14.地獄で見つけた希望
水浴びをしようと向かった先で出会い、紆余曲折あった末に気を失ってしまった銀髪の女性が起きるのを待つ間、腹も減ってきたので飯でも作ることにした。
作るといっても、倒した化け物を焼くだけだ。調味料なんてないし、香草の類もこんな場所じゃ手に入らない。
「んじゃ、火を点けてっと……」
火をつけるのは、上がってくる途中にあった馬鹿みたいに熱いフロアに落ちていた赤い石だ。触れても別に熱いわけではないが、石が割れるくらいの衝撃を与えると発火してしばらく燃え続けるので勝手に火石と呼んで愛用している。
火石を地面に叩きつけて火を起こす、くべる木もないからこっからはスピード勝負だ。肉はいくつか種類をストックしてあるが、もしかしたら起きた彼女も食べるかもしれないので比較的抵抗が少なそうな鳥の肉をチョイスする。
鳥と一言に言っても、俺の倍くらいの体躯がある化物だ。ここだとその巨体が邪魔して飛べないらしく余裕だったが、地上だと絶対に戦いたくない。もしかしたら飛べないタイプの鳥だったのかもしれないけど。
ナイフを串のように使い、肉にぶっ刺して火で炙る。多分中まで火が通ってないが、しばらく生で食ってたことを考えれば御の字だろう。
「……」
パチパチと音を立てる火を眺めながら、しばし無言になって改めて彼女について考える。
(俺と同じく閉じ込められた……ってことはなさそうだよな)
それにしちゃ服が綺麗すぎる、ここで生活していて服が無事で済むはずがない。少々顔がやつれている気もするが、最近ここに入ってきたのは間違いないだろう。
年齢は俺と同じか少し上といった所だろうか。その髪色と顔立ちはどうみても日本人ではなく、改めてこの世界について考える。
(考えても仕方ないから意識してなかったが……ここはどこなんだろうか?)
俺の家の床が消失してここに来てしまってから、外の世界を一度も見ていない。だから、俺が元いた場所とは違う異世界に飛ばされてしまった可能性も否定できない。ただ、それ以外の可能性も考えられる一つの要因が、頭の片隅に残っていた。
(確か、あの頃は遺跡の出現で話題になっていたはず)
ここに来てしまったあの日も俊となぎさの二人と話していた、古代遺跡。日本では有り得ないと俊は否定していたが、もし遺跡が俺の家の下に出現してしまったとしたら、こちらの可能性も現実味を帯びてくる。
(だめだな、一人で考えても答えには辿り着けない)
色々考えたが、結局彼女が起きるのを待つしかなさそうだ。聞きたいことが山ほどある。なるべく友好的なことを祈りたい。
「そもそも言葉が通じない可能性もありそうだけどな……と」
思考の海に沈んでいるうちに、肉が焼けた。なかなかおいしそうな音を立てている。
「いただきます」
一旦思考を中断し、肉にかぶりつく。先ほど言ったように味付けもしてないが、火を入れるだけでこんなにおいしく感じられるのはなんでなんだろうな。
しばしの間無心で肉を食い続け、ものの数分でブロックサイズの肉を平らげてしまった。こんな地獄では性欲も睡眠欲も満たせないので、食事だけが唯一の楽しみと言っていい。
「……良い匂い」
「!?」
久々に味わう満足感に浸っていると、真横に美人の顔があった。びっくりして一歩二歩座ったまま後ずさる……起きてたのか、全然気づかなかった。
「た、たべます……?」
「……(コクッ)」
ひとまず、いきなり斬りかかられるようなことは無さそうだ。ってかせめて剣だけは回収しとくべきだったな、人に会えたことに浮かれてちょっと油断しすぎてるかもしれない。
だが幸いにも敵対的ではなかったようなので、要望に応えて肉を追加で焼く。
「調味料とかはないんで、そこは勘弁してください」
「うん……ケホッ」
溺れたときに水を飲んでしまったのか、少し話しにくそうだ。
彼女はジーっとこちらを眺めてくる、ただ肉を焼いてるだけなのになんか恥ずかしいな。いろいろと質問したいことは山ほどあるが……。
「はい、どうぞ」
「いただきます……」
まずは食事を楽しんでもらおう。ナイフで刺した肉を受け取った彼女は、そのまま小さく口を開けてパクリと一口食べ、その後に身震いする。
「……おいしい」
ただ焼いただけだから、流石にそこまでのおいしさはないと思うんだが。
「おいしい……!」
そのまま彼女はハグハグと肉を減らし続け俺より早いスピードで平らげてしまった。その瞳には、光るものがある。
(……なるほど)
詳しい事情は分からないが、なんとなく彼女の境遇を察した俺はそっと水を渡す。あのスピードで食べてよく喉を詰まらせなかったな。
「ッんぐ……ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
お粗末様って始めて言葉にしたかもしれない。姉以外に料理を振舞うことなんてなかったし。これを料理とっていいのか分からないけど。
そして今になって気付いたが、どうやら日本語は通じるらしい。とりあえずコミュニケーションに関しても問題はなさそうだ。
「さて、お互い聞きたいことはたくさんあると思いますけど、まずは自己紹介と行きませんか?」
「……そうね」
「私は第一拠点・周辺開拓軍所属、シルヴィア・アイゼンハイドよ」
俺が地獄で見つけた希望であり、この先互いの背中を預けることになる銀髪の細剣使いは、そう名乗った。
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