると難しい。どう見ても生物じゃないから『死圧』の類も効かないだろうし、【死神リーパー】のスキルはあまり使えそうにない。



「やっぱり斥力場をどうにかするのが一番…っと!」



 俺が思い悩んでいる間に、攻撃を受けた繭が警戒心をあらわにしたかのように、強い光を放ち始めた。するとそれに呼応するかのように、周囲の地面が隆起し始める。



「WANNWANN!!」

「WAOON!!」

「…繭から生まれるわけじゃないんだな」






 



 

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