第87話 願い






『では私の願いを叶えてくれたあなた達に加護を授けましょう』


いよいよ念願の心話をもらえるのか。今回の旅は色々と出費は多かったが、皆のランクも上がったしへタレのクオンも少しだけマシになった。そしてなによりも創造の魔法が手に入ったし、心話という今後重宝するであろう魔法までもらえる。

出費した素材はいずれ何千倍になって帰ってくるし、結果的に凄くお得な旅だったな。


「あ、アマテラス様! 」


『……どうかしましたか? 』


「どうしたんだ凛? 」


俺がずっとエロい使い道を考えて楽しみにしていた心話を授かるのを今か今かと待っていると、突然凛がアマテラス様に話しかけた。


「わ、私もアマテラス様の加護を頂けるという事は、少なからずお役に立てたということでしょうか? 」


『ええ、貴女だけではなく他の方たちの活躍も見ておりました。ただ方舟を攻略するだけではなく、未来のことまで考え民たちを鍛え導くのは佐藤殿一人では難しかったでしょう。それに尽力したことを認め、全員に私の加護を授けることにしました』


「私の働きを認めてくださったのでしたら、加護の代わりにお願いがございます」


『願い……ですか? それは私の加護より大切なことなのですか? 』


「わ、私にとっては……そうです」


「お、おいっ! 凛! これだけ多くの者に加護をくれるだけでも相当特別なことなんだぞ? それを断って別の願いを言うというのは失礼だぞ? 」


なにを言ってるんだ凛は……アマテラス様の声が少し低くなったぞ? 怒らせてせっかくの加護をもらえなくなったらどうすんだ?


『……よいでしょう。その願いとやらを聞きましょう』


「あ、ありがとうございます。お願いとは、ここにいる私の大切な人を家族に会わせて欲しいのです」


「凛……それは前に説明しただろ? いくらアマテラス様でも、数多くある並行世界の中から俺がいた世界を探すことは無理だって」


「わかってる……わかってるわよ。でもどうしてもダーリンと陽子さんを会わせてあげたいのよ。だってあんまりじゃない! 家族に別れを言う間も無くある日突然異世界に拉致されて、何度も何度も死にそうになってやっと使命を果たしたのに元の世界に戻れないなんて……そんなのあんまりよ……」


「凛……昨日のことを気にしてるのか? 確かにお袋に会えてさ、今まで封印していた想いが溢れて醜態を見せちゃったけどもういいんだ。俺があのとき元の世界に戻っていたら、凛や夏海にシルフィやセルシアとは出会えなかった。それにここにいる大切な仲間たちにもな。俺は元の世界に帰れなくても幸せなんだ。いや、むしろ帰れなくてよかったとさえ思ってる」


相変わらず優しい子だ……昨日の俺の姿を見て、加護と引き換えに俺のためにアマテラス様に願いを言うなんて。凛……震えてるじゃないか。アマテラス様の存在感は凄いからな。俺や蘭以外で話しかけることなんて怖くてできないだろうに……


「でもっ! でも……」


「アマテラス様! 蘭も加護の代わりにお願いします! 主様を陽子さんに会わせてください」


蘭!?


「アマテラス様。私もお願いします。コウが家族と会えるよう御尽力ください」


「あ、あたしも加護より旦那さまを家族に会わせてあげたい! なあ、頼むよ! アマテラス様」


「私もお願いします。世界のために戦い傷付いた勇者へ何卒お慈悲を……光希を家族に会わせてあげてください」


シルフィにセルシアに夏海まで……


「わ、我らサキュバス族一同からもお、願い致します! 我らの王に何卒御慈悲を! 」


「お、お願いだよ……ボク、光魔王様の喜ぶ顔が見たいんだ……」


「か、神よ……どうかお願いしますわ」


「「「わ、私たちからもお願いします! 」」」


リムにミラにユリに他の者たちまで……さっき加護をもらえること喜んでたじゃないか。ミラなんて心話の能力を聞いた時なんて飛び跳ねて喜んでたのになんで……

お前たちは昨日こと知らないだろ? 知らないよな?


「わ、我らダークエルフ一族からもお願い致します……我らの家族を救ってくれたお屋形様へ、何卒救いの手を差し伸べてくだされ」


以蔵! お前もか!


「「「 俺たちからも頼む! 」」」


ゾルたちも……


「「「私たちからもお願いします! 」」」


ヨセフさんにニーチェたち……


「クオッ! クォォオン! 」


「「「「「キュオッ! キュオオッ! 」」」」」


クオンにグリ子は絶対わかってないよな? ノリでやってるだろ!


「みんな……」


なんだよなんだよ……俺は別に元の世界なんて帰れなくたっていいんだ。俺のことなんかより加護の方がいいに決まってる。

強くなれるんだぞ? こんなチャンス二度とないかもしれないんだぞ?

