152.同類
コボルドの上位種、ではないのは確かだ。あの犬っころがこんな怪物になるわけがない。そもそもこいつはどうやら四足歩行、間違いなく別の生物だろう。この暗闇の中でも白く輝くその体毛も、コボルドとは大きくことなっている。
そして、『黒』の魔獣、それに成りかけている個体でもない。あの体が纏う圧倒的な強者の威圧感は、促成栽培で無理やり引き上げられた強さでは得られない。生まれ持った格、それを裏付けるだけの自信と経験の上に成り立つものだ。
では今目の前にいる獣は、一体なんだというのか。俺はその答えを、本能的に理解していた。いや、理解させられていた、という方が正しいかもしれない。
「さてと…言葉は通じるのか?──神様?」
【
「折角地下深くに閉じこもっていた我を起こしたのは貴様か。一体どれほどの怪物かと思ったが…なるほど、同類だったというわけか」
「同類かどうかは議論の余地がありそうだが、ま、そういうことだ」
一応コミュニケーションは可能と。口から声を出しているわけではなく、テレパシー的なスキルを使っているみたいだが、こちらの言葉は通じているし、人間の言葉で返答もしてくれた。
「見た目から察するに、獣の神、【獣神】ってとこか?」
「知らずにここまでやってきたのか、上に命令されたのか?…我には獣全てを統べるような格も器もない。我は狼を統べる獣、【
【
死は生物ではなく一つの概念、もしくは現象だ。それを統括するというのは、何だか想像がしづらい。
「貴様らの話は先代から聞いている。我はまだこの器を得てから日は浅い、だが、そう易々とこの席を貴様らに渡すつもりもない」
「別にその席はいらないが…お前がここに居座っているのは、色々と都合が悪いんだ」
狼を統べる存在。コボルドはどちらかというと犬だと思うが、こいつがコボルドを連れてこの場所に来たのは間違いない。そしてこいつがここにいる限り、鉱山はトウキョウの人々の手に戻ることはないだろう。
正直に言うなら、今は撤退するのが賢明な判断だろう。俺達がトウキョウから請け負った依頼内容はあくまで調査、今目の前にいる元凶を討伐する必要はない。
だが、俺が置かれているこの状況が、その選択を許さない。出口は後ろではなく上にあり、この高さを上るのは今の俺では不可能。こいつが見逃してくれたとしても、脱出は難しい。
そしてそもそも、こいつが俺を見逃すというのは希望的観測が過ぎる。俺は銃をホルスターから抜き、だらりと両腕を下ろす。相手は神、間違いなく俺が今まで戦ってきた奴の中で最強格。頼れるのは己の体と左右の黒い筒、懐のナイフは先の一件で刃こぼれだらけ、あいつの体には通らない。
信じられるものは、余りにも少ない。それでも、やるしかない。
「………いくぞ」
その言葉と共に、まずは挨拶と言わんばかりにフェスカの銃弾を一発撃ちこむ。魔力制御の鍛錬を積んでいたお陰で、強力な一撃も相手に隙を見せることなく放てるようになった。
「舐められたものだ」
ヤツは俺の一撃を、一切避ける素振りを見せずに受ける。激しい爆発が辺りを包み込むが、ヤツは中心地にいようと無傷なんだろうな。俺はその爆発を煙幕のように用いて、接近を試みる。
(…流石に無理か!)
『危機察知』が今までにないほどの危険を伝えてきた。地面に靴底の跡を付けながら、無理矢理体を反転させて距離を取る。
直後、俺が向かっていた場所を、激しい突風と爆音が襲った。爆発の煙を全て晴らしたその先では、唸り声を上げる狼が一匹、いや一柱か。ただの咆哮でこの威力か…冗談きつい。
「…悪いが、遊びに付き合うつもりはない」
「悪いけど、遊んでいるつもりは毛頭ない」
地力は向こうが圧倒的に上、戦闘のペースを握られるとマズイ。俺はラルとフェスカの銃弾をばら撒き、なんとか一撃を当てる隙を伺う。
先ほどの咆哮を考慮するなら、なるべく距離を取らずに接近した方が良いかもしれない。だが、なんの目眩しも無しにヤツに接近するのは不可能に近い。ヤツの体を構成している強靭な牙と鋭利な爪は、間違いなく咆哮以上の脅威だ。
そんなことを考えながらばら撒いた銃弾は、そのほとんどがヤツの体に襲い掛かるが…やはり、避けようともしない。ばら撒いてはいるが、今俺が放っている銃弾はその気になれば一発でコボルド数匹を纏めて殺せるほどの威力を持っている。決して生半可な一撃ではない。
(要塞かよ…分かってはいたが、厳しいどころの話じゃないな)
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