第42話 救出







「この辺りで攻撃を受けたらしいからそろそろ反応があるはずだ」


「燃料不足で駆逐艦と哨戒機を十分に運用できないのはこういう時に致命的よね」


「そうだな。密入国し放題だし逃げられ放題だな。俺たちがいなければだけどな」


防衛大臣から職人とその家族を拉致した者たちの追跡状況を聞いた俺は、蘭とシルフィと共にクオンに乗り込み小笠原諸島上空までやってきていた。


大臣が言うには対潜哨戒機が日本近海でグアム方面に進む原子力潜水艦と思われる反応を感知し、駆逐艦二隻が追跡したようだ。しかし数時間前にこの小笠原諸島に到達した辺りで突然ミサイルが東の海上から飛んできて駆逐艦に命中し、一隻が中破し残りの一隻は救助活動をすることになり追跡を断念したらしい。海上に船の姿が無かったことから恐らく潜水艦は二隻おり、そのうちの一隻はミサイル艦だったのだろうという分析だ。この時点で近くに日本軍艦はおらず、潜水艦が米国領海に入る前になんとかしなければと俺に助けを求めてきたという訳だ。米国領海に入ろうが俺には関係ないけどね。

できれば潜水艦に乗り込まれる前に連絡して欲しかったけどな。


現在米国に問い合わせをしているようだが、米国は日本近海に潜水艦は派遣していないと否定しているらしい。そりゃ認めないだろうよ。

政府は日本海とハワイ方面へ繋がる航路も警戒しており、駆逐艦が攻撃を受けたことからグアムにある米国臨時基地に向かっている可能性が高いと見て、俺にグアム方面に行ってもらえるよう依頼してきた。


米欧英連合は在日連合軍に不測の事態があった時のためにハワイとグアムに空軍基地を維持しているらしいから、恐らくグアムから輸送機に乗り換えて米国へ向かうのだろうと政府はみているようだ。

もう完全に米国を疑ってるよな。まあ米国ならやりかねないからな。


ただ日本は今まで連合軍の索敵システムを使っていたので、日本の海上索敵能力は日本近海から離れると一気に落ちるらしい。俺がいなかったら完全にアウトだったな。急な脱退だったから軍事面の準備が追いついていなかったんだろうけど、それなら普通は拉致されないように警戒を厳重にするのが普通だ。そこは軍と警察との連携がうまく取れていなかったと大臣は平謝りをしていた。

謝られても許さないけどな。帰ったら覚えておいてくださいねと言って電話を切ったよ。


まあそういう訳で駆逐艦が攻撃を受けた小笠原諸島の上空を蘭の幻術で空の色と同化したクオンに乗り通り過ぎ、探知を全力で広範囲に掛けながらグアム方面に向かっているわけだ。


この世界の海には生命がない。元の世界では海には小さな魔力反応が多く、それが雲のようになり100m近く潜って進む潜水艦の中にいる人間の魔力反応を探るのは不可能が、この世界ではまあ目立つこと目立つこと。


「おっ! あそこだ! クオン! 高度を下げろ! 」


クォォォォン


「コウ、見つけたの? 」


「主様凄いです。蘭はまったくわかりませんでした」


「慣れだよ慣れ。反応が二つこの先にある。かなり深く潜ってるみたいだ。一つは100くらいの魔力反応があってもう一つは40くらいだ。もっと近付けば土田のオヤジと深井のおっさんの魔力かどうかわかる」


そう言って海面ギリギリを飛ぶクオンの背で、俺は魔力を操作して反応のある場所を重点的に調べた。


「間違いない。この癖のある魔力は土田のオヤジだ。同じ場所に深井のおっさんの反応もある。この100人ほどが乗っている大型の潜水艦にいるな」


「ビンゴね! でもどうするの? クオンは火竜で海には潜れないわよね? 潜水艦て水深100m近いところにいるのよね? 聖剣で増幅して辺り一面凍らすとか? 」


「蘭は海の中での戦闘は苦手ですが氷なら砕けます! 」


「死んじゃうよ! 土田のオヤジたち死ぬから! なんでそう大雑把なんだよ……何もしないよ。このままグアムまで追跡して上陸するのを待つさ」


「あっ、そうね。飛行機に乗り換えるかも知れないわね。この針路ならアメリカにダイレクトで行くとも考え難いから、グアムに上陸しているところを押さえるのが妥当よね」


「そういうことだ。クオンに少し高度を上げさせてゆっくり後ろから付いていくさ。確か30ノットの速度で進んでるとか言ってたから時速55kmくらいか? あと半日以上は掛かりそうだな」


「なんだかノロノロ進んでるのね。子供もいるのに……早く助けてあげたいわ」


「子供がいるからこそ慎重にだ。それで上陸してからの役割分担なんだが……」


俺は拉致された人たちを救出するのを最優先にした作戦を蘭とシルフィと話し合った。

救出したあとは拉致に関わった奴ら全員に地獄を見せてやる。楽に死ねると思うなよ?






