158.闘争の終幕

 閃光がこの空間を支配し、光によって俺達の視界は潰されている。



 あの二発の銃弾は、まず間違いなくヤツへと着弾した。気が付けば俺の体からあの光は消え、あの力も抜けてしまったように感じる。いや、これは抜けたというより、体の奥に沈みこんだ…?


もう目視することはできないものの、まだ体のどこかに残っているような、そんな感じがする。



「……エイム」

「シルヴィア、大丈夫だったか?」

「ええ、何とかね。さっきのは一体何?」

「さぁ、俺にもよく分からん」



 光が消えたタイミングで、シルヴィアとリーゼが俺の元までやってきた。二人の違和感に硬いような様子は見えず、ヤツの圧力から脱することが出来たように見える。



 と、いうことは…?



「クフ…やはり、この力は…」

「……おいおい、マジかよ」

「頑丈なんてものじゃない。不死だと言われても納得する」



 リーゼの言う通り、もし不死の存在が実在するなら、それは目の前の神なのではないかと思うほどだ。


 勿論、無傷というわけではない。体のあちこちからは赤い血液が流れており、今は息を整えることに専念しているようだ。神様の血も赤いんだな。



「今しかないんじゃない?」

「ああ、それはそうなんだが……」

「もう、こちらは手詰まりよ。エイムも動け無さそうだし」



 相変わらずシルヴィアにはバレバレみたいだな。先程から凄まじい脱力感が俺の全身を襲っていて、本音を言えばすぐに倒れ込みたい気分だ。今は気力で立っているに等しい。


 そして恐らく、リーゼの魔力もほとんど空だろう。シルヴィアはまだ余力があるのかもしれないが、流石にシルヴィア一人での突撃は無謀そのもの。



 それに余力があるとはいえ、それは体力の話。最近まで魔力をほとんど戦闘に使っていなかったシルヴィアは、そもそもの体内魔力量が俺達と比べると少ない。


 向こうは手負いだが、魔力を流さないとあの黒剣はただの鉄剣とそう大差ない性能だ。相手は神、ただの剣の一撃では止めを刺すことは出来ないだろう。



「……エイム。確か、そう呼ばれていたな」

「……ああ。それが俺の名前だ」



 俺達が足踏みしている間に、狼神は息を整え終えてしまったようだ。だが、先程までとは打って変わって、その雰囲気には威圧感というものが存在していない。


 シルヴィアとリーゼにも特に変わった様子はない所を見ると、本当に雰囲気が変わっているようだ。弱っていてその覇気が鳴りを潜めている、というわけではどうやらないらしい。


傷だらけだが、ヤツの足取りはしっかりとしている。あれが強がりでなければ、まだまだ戦闘は可能だろう。



「そうか、エイム。そういえば聞いていなかったが、貴様は一体、何の神なのだ?」



 確かに、言われてみれば名乗っていなかった気がする。別に教える義理はないが、コイツ相手に隠す理由もない。



死神しにがみ、【死神リーパー】。それが、俺の職業だ」

「……ク、クク。そうか、なるほどな、ハハハ!!」



 ……え?何故か笑われてしまった。突然笑い出した狼神マナガルに、二人も困惑の様子を浮かべている。



「どこかおかしいと思ったのだ。いかに我が未熟と言えど、ここまでの若輩者を奴らが送ってくるはずがない。エイムよ、重ねて問うが、神の器を得てからはどのくらいだ?」

「……三年、ってところだな」

「三年か。雛どころか、まだ卵ではないか」



 三年も経てば一人前だと思うんだけどな。神だからか、時間のスケールがデカい。


 それにしても、この一連の会話から、向こうの敵意が消え去っているように感じる。こちらとしてはありがたいが、何故ここまで急に態度が軟化したのか、その理由が全く分からない。



「先代からは、神について何も教わっていないのか?」

「先代?」

「貴様の前の代の【死神リーパー】のことだ」

「会ったことが無い」



 そもそも俺より前に【死神リーパー】がいたこと自体、初耳だ。



「……はぁ、あやつならやりかねんな」

「知り合いなのか?俺の先代に」

「ああ。以前に一度相まみえたことがあるだけで、交流があるわけではないがな。名も知らん」



 よく分からないが、狼神マナガルの言葉から推察するに、俺の前任者はかなりいい加減な奴だったらしい。流石にあの球体が前任者というわけではないだろうし、もし出会うことがあれば文句の一つでも言ってやろう。生きているのかどうかすら知らないけど。



「だが、どうやらあやつの瞳は悪くないらしい。黄金の力を持つ者が死を司るか…クク、面白い」

「さっきの力について、何か知ってるのか?」

「ああ、我の先代から伝えられた。教えてやっても良いが、その前に…」




「『神狼の福音マナガルム・エヴァンゲル』」



 狼神マナガルが虚空に向かって吠えると、この薄暗い洞窟を、小さなオーロラが照らし出した。そのオーロラから降り注ぐ光が狼神の体に触れると、ヤツの体は光り輝きながら傷が塞がっていく。



「回復まで出来るのか、もう何でもありだな」

「貴様も似たようなことをやっておっただろうが」

「あれは俺のスキルじゃない」



 『纏身てんしん樹装じゅそう』のことを言っているんだろうが、あれは行使に制約が多いうえ、乱発は出来ない。



「我の福音も似たようなものだ…それほど長くはならないと思うが、楽にして良い。そこの使徒…いや、使徒ではないのか」

「戦闘中にもそういったはずだぞ、二人は俺の仲間だ」

「許せ、神に仲間など普通は存在しない。連れ歩くのは、自身を信仰する使徒くらいなもの」



 それは何となく分かる。神が徒党を組む光景はイメージ出来ない。



「ともかく、そこの二人も楽にしてくれ」

「……分かったわ」

「ん」



 その言葉を聞いて、二人は倒れるようにその場に座り込んだ。二人も限界だったのだろう。


 座り込んだ俺達の元へと、トコトコ歩いてやってきた狼神マナガル、自然と体が強張ってしまうが、ヤツが攻撃してくる様子はない。ホントに何が何なんだか。




「さて、何から話そうか」



 

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