94.再び最上部へ

「…あ、やっほー」

「よっ。準備は完了した、ってことでいいのか?」

「ん、ばっちり」



 管理人に言われて資料庫を出ると、そこにはリーゼとシルヴィアのいつもの面子に加え、里長がいた。



「資料庫は役に立てたかのう?」

「ええ、とっても。でも良かったんですか?閲覧させてもらってから言うのもなんですけど、結構な量の情報をもらったと思うんですが」



 全てではないとはいえ、中にはうまく活用すれば街に戻って一儲けできそうなレベルの有益な情報もあった。それを俺に開示してしまうのは、少し勿体なく感じる。



「なに、構わぬよ。どうせ里の中に、それを外で利用しようとするものはおらんじゃろう。里の者は良くも悪くも、ここでの生活に不便を感じておらん。わしの見立てじゃが、そこまでの行動力を持つ者はリーゼ一人じゃろうな、わしも含めて」

「…なるほど」

「それは必ずしも悪ではない。若者が外へと出て行ってしまえば、里の活気も廃れてしまうしな。じゃがわし個人としては、もう少し外の文化に触れて欲しいのじゃが…」

「今回みたいな出来事がまた起きれば別だけど、ないなら100年は無いと思う」

「じゃろうなぁ…」



 流石妖精族、スケールが100年単位とは。確かにこの一週間、それなりに里の人達と接する機会はあったが、そこまで外の世界に興味を抱いている印象は感じなかった。こういった閉鎖環境だと、子供なんかは自分の知らないものには興味を持つものだと思うんだけどな。そこらへんが、種族の違いなのかもしれない。



「まぁ、里の話はよいじゃろう。それでリーゼ、ここからは任せてよいのか?」

「ん、任せて」

「分かった…リーゼを頼んだぞ、キーペ」

「PI!」



 それを最後に、里長は足早に去っていく。里長という役職だし、忙しいんだろうな。



「…で?私は何も聞かされてないけど、呼び出したってことは、私達にもやることがあるってことよね?」

「ん。まずダラビエトレントの最上部までキーペを連れて登る」

「キーペで時間短縮…ってわけではなさそうだな」



 キーペの背中には、布で包まれたかなりのサイズの荷物が載っている。俺達三人が乗れるスペースはない。



「登っている間、エイムにはなるべく魔力を温存しておいて欲しい。勿論緊急時は別だけど」

「了解だ」

「私もなるべく抑えめでいくから、道中戦闘はなるべく避けて、どうしても避けられない場合は、シルヴィを中心に戦闘したい」

「分かったわ。今回は最上部のために力を温存する必要もないし、なんとかなるでしょ」

「ありがとう」



 結構な負担がかかってしまうことになるが、シルヴィアなら問題は無い。



「…それじゃ、早速向かうか?特に用意が必要ないなら、俺は今からでも大丈夫だぞ」

「そうね、私も問題ないわよ」

「ん。じゃ、いこ」






♢ ♢ ♢



 俺達三人と一匹は、ダラビエトレントの中をずんずんと進んでいく。始めは戦闘を避ける予定だったのだが…



「この先に反応がある。ちょっと行ってくるわね」

「…りょーかい、気を付けろよ」

「ええ」



 …なんかシルヴィアが随分やる気というか、かなり好戦的だ。この一週間の間に、何か心境の変化があったのかもしれない。俺からすればちょっと危なっかしく感じてしまうが、ほぼ無傷で帰ってくるので何も言えない。



「…なんかあった?」

「俺との間には特に無いぞ。この一週間は、別行動をとることが多かったしな」



 シルヴィアは何かやることがあったのか、それとも活字を読むのがあまり得意ではないのか、資料庫に来ることは一度も無かった。


 そういえば、俺とシルヴィアが出会ってからここまで別行動をとるのって、ゴブリン掃討作戦のとき以来か?帰る家まで一緒だったから、別行動をとる必要が無かったんだよな。



「ふーん…」

「ただいまー、何話してたの?」

「んー?この一週間、何してたのかとか」



 別に隠す必要はないが、何か陰口を言っているみたいに感じて咄嗟に誤魔化してしまった。シルヴィアは俺の思考をさも当然のように読んでくるから、あまり意味はないかもしれない。



「ふーん…ま、それはそうとして。そろそろ着くころじゃない?」

「だな…俺、一度も戦闘してないぞ」

「私も」

「だって、以前来た時より明らかに弱くなってるんだもの、群れる以外には脅威に感じなかったわよ?」



 グリゴールが魔力の供給を止めたことによって、魔獣達が弱体化しているということか?いや、この場合、本来の実力に戻った、と表現する方が正しいか。


 ダレビエトレントの情報は里の資料庫にも本当に僅かしか保管されておらず、殆ど情報は集められなかった。まぁ、情報があったならある程度目星は付けられただろうから、情報が無いのは何となく予想してたが。



「…着いた」

「誰もいないわね」

「そりゃな…っていうかこの扉、グリゴールが自分で付けたのか?それにしちゃ随分外観に馴染んでるが」

「ある程度は意思疎通できたみたいだし、ダラビエトレントに造らせたんじゃない?」

「ああ、なるほど」



 雑談を挟みつつ、先頭を行くリーゼに付いて行く。



「確かここら辺に…あった」

「これは…職球ジョブスフィア?」



 リーゼの視線にあったのは、カミラの迷宮にあった職球ジョブスフィアのような大きな球体。そこかしこに蔓が巻き付いていて完全に同じとは言えないが、外見は非常に似通っている。前来た時には気付かなかったが、こんなものがあったなんてな。



「似てるけど違う。これは、この魔獣の核」

「核?」

「ん、前に言ってた魔力の中心地。ここから魔力を流せば、それが樹全体に栄養みたいに行き渡る。グリゴールはここから、闇の魔力を流していたんだと思う」

「へぇ…で、どうするんだ?」

「魔力を流せるってことは、その逆もできる」



 …なるほど、そういうことか。



「ここから、魔力を全部吸い取る。森から奪ってた養分、返してもらわないとね」

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