それなのに俺なんかのために……みんな馬鹿だろ……


『佐藤殿。よい仲間を持ちましたね』


「申し訳ありません。約束とはいえ全員に加護を与えてくださることが、アマテラス様のご厚意であることは皆も承知しているはずなのですが……昨日俺が弱みを見せてしまったせいで、皆にいらぬ気を使わせてしまいました」


『元の世界に戻せなかったことは私たちにも原因があります。創造神様の試練の無い世界に戻すには余りに惜しい能力だったのでしょう。当時は強者という認識しかありませんでしたが、私を含め神々によって呼んだことは事実です。こうして知己を得て好ましく思えるようになった今、願いを叶えて差し上げたいのですが……以前も申し上げたように数多ある世界から探し出すことは難しいのです』


そうだよな。そもそも送還される時に凛や夏海のいた世界の神々が横槍を入れてきて、リアラがそれを許可したんだよな。

おかげで凛と夏海に出会えて、失ったはずのシルフィと再会できた。それに今じゃ可愛くて仕方ないセルシアに、俺を心から慕ってくれるリム三姉妹。そして紫音に桜と俺に最高の時を過ごさせてくれたダークエルフの女の子たち。本当の妹みたいに思えるイスラにニーチェとも仲良くなれた。


そう、俺は元の世界に帰らず楽園に来たんだ。

俺を呼んだ神々よ……マジで感謝してる!


「そんな……な、なにか方法はありませんか!? なにか……あ、会うのが無理ならせめてダーリンが無事であることだけでも伝えることができませんか? 」


まあ確かに無事だってことは伝えたいけどな。そんなの無理だろう。それをするには世界を特定しなきゃなんないからな。


『特定の日にこの伊勢神宮か私に連なる者が祀られている神社に来て、その者が強く佐藤殿のことを祈れば伝えることは可能です 』


「決まった日に神社に来てダーリンを強く想わないと駄目なんて……」


ん? あれ? できるの?

でも特定の日にアマテラス様に繋がりのある神社か……強く俺を想うのは多分大丈夫だろう。俺の無事を神に祈ってそうだしな。しかし特定の日と神社……あっ!


「アマテラス様。お袋は毎年東京の府中にある大國魂神社おおくにたまに初詣に行ってます。その神社に祀られている主神は、大國魂大神おおくにたまのおおかみまたは大国主神おおくにぬしのかみと呼ばれておりまして、アマテラス様の弟君の須佐之男命すさのおのみことの娘婿と聞き及んでおります」


そうだよ、正月なら必ずあの神社に俺たち家族は行っていた。俺も小さい頃から毎年連れられて行っていたからな。俺は屋台が目当てだったけどな。あの神社の主神はお袋がよく日本書紀に登場する農業と薬の神さまで、アマテラス様に連なる神様だと言っていたのを覚えている。

ちなみにこの神社はパワースポットとで有名で、去年皆で初詣に行った場所でもある。


「あ、去年初詣に行ったところ……」


「ああ、あの神社のことだよ」


『はい。確かに大国主神は私の愚弟の娘婿です。そうですか……それでしたら元旦に来た者に耳を傾けるように言っておきましょう 』


「あ、ありがとうございます! 」


「アマテラス様、ありがとうございます。無理を言ってすみません」


『いえ、日と場所がわかればたいした労力ではありません。それに大国主神がやることです。毎年佐藤殿が元気で幸せに過ごしていると伝えさせましょう』


「ありがとうございます。俺はそれだけで心の荷が降ります」


お袋に俺が無事なことさえ伝わればもう思い残すことはない。


『それにしても凛、でしたか? 私の加護を断り愛する者のために願い出るとは……』


「も、申し訳ありません! 」


『ふふっ、その献身の心。気に入りましたよ。よいでしょう。加護は授けましょう』


「え!? 」


「アマテラス様、いいんですか? 」


『ええ、構いません。ですがそろそろそこにいる魔族の者も限界でしょう。ですから送還と同時に授けることにします』


あっ! マズイ! リムたちの顔色の悪い! アマテラス様が神気を弱めてくれてたから大丈夫だと思ったが、ずっと我慢してたのか!


「あっ! リムたちごめん! 」


「いえ……凛お妃様……私たちは大丈夫です……光魔王様のためですから……」


「気付いてやれなくて悪かった。アマテラス様! お願いします! 」


俺は急いでクオンに乗り込み、アマテラス様に送還してもらえるよう頼んだ。


『それでは送還します。佐藤殿、今回は色々と御尽力いただきありがとうございました』


「いえ、次は是非光一を使っ……ぐっ……」


俺が最後に光一を売り込もうとしたら目の前が真っ白になり、急激に魔力が抜けていく感覚が襲ってきた。

くっ……念のためもう一度光一を売り込みたかったが仕方ない……ぐっ……これ2回目だけどやっぱキツイな!


じゃあな方舟世界。

また集金に来るからしっかりミスリル掘っておけよ?


俺は光に焼かれないよう目を瞑り魔力の急激な減りに耐えながら、最後の数日で大世界山岳フィールド全ての山に探知魔法を駆使して黒鉄とミスリル鉱山を探し回った日々を思い出していた。

鉱山利権は手に入れた。賃貸料のほかに採掘した鉱石からさらに10%手に入る。


いや〜、本当にオイシイ世界だったな。

結局加護もくれるみたいだしアマテラス様には感謝だな!

でも次とかは遠慮したいけどな!


こうして一年という長い期間いることになった方舟のある並行世界から、俺たちは元の世界へと帰還するのだった。






作者から:次はエピローグとなります。長い章となってしまいましたが、お付き合いありがとうございました。

エピローグの次の章は元の世界からまた冒険が始まりますが、あまりに世界観が違う世界のため、記憶を呼び起こし設定を読み返すお時間をください。

新章は12日月曜日から開始する予定です。

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