40.アイナとシルヴィア 前編
─side Silvia─
「おっはよ~う!起きて~!」
「……アイナ、勝手にベッドに上がらないでって何度言ったら分かるの?」
聞き慣れた声に囃され、私は今日も目を覚ます。ベッドで私の上に跨る黒髪の美少女の名前は、石崎愛奈。本人はもう少女なんて年じゃないと恥ずかしがるけど、「美」の部分を否定しないあたりに彼女の性格が出ている。
「今日くらいは許してよ~。待ちに待ったあの日なんだから!」
「毎日こんな感じで起こされることになると思うと、ちょっと憂鬱になってきたわ」
「いひひ~、覚悟しなよ~?」
アイナ手をわきわきさせながら、悪い笑みをこちらに向けてくる。普通に気持ち悪い。
とはいえ、アイナがいつもより騒ぐ気持ちも分からなくはない。今日は今までの宿暮らしから脱却して、念願のマイホームに引っ越す日。今までの生活も嫌いではなかったけど、やっぱり家を持てるっていうのは嬉しいわね。
「ほら、早く行こうよ!」
「先に着替えさせなさいよ」
寝巻で外出させるのだけは本当に勘弁して、そしてそれよりも私の上から早くどきなさい。
♢ ♢ ♢
「ここか~!」
「何回も下見したでしょ」
「こういうのは気分の問題なのっ!」
宿で朝食を済ませ、私達は念願のマイホームまでやってきた。
「早く入ろ?」
「はいはい」
居ても立っても居られない様子のアイナを押さえながら、家の中に入る。先に家具の配置なんかはある程度指定しておいたけど、小物とか私達でやらなきゃいけない部分も多いから、今日は忙しくなりそうね。
「わ~!ここが私達の家か~!」
「だから何回も見たでしょって……さっさと荷解きしちゃいましょ。最低限昼食のためにテーブルくらいは綺麗にしておきたいわ」
「そうだね!頑張ろ~!」
もうすぐ20歳を超えるはずなのに、ホントに子供みたいな娘ね。思わず苦笑いがこぼれてしまう。
ひとまずお互いの部屋は後回しにして、まずはリビングの整理から取り掛かる。ダイニングも兼用しているから物は割と多い。
「シルヴィ~、これどこにする?」
「あ~、そうね。そこの棚の上が良いんじゃない?」
アイナが手に持っていたのは、数枚の写真。私やアイナと、今までお世話になった人たちとの写真の数々。
今までは飾る場所がなかったものを、折角広い家にしたんだから飾ろうってことになって急遽写真立てを用意したものね。思ったより値段が張ってびっくりしちゃった。
「お~う、来たぞ!」
「邪魔するよ」
「ガイさん、カルティさん!」
「混沌の一日」から間違いなく一番お世話になっているであろうガイさんとカルティさんが、引っ越し祝いに来てくれた。
「へぇ~、いい家じゃないかい」
「何か手伝えることはあるか?」
「あ、じゃあ家具動かすの手伝ってもらえません?私達じゃちょっと厳しくて」
「おう、お安い御用だぜ」
私はともかく、【
整理してるうちにこっちの方が良さそう!となっていたけど、二人じゃどうしようもなかったからとても助かったわ。
「これは私からの差し入れだよ、もうそろそろいい時間だし。みんなで食べないかい?」
「わ~!ピザですか?」
「そうだよ、アイナちゃんが好きって聞いてね。作ってみたんだ」
「ありがとうございます!!」
ずっといい匂いがしていると思っていたけど、その正体はピザだったみたい。ようやくテーブル周りも片付いたってことで、みんなで昼食休憩になった。
「いただきます」
「んぐ……うま!?」
「おいし~!」
二人の言う通り、ピザはとてもおいしい。家で作ってここまで持ってきているから多少は冷えているけれど、それを感じさせないほどのおいしさね。
「ふふ、喜んでもらえたようでよかったよ」
テーブルは二人用だからちょっと手狭だったけれど、それでもみんなで囲む食卓というのはとても楽しかった。せっかく広い家にしたんだから、もうちょっと家具も大きいものを選べばよかったかもしれない。
「「「ごちそうさまでした」」」
「おいしかった~!」
「そうね。じゃ、この調子で今日の寝るところを確保しちゃいましょう」
ガイさんとカルティさんは午後から予定があるらしく、ここからは再び二人の作業に戻る。リビングはあらかた終わったので、今度は各自の部屋を整理することにした。
だけど実を言うと、寝るところを確保しなきゃいけないほどの私物は私にもアイナにもない。今まで宿で生活していたんだから当然と言えば当然ね。引っ越しに合わせて二人とも色々と散財したけど、いくらなんでも部屋を埋め尽くすほどではないわ。
♢ ♢ ♢
「今日はここまでにしとこっか」
「そうだね。ふあ~疲れた~!」
そういいながらもアイナは、まだまだ元気そうな声をあげている。まぁいつもあんな感じなんだけど。
お互いの部屋の整理が終わった後に細かい場所の片づけをして、気付けば外の景色が黒く染まっていた。結局一日かかっちゃったわね。
「じゃ、おやすみ」
「おやすみ~」
あくびを噛み殺しながら部屋に戻り、私達は各自の部屋で初めての夜を過ごした。
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