「やっと着いたか……」


「結局16時間くらい掛かったわね。私とランちゃんはほとんどテントにいたから平気だけど、コウにばっかり監視させて悪いわね」


「主様だけに追跡させてしまい申し訳ありません」


「もう真っ暗だしこの中で一番探知の範囲が広く正確なのは俺だからな。気にするな」


追跡を開始して16時間が経過し日付けが変わろうとしている頃。グアムが近づくにつれてクオンの高度を下げ距離をとりつつ潜水艦の後を付いていっていると、二隻の潜水艦が浮上して島に近づいていっていた。

俺はクオンを海面すれすれに飛ばし島の陰に移動させ、双眼鏡を手に暗視の魔法を発動しながら潜水艦の様子を見ていた。

潜水艦は二隻とも島の港に着き、ハッチから人がゾロゾロと降りてきていた。その中には両手を後ろで縛られ歩かされる土田のオヤジと深井のおっさんがおり、奥さんたちは少し離れたところを縛られることなく子供を抱いて歩かされていた。その姿を確認した俺は蘭とシルフィに目で合図を送り、クオンごと潜水艦の上空に転移をした。


『転移』『氷結世界』 『プレッシャー』



「蘭! シルフィ! 」


「はい! 紋章『転移』」


「まかせて! シルフ! 二人をここまで連れてきて! 」


俺は潜水艦の上空に転移した直後に二隻の潜水艦の周囲を凍らせ航行不能にし、黒い服に黒い装備をつけた30人の誘拐犯と、潜水艦の乗務員である米軍の戦闘服を着た40名ほどにプレッシャーを発動して地面に縫い付けた。

そしてシルフィは土田のオヤジと深井のおっさんを精霊魔法で空へ巻き上げクオンの背まで運び、蘭は二人の奥さんと子供のいるところまで転移し、三人に触れながら再び転移を発動して無事に連れてきた。


「よしよし上手くいったな。土田のオヤジに深井のおっさん大丈夫か? 」


「いてててて……さ、佐藤殿か! 助けに来てくれたのか! きっと来てくれると思ってたぞ! 」


「いたたた……佐藤先生……助けに来てくれたんですね。ありがとうございます。助かりました」


「無事ならいい。俺はちょっとあいつらに用があるから先に戻っていてくれ。ドームに繋げる……『ゲート』 さあ、早くゲートを潜ってくれ。ドームには軍の人間が待機しているから大丈夫だ」


俺はシルフィの魔法で少し乱暴にクオンの背に落とされたおっさんたちの無事を確認した後に、クオンの背にゲートを発動した。そして土田のオヤジと深井のおっさんに早くゲートを潜るように言い、未だに何が起こったのかわからず目を見開いている奥さんと子供の背を押してゲートを先に潜らせた。


「あ、ありがとよ! 助かった! 」


「先生ありがとうございます! このご恩は一生忘れません! 」


「んなこといいから早く行けって! 」


俺はお礼の言葉を言う二人を突き飛ばしてゲートを潜らせ、そのまますぐゲートを閉じた。誘拐犯にプレッシャー掛けながらゲートを発動し続けるのはキツイんだよ。


「さて、他国で悪さした上に俺の教え子を攫ってくれた奴らに落とし前をつけさせに行くか」


「子供まで巻き込むなんてね。あのまま米国に連れられてたら、技法とレシピを吐かせるために子供に手を出してたかもしれないわ」


「当然皆殺しですね」


「お? 基地から武装した奴らが出てきたぞ? なんだ20人だけかよ。ほんとに非常用の基地なんだな。ご苦労さん『天雷』 」



「ステータスも上げてない一般兵しかいないみたいね。魔法抵抗がまったく無いからすぐに黒焦げになったわね」


「クオン、港に着陸しろ! 蘭、クオンの幻術を解いてくれ」


クォォォォン


「はい! クオンちゃんのお披露目です! 」


「 グッ……ググ……なっ!? ド、ドラゴン!? 」


「よう! ヤンキーども! 好き放題やってくれたな」


俺はクオンを米軍の特殊部隊と思われる奴らの近くに着陸させ、クオンから降りて地面に張り付けにされている男たちに話しかけた。


「「「「「…………」」」」」


「ダンマリか? そこの潜水艦と搭乗員の軍服にこのグアム基地。米国の奴らだってのはわかってんだ。英語でいいぞ? 」


「「「「「…………」」」」」


「ナメてんのか? 『闇刃』」


俺は40個の闇刃を頭上に発動し潜水艦の搭乗員目掛けて放った。


「「「「「ギャッ! 」」」」」


「「「「「なっ!? 」」」」」


「ん? お仲間がの首が飛んでびっくりしたか? 米軍ならわかってんだろ? ドラゴンを操る俺が何者なのかを。素直に誰の命令で拉致を実行したのか言えば楽に死なせてやっていいぞ? 」


「「「「「………… 」」」」」


「あ〜特殊部隊ってそういう訓練も受けてるんだっけ? 拷問とか? 腕とか切り飛ばされてみる? 」


「「「「「…………」」」」」


『闇刃』


「「「「「ギャアアアア! 」」」」」


「蘭、止血を」


「はい! 」


俺は闇刃を30個発動し、特殊部隊の右腕の肘から先を切り飛ばした。


「誰か話す気になった? 」


「殺せ! グッ……何を聞かれようとも我々は誰も話したりはしない! 」


「あっそ。『闇刃』 」


「「「「「 あがああああ! 」」」」」


「蘭」


「うふふふ。はい」


俺は再び闇刃を発動して残る左腕も切り飛ばした。

魔法使いはいないようだしこれでもうコイツらは戦う術が無くなった。


「グッ……な、嬲る気か……殺せ! 」


「警官を殺し子供まで攫ったお前らを楽に死なせるわけないだろ? ばかじゃねーの? 最初から訓練を受けた特殊部隊が喋るなんて思ってないしな。お前らになら心置きなくコレを使えるよ」


俺はアイテムボックスから隷属の首輪を取り出した。


「ああ、それがあったわね」


「なっちゃんがよく首に嵌めてました」


「ええ!? そんなプレイしてるの!? アレ本当に逆らえないのよ? どんな命令でも身体が受け入れちゃうのよ? 」


「はい、なっちゃんはそれがイイって言ってました」


「夏海も業が深いわね……私も一度試してみようかしら? 」


オイッ! 蘭やめろ! 今はシリアスな場面なんだよ! バラすな! それにシルフィに嵌めても効果無いから!


「んんっ! まあそういう訳だ。さて、コレを嵌めてもらおうかな」


「な、なんだそれは! 俺を奴隷にするつもりか! そんな首輪など付けて晒し者にされるくらいなら……殺せ! 」


こいつ殺せ殺せうるさいな。自殺すればいいのに。あ、確か宗教によっては自殺禁止とかあったな。その類か?


「はいはい。魔力を通して……装着っと。命令は……お前は俺の質問に全て嘘偽りなく答えろ。これでよしっ! じゃあ名前と所属から話してもらおうかな」


「なんのつもりだ! 話すわけ……ぐあああああ! 」


「話さないと激痛が走るから。そして激痛が走る度に話すのが当たり前のように思えてくるんだよ。恐ろしい魔道具だよな」


そう、この隷属の首輪と最上級闇魔法の隷属の魔法は、契約魔法と違い相手の同意無しに隷属させることができる。そして命令違反時には激痛が走る。それだけなら契約魔法の上位互換と思うかもしれないが、この魔法と魔道具の恐ろしいところは、命令違反をして激痛が走った時に人間の防衛本能を増幅させて従順にさせてしまうところなんだ。本人は命令に従うのが当たり前だと思ってしまうんだ。


夏海はわざと命令違反して激痛を味わって俺に服従するのが好きなんだって。あまりのドMっぷりにドン引きしつつも、そこまで俺に全てを捧げてくれるのが嬉しくて、夏海が嵌めたいと言うとついついこの首輪を嵌めちゃうんだよな。異世界も含めて隷属の首輪をこんな使い方をしてるのは俺と夏海だけだと思うんだ。


救いは魔道具の場合は魔法抵抗がSランク以上だと効果が無いところだな。聖属性持ちならAランクもあれば抵抗できる。なので俺や蘭やシルフィには効かない魔道具だ。



「さて、もう一度聞くぞ? お前の名前と所属を答えろ」


「うぐっ……俺の……名は……うがああああ! レオナルド・キャメロン……所属はアメリカ第2軍特殊部隊クロウの隊長……」


「そうかそうか、で? 誰の命令で動いたんだ?拉致した者たちをどこへ連れて行こうとしたんだ? 」


俺は抵抗しながらも素直に自己紹介をしていく男に対し、誰の命令で動いたのかと土田のオヤジたちをどこへ連れて行くつもりだったのかを聞き出した。ペラペラ話す男を見て周囲の隊員は信じられないという顔をしており、数人が話すなと叫んでいたりしたがあんまりうるさい奴は蘭が首を切って永遠に黙ってもらった。その光景を見た他の隊員たちは顔を青ざめさせ一言も喋らなくなった。


あれ? 殺せって言ってなかった? 死ぬ覚悟があったんじゃなかったの?

この隊長だけが言ってただけか? たいした特殊部隊だわ。


まあ、知ってることは全部話させたしこれはご挨拶に行かないといけないよな。飛ばせば日帰りできるしちょっとアメリカへ初旅行に行くか。


俺は死んだ隊員をアイテムボックスに入れ、生き残った者たちを次々とクオンの背に乗せてグアムを出発した。







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