第32話 倉木家







―― 永田町 首相官邸 四階 大会議室 内閣総理大臣 東堂 勇 ――








「防衛省、中露の動きはどうなっている? 」


「はい。中華艦隊は黄海に集結しており、朝鮮半島南部の港には無数の木造船が停泊しております。そしてウラジオストクにはロシア艦隊が確認されております」


「やはり札幌と福岡の門を奪い、そこから資源フィールドに入り東京と大阪に繋がる門を通って占領するつもりのようだな。日本海と札幌と福岡の門の防衛体制は整っているんだろうな? 」


日本各地にある門は資源フィールドに繋がっている。それを利用する事で方舟が現れる前よりはるかに短い距離で各地に輸送が可能になった。しかし逆にそれは門を奪われた時に敵軍の侵攻を早める事にもなる。方舟が現れてから中露は東南アジアとオーストラリアなどをそうして電光石火の如く占領していった。


「門の防衛に関しましては増援部隊の配置は完了しております。日本海は駆逐艦と巡洋艦及び潜水艦を配置致しましたが、燃料不足のため稼働時間に限界があります」


「今回に関しては本来なら兵法上の悪手である戦力の逐次投入をされ長期戦になるとこっちが厳しいが、あの国なら南朝鮮艦隊を最前列にして一気に上陸を試みるはずだ。まあ戦力の逐次投入をされたとしても佐藤氏に敵の軍港を潰してもらうがな。航空機はどうなんだ? 」


「はい。航空機も警戒する必要があるのはロシア軍機のみで、中華製の航空機は恐らく飛べないであろうと分析しております。中華国の制空権はロシアが握っているのが現状です」


「その辺が自ら設計製作できる国と組み立てしかできない国の違いだろうな。万が一上陸された時のことも考え、第一方舟攻略師団はすぐに動けるようにしておいてくれ。彼らがいれば中露の地上部隊程度は万単位で来ても対応できるだろう」


所詮は世界中から部品を輸入して組み立てた物を輸出して発展した国だ。基礎技術力のないあの国が一から戦闘機のような高度な兵器を作れるはずがない。20年前にロシアから買った戦闘機も修理する技術も部品も既に無いだろう。ロシアがアドバンテージである航空戦力とミサイルを売るとも思えない。連合を組んではいても中華とロシアはお互いを少しも信用していないからな。

そして中華艦隊も20年前ならともかく遠洋に出ることはもうできまい。精々が日本海を渡るのが限界のはずだ。数の中華と少数精鋭のロシア。警戒すべきはロシアのみだな。


「承知しました。 3個連隊全員がBランク以上の師団は日本だけですので、DやEランク程度の上陸部隊は軽く処理できると思います。しかし福岡と札幌が同時侵攻された場合対処しきれるか不安は残ります」


「ああ、札幌はLight mareが援軍に行ってくれるようだ。彼らは上級クラスの魔法を使える者も多く、同じBランクでも種族的な違いで人間より遥かに強いそうだ。ドラゴンやグリフォンに佐藤氏抜きでも彼らだけで第一方舟攻略師団を壊滅できるそうだ。まったくとんでもない連中だな」


「さ、佐藤殿抜きでBランクの一個師団をですか…… 」


「連隊の訓練時に死者を一人も出さないようにサポートしていた者たちだ。そんなことは連隊の者たちより強くなければできないだろう。そもそも蘭殿とシルフィ殿にセルシア殿は、一人で師団を壊滅させることができるらしい。味方で良かったな」


「ひ、一人で……そしてさらにドラゴンも……確かに味方で良かったです」


「ああまったくだ。それと真田大臣、中露から方舟特別エリアの連絡事務所に何かアクションが来てないか? 」


「ええ、相変わらず中露連合に加入しろと上から目線で言ってきてますね。それと先日上海で起こった爆発事故は日本の工作員の仕業だと断定しているようです。中華大陸には誰も行ってないんですけどね。不思議な話です」


「そういう国だ。嘘でもなんでも大きな声で言い続ければ真実になるらしいからな。次は勝手に軍艦が爆発してそれを日本の攻撃だと言い張るさ。どうせ日本に味方はいないからな」


「昔からの手口が変わりませんね。それとインドとアラブ神国が貿易の再開を申し出てくれています。石油に関してはなんとかなりそうです」


「ありがたいことだな。我が国がもう少し力を付けたらなんとか協力してやっていきたいものだ。攻略フィールド内での不戦協定の締結は進んでるのか? 」


「はい。それは問題なく締結できると思います。我々が力を示せばアジア共同体の結成も夢ではないかと思います」


「中華と南朝鮮を抜いた共同体だな」


「ええ、それは当然です。彼らとは永遠に分かり合えないでしょう。下手に情けなど掛けたら50年後の日本国民が苦しむ事になります」


「そうだな。方舟を攻略して移住が完了すればもう隣国では無くなるからな。関わらないのが一番だな」


そう、方舟は船だ。船である以上はいつかこの世界からどこかへ移動する可能性もある。それまでに移住を完了させなければ、方舟の無いこの世界に残された者は滅ぶしかなくなる。


さて、準備は整った。来るなら来い独裁国家とその属国の南朝鮮の裏切り者ども。











ーー 世田谷区 倉木家 佐藤 光希 ーー







「聞いてはいたけどほんとにそっくりね……しかも私が付けようとお父さんと揉めた光希という名前。光一だけではなく夏美さんと瓜二つの夏海さんもいるなんて……この二人を見たら光一の言っていたパラレルワールドという鏡の世界からきたっていうのも信じたくなるわね」」


「だから何度もそうだって言っただろ? 何が世の中には自分にそっくりな人が一人はいるもんだだよ」


「でもねぇ? 息子が二人いましたなんて言われてもねぇ? でも他人とはどうしても思えないのよね。わたし実は双子を産んでいたのかしら? 病院で攫われた子とか? 」


「んなわけないだろ! 自分で産んでいて覚えてないのかよ