第6話 聖地防衛戦





ーー アトラン大陸西の果て 守護竜の聖域 風精霊の森のエフィルディス ーー





「報告します! リンデール王国軍動きました! 戦力は飛空戦艦1、魔導戦車100、魔力障壁発生車50、魔導装甲車300、歩兵およそ7000! 」


「なっ!? 魔導戦車100に飛空戦艦だと!? 」


砦への車両の出入りは装甲車が主だったはず。いったいどこからこれほどの戦力を……


「後方の砦に隠していたのかもしれません。そして一晩で一気に集結させたのかも。貴重な飛空戦艦まであることから、恐らく王族が指揮を執っているのでしょう」


「うむむ……5年前は魔導装甲車と歩兵3000でござったが、今回は倍どころか魔導戦車まで引っ張ってくるとは……」


「先月から砦付近の警戒が厳しく忍も近寄れなかったゆえ、これほどまでの数がいようとは……面目ござらん」


「孫六殿、ダークエルフの責任ではない。我々竜人も空から偵察しようにも何度も撃ち落とされておる。砦にあの魔砲がある限りそう簡単には近づけぬよ」


「トータスの爺さん泣き言はいい。今は王国の奴らにどう対処するかだ。こっちは事前に戦える者を集めてはいたが、エルフが250にダークエルフが400。俺たち獣人が1000に竜人が60しかいねえ。1700対7000のうえに魔導戦車に飛空戦艦のおまけ付きだ。エフィルディスの姐御。指示をしてくれ。俺たち獣人はいつでもいけるぜ! 」


この聖域の森の廃村を起点にしてこの10年で8ヶ所の集落を作り、やっと4000人近くまで回復したが実戦に使えるほどの者は少ない。ダンジョンがある時ならばそれほど時間を要しないのだがな。


人族を殺してもランクが上がらない以上、私たちは技術で補わなければならない。それでさえ、人族の兵士は養殖したオークを殺し獣人並の身体能力を得ている。そこに強力な魔導兵器まで……戦いを重ねる度に人族との戦いによる犠牲が増えていく。


1700対7000に魔導戦車に飛空戦艦……5年前に戦える者を多く失ったのが痛いな。


私は判断を待つ各族長たちの視線を浴びながらふと、この会議室の壁に掛けてあるアトラン大陸の地図に目を向けた。


https://28930.mitemin.net/i412656/


アトラン大陸地図





ここはアトラン大陸の西の果て……逃げ場はない。

前回と同じくドワーフやホビットに年寄りや子供などの非戦闘員を聖域の奥地に避難させ、聖地の入り口で防衛するしかない。


前回以上の熾烈な戦いになるだろうが、3日……長くて4日耐えさえすれば今朝ヴェール大陸へと飛び立ったドーラ様がお戻りになる。

ダークエルフたちには申し訳ないが、闇に潜み魔導戦車を足止めしてもらうしかない。

あれの射程圏内に我が軍を入れてはならない。


「皆、勇者様の『げりら』戦術で対応しようと思う。ダークエルフの働きに頼ることになるが、魔導戦車をこの森の周囲に配置させてはならない。小太郎殿、孫六殿、左太夫殿。やってくれるか? 」


「当然でござる。老いたとはいえ、『げりら』戦術は我ら真宵の森の三傑が勇者どのに伝授された技」


「拙者たちにまかせるでござる。前回同様指揮官を狙い混乱させたうえで、魔導車輌を破壊するでござる」


「真宵の森忍軍最強の我らが前線に出て指揮をするでござる。エフィルディス殿は何も心配することはないでござる」


「そうか。なら頼む。早速森の闇に紛れてくれ」


「「「 がってん承知でござる」」」


勇者様には頑なに彼らに近付くなと幼い頃に言われていたが、なんとも頼もしい者たちよ。


しかしあの独特の言葉づかいには何十年経っても慣れないな。女のダークエルフは少しおかしいくらいなんだが、男たちは飛び抜けておかしな話し方をする。小太郎殿たちはそれが忍者なのだと言っていたが、彼らはダークエルフではないのだろうか?

全身からそれ以上聞くなというオーラを出している気がして毎回詳しく聞けないままだが……


それよりも今は王国軍の迎撃だ。

また多くの者たちを失うことになるのか……




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




バシュッ! バシュッ! バシュッ!

バシュッ! バシュッ! バシュッ!



