第3話
俺たちは灰狼を倒した場所から20分程山を下り、昔は展望スポットだったと思われる少し拓けた場所から山の麓を見下ろし固まっていた。
「これはいったい……」
「壁……ですね」
眼下には所々に民家があり、人工の光も見える。いやそこじゃなくて、俺たちのいる山がぐるっと高い壁に囲われている。
「地球にも魔獣が出るようになって、そのエリアを壁で囲い隔離しているってことか?」
壁で囲って人間が生活する場を確保していたあちらの世界と違い、危険な場所のみ壁で隔離できてるならまだマシか? しかし元の世界に戻って来ても魔獣がいるのかよ、この15年で一体何があったんだ?
「取り敢えず壁の外側の恐らく出入り口らしい所から、少し離れた場所にあるキャンプ場に転移するぞ」
「はい、主様」
俺は蘭を抱き寄せ転移する。転移は視界に映る場所や過去に行った事があり、明確にイメージできる場所であれば発動することができる便利な魔法だ。
「よしっと。ここならキャンプ場の外れだし、もう深夜で人も出歩いてなさそうだからテントでも張って寝るか」
「主様、蘭はお風呂に入りたいです」
「ああそうだな、今日は魔王討伐から色々あったし一緒に風呂入って汗を流すか」
「はい! 主様のお背中流します」
俺はアイテムボックスから魔道具であるテントを取り出し設置した。
このテントは見た目こそ4人用テント程度の大きさだが、空間魔法が付与されている。中に入ると20畳ほどのリビングと8畳程のベッドルームが2つに、6人は一度に入れる大きさのお風呂とトイレ・キッチンが付いており、古代ダンジョンで手に入れてから重宝している。
俺は念のためテント入口に結界を張ってから蘭と共に入り早速浴室へと向かった。
浴室で蘭と一緒に汗を流した後にまた汗をかいてまた流したりを幾度か繰り返し、2人でイチャイチャしながらリビングのソファーに座った。
俺はアイテムボックスから蘭の好きな果実酒と、魔法で氷を出しツマミにオークキングの干肉を用意して2人で乾杯する。
「魔王討伐お疲れ様、そして我が故郷地球へようこそ! 乾杯!」
「乾杯です。うふふ……もうなんの憂いもなく、これから長き時を主様と一緒にいられるなんて蘭は幸せです」
「あはは……まさかあの時の魔獣に追いかけ回され、ボロボロだったちっこい狐とこんな関係になるとはな」
「あの時は群が襲われ家族も目の前で殺され、長老達大人が森に火を放って必死に蘭が逃げる時間を稼いでくれました。でも結局見つかってしまい、もう駄目だと思った時に主様が現れて怪我を負いながらも蘭を守ってくれて……4度の進化で長き時を生きなければならない蘭を独りにしない為に、時の魔法書まで古代ダンジョンまで取りに行ってくれました。主様は蘭にとって恩人であり愛する人でです。蘭の全ては血の一滴までも主様の物です。愛しの主様」
蘭はそう言って俺の胸にしなだれ掛かかってきた。
いつも蘭のこのストレートにぶつけてくる純粋な感情には照れる……2年前手を出してしまった俺は決して意思が弱かった訳では無いと思いたい。
ここまで純粋な愛情をぶつけられて、しかも絶世の美女でスタイル抜群な女性に裸で迫られたら、その気持ちと身体を受け入れない奴など存在しないと思う。
結果的に光源氏みたいな事をしてしまったが俺は悪くない。いやむしろ意識してなかったとは言えよくやったと褒めたい。
「俺も蘭のいない生活なんてもう考えられないな。一緒にこの世界に来てくれて本当に良かった」
「あるじさま〜蘭はもう……蘭はもう……」
俺はお酒が回ってきたのもあり、ウルウルとした目で見つめてくる蘭を抱き抱えベッドルームへ向かった。
明日はキャンプに寝泊まりしてる人間から情報収集するかな。一体この15年で何があったと言うのか……俺は地球に戻って来たのになかなかのんびりできそうもない事に嘆息しつつ、この世界に残してきた家族や友人との再会を楽しみにしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます