36.思わぬ障壁

 街の街頭や舗装された道路なんかは洋風な感じだが、建物の質感は現代日本でよく見るコンクリートのような建物が多い(洋風な建造物もあるにはあるが)。拠点の外周近くには同じような構造の建物も多く、多分これは『混沌の一日』以降に急造したものなんだと思う。



「ここが……」

「第一拠点マーティン。日本列島最大の防衛拠点であり、俺達の故郷だ」

「場所は変わっちまったから、故郷と呼べるかは微妙なトコだけどね」

「街の外観も随分変わっちゃいましたしね」



 まるで世界が混ざったことを体現したような街並みだ。俺としてはごちゃごちゃしていて違和感がすごい。



「おし!とりあえず時間も遅いし、まずは宿だな!」

「エイムは何か要望はあるかい?」

「屋根があるだけで御の字です。相場が分かりませんけど、なるべく安い所をお願いしたいですかね」

「ってなると……あそこが良くないですか?」

「そうだね。ならまずは私達の家に向かおうか」



 街の中は徒歩の方が移動しやすいらしく、まずは車を駐車すべくローレンガー夫妻宅へ向かう。



「シルヴィアも家があるのか?」

「ええ、ガイさん達の家からはちょっと距離があるけどね」

「……やっぱり、家って高いか?」

「購入ってなるとそれなりにするわ。そうね……ついでにお金についても話しておきましょうか」



 シルヴィアは懐から、三種類の貨幣を見せてきた。



「色で大体察すると思うけど、これが銅貨、銀貨、金貨よ。金貨は銀貨100枚分、銀貨は銅貨10枚分の価値があるわ。だから金貨は銅貨1000枚分ね」

「なるほど」

「ちなみにエイムがもらった袋には銀貨10枚分が入っているはずよ。銀貨だけだと使いづらいから、銅貨も混ざっていると思うけどね。大体宿代諸々で、銀貨1枚もあればこの街では暮らしていけると思うわ」



 シルヴィアは丁寧に説明してくれる、ありがたい。



「で、家を買うには最低でも金貨30枚は必要よ。これは集合住宅……エイムの世界でいうアパートかな?の話で、一軒家だと100枚くらいはかかるわね」

「うへぇ……流石に家はとんでもないな」

「ま、エイムの腕なら軍に入ればある程度実入りのいい仕事もすぐにさせてもらえるだろうし、そう難しいことではないと思うわよ?」



 実入りのいい仕事って、それだけ危険な仕事ってことだよな。できれば多少貧しくなってもいいから安全な仕事で稼ぎたい。別に興味本位で聞いてみただけで、そこまで持ち家に固執しているわけでもないし。



「着いたぜ」

「一旦下りるよ」



 到着した家は、二階建ての一軒家だ。話によると、ガイさんの両親から受け継いだものらしい。



「おし、それじゃあ宿へ向かうか」

「そうだね、歩きだとスリも多いから気を付けなよ」

「わかりました」



 多分『危機察知』だと反応しないだろうなぁ……自分に直接的な被害があるわけでもないし、こればっかりは自分で気を付けるしかない。


 若干混沌じみた街並みを見回しながら、ガイさん先導の元、宿へと向かう。





♢ ♢ ♢





 宿を探し始めてから、



「申し訳ありません……」

「ここもか……」



 何故こんなに時間がかかっているのかというと、どの宿も満室で単純に泊まれる場所が見つかっていない。



「珍しいねぇ……何かあったのかい?」

「事情はよく分かりませんが、他拠点からの来訪者が団体で何組か街にいらしているようでして……」

「仕方ないけど、これは困ったねぇ」



 ここは一般的な相場からするとかなりの高級宿らしいのだが、それでも埋まっているのか。



「タイミングが悪かったか……」

「どうする?」

「どうしましょうか……」



 別に最悪寝袋でもいいのだが、街中でホームレスみたいな真似をするのには流石に抵抗がある。

 

 賃貸とかないのか?あるならもう契約するっていう手もあるが……いや、あったとしても今の手持ちだと足りないか。流石に銀貨10枚すべて使い切るわけにもいかないし。



「あー、その……エイム?」

「ん?」



 どうしたものかと頭を悩ませていると、それまで沈黙していたシルヴィアが口を開いた。何やら若干顔が赤いようだが、一体なんだ?



「そ、その、もしよ?もし、い、嫌じゃなかったら……うち、泊まる?」

「……へ?」



 まさかの申し出に、悩んでいた頭の機能が止まったかのように思考が停止する。



「おやおや」

「ほう……?」



 そしてガイさん達は途端に悪巧みを思いついたような顔になり……。



「確かにシルヴィアちゃんの家なら人ひとり泊めるくらいどうってことないだろうけど……本当にいいのかい?」

「ま、まぁエイムにはお世話になったし、一晩くらいなら……」



 いやいや、流石に色々とまずいと思うんだ。シルヴィア達の国ではそういったことにあまり頓着しないのかとも思ったが、シルヴィアの反応を見る限りそういうわけでもなさそうだし。



「うし、ならお嬢の気が変わる前に準備しないとな!行くぞ坊主!」

「へ?行くってどこに……うぉ!?」



 ガイさんが強引に腕を引き、宿を出て街に繰り出す。ってか力強いな!『危機察知』を使っていたら反応するレベルだぞ。



「カルティはお嬢と一緒に一旦家に行っといてくれ」

「はいよ。さ、シルヴィアちゃん。あたしらは家で待っておこうか」

「はい……でも準備ってなんですか?」

「帰ってきたら分かるよ」

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