「魔銃の一斉斉射が来たぞ! エルフ隊は壁を! 『シルフよ! 風の守りを! 』 」




「森へ後退せよ! 木々を倒し魔導装甲車を森に入れさせるな! 」


「「「 ハッ! 」」」


リンデール王国軍が聖域へと侵攻を開始してから2日が経過した。

初日はどういうわけか王国軍は聖域の手前で広く展開したまま一夜を過ごしていた。

そしてそこには魔導戦車は20輌しか見つけることができなかった。


そして翌日の早朝。王国軍が聖域の入口へ、一気呵成に侵攻してきた。

私たちは広い範囲からの同時侵攻に苦戦を強いられ、丘を越え森へと後退していった。


「おかしい。魔導戦車が全く攻撃をする気配がない」


「魔石の温存でしょうか? 」


「そうかもしれないな。魔脈からの魔力の吸い上げ量は年々減っていっているはずだからな。私たちよりもオルガス帝国との戦争に使いたいのが本音だろう」


魔石は消耗品だ。しかも純粋な魔物の魔石とは違い、魔脈から吸い上げた魔力を凝縮して作り出した魔石は魔力の密度が低い。大量に使用することでそこを補っていたが、ここにきて魔脈からの魔力の吸い出し量が減ってきているとドワーフの協力者が言っていた。


王国としては私たち勇光軍の残党に使うよりは、この世界の覇権を争っているムーアン大陸のオルガス帝国との戦争に使いたいのが本音だろう。


しかしならばなぜ魔導戦車を持ってきたのだ?


「ほ、報告します! 東の山の山頂付近に飛空戦艦より吊り下げられた鉄の箱から、魔導戦車10輌が出現! 」


「なんだと!? 至急孫六殿を向かわせよ! 」


「ハッ! 」


「これは……里の長老たちより聞いた勇者様の……」


「ああ、魔王軍との戦いでドーラ様に大きな籠をぶら下げさせ、そこに首刈り兎たちを入れ敵軍の後方にいる本陣へ解き放った戦法だ。人族にも言い伝えられていたのか……」


長老から聞いた話だが、魔王軍のあまりの大軍に嫌気がさした勇者様が、首刈り兎たちをドーラ様の背にではなく籠に入れ敵軍の本陣を急襲したとか。それにより敵軍は大混乱に陥り、短時間で戦いに勝利することができたという伝説の戦術。


これは当時勇者様が鍛えていた獣人最弱の種族である兎人族のデビュー戦だったとか。

2人一組で魔物や魔族の首を執拗に狙いはねることから、これ以降兎人族は首刈り兎と魔王軍と王国軍から恐れられるようになったそうだ。


確かにあの者たちは恐ろしかった。あれは私でも苦戦することだろう。

しかしそんな彼らも10年前の決戦と5年前の防衛戦で……



「まずいですね……このままではこの森は魔導戦車に包囲され集中砲火を受けます」


「ダークエルフの者たちに急襲させるしかないだろう」


森を囲む山の上に戦力を割かねばならないとは……ダークエルフたちが遠く離れるのは痛いな。

しかし放置しておけば詰む。なんとしても魔導戦車を破壊してもらわねば。





それから数時間が経過し、森を魔導装甲車に包囲され王国軍兵士たちの侵入を許し戦っていた頃。


「ほ、報告します! 東の山へ向かった孫六様の部隊全滅! 孫六様は討ち死に!続いて西の山へ向かっていた小太郎様の部隊壊滅!小太郎様は一命を取り留めましたが手足を欠損! 戦闘不能! いずれも飛空戦艦からの主砲を受けてのことです! 」


「孫六殿が!? ……そうか……ご苦労。小太郎殿には治療に専念するよう伝えてくれ」


「ハッ! 」


「孫六さん……」


「ララノア……これは完全に包囲されるのは避けられないかもしれない」


「ウンディーネがいる以上焼き討ちは時間が掛かるのでないと思いますが、徹底的に魔導砲を撃ち込んで私たちを殲滅しようとする可能性はあります」


「ああ、飛空戦艦と山の上からの魔導砲の砲撃を受けてはひとたまりもない。しかしこの森より下がることはできない。戦えない者たちを巻き添えにしてしまう」


こうなっては仕方がない。せめて未だ6000近くいる王国軍を……

総員で突撃すれば魔導戦車は森を撃っても意味がなくなる。ならば後方の非戦闘員を追うことのできる歩兵と飛空戦艦を殲滅する。そうすればドーラ様がお戻りになるまで時間を稼ぐことができる。


残されたものにあとは託し、私はこれで……


そこまで考え私は親友のララノアを見つめた。

ララノアは私の伝えたいことを察し、覚悟を決めたようにゆっくり頷いてくれた。


「報告します! 魔導戦車が森を囲む四方の山頂に! 」


完全に包囲されたようだ……時間が無い。


「総員聞け! このままでは魔導戦車と飛空戦艦からの斉射で全滅する! 我が軍はこれより全部隊で正面の歩兵部隊へ突撃する! エルフと獣人はララノアを敵軍の奥深くまで送り届けろ! 竜人は森を出たら私を飛空戦艦へ! 私とララノアは禁呪を発動する! 」


「……獣人軍よ! 聞いたか! これがエルフだ! 魂までも消滅させる禁呪を使い未来に命を繋げる! これが勇者様が認めたエルフの姿だ! 勇者様に! エルフに! いつも助けられてきた俺たち獣人にできることはなんだ? そうだ! 俺たちにできることはエルフの意思を実現させるために花道を作ることだ! 誇り高き獣人種の者たちよ! 命を惜しむな! 俺たちが先陣だ!俺に続け! 突撃! 」


》》》


ゼルム……悪戯小僧だったお前がこんなにもたくましくなるとはな……


私はララノアと森の中を外に向かって走り出した。

私たちの前にはエルフとダークエルフ、そして獣人たちと竜人たちが雄叫びをあげながら王国兵をなぎ倒しながら疾走している。


私は隣を走るララノアへと声を掛けた。


「ララノアすまない。一緒に死んでくれ」


「ふふふ、いいですよ。私たちは親友ですから。精霊界へも付き合います」


「ありがとう。願わくば……」


「そうですね。願わくば精霊となり……」


「「 勇者様のもとへ」」


勇者様……強くて優しくて、いつも私の頭を撫でてくれて……私が引きこもっている時も何度も里にきて私の好きな果実を置いていってくれて……勇者様……願わくば精霊となり勇者様の……私の初恋の人のもとへ……


「トータス殿! 」


森の出口が見え、私はトータス殿に飛び立つ準備をと声を掛けた。


「おうっ! この老いぼれが送り届けてやろうて! 皆の者! エフィルディスが飛空戦艦に辿り着けるよう盾となれ! 残りの竜気を全て注げ! 『竜化』 」


》》



「シルフ、ごめんね。私を飛空戦艦へ連れ ……えっ? シルフ? 」


森の出口が見え空へ飛び立とうとシルフにお願いをした時。シルフが笑いながら首を横に振った。


そしてすぐに天地を揺るがすほどの轟音が、全方位から鳴り響いた。


私はわけもわからずそのまま森を出ると、先を走っていたはずの獣人やエルフたち。そして竜人たち全てが上空を見て固まっていた。


私とララノアは一瞬目を合わせたのちに、皆の視線を追い上空を見上げた。



そこには銀色に輝く鎧をまとったドーラ様のお姿と


その背には刀と杖を手に持つ人族にダークエルフの男女と女性の竜人。


若草色のチュニックを身にまとい、とんでもない高位のシルフを従えているエルフの後ろ姿と


うつ伏せで森を目を凝らして見ている狐耳の女性。


そして光り輝く剣を手に持つ黒髪の男性の後ろ姿があった。



『おいおい、リンデールのクソどもが。随分調子に乗ってるみてえじゃねえか。全員生きて帰れると思うなよ? 』


『私の里を燃やし多くの同胞を殺して妹分たちまで手にかけようとはね……皆殺しにしてやるわ』


『エフィルちゃん! ララちゃん! 蘭がきました! もう大丈夫です! 2人は蘭が守ります! 』



「あ……ああ……こ……この声は……あの姿は……」


うそ……そんな……ありえない……でも……見間違えるはずがない……何百年経とうとも見間違えるはずが……それでも……だって……どうしてここに……


「エ、エフィル……あ、あれは……ランおねえちゃんに……あの剣と後ろ姿……それにあの大精霊は……」


「ええ……間違いない……あれは……」



私とララノアがその目で見て聞いた声は、まさしく勇者様とシル姉様。

そして幼馴染のランランのものだった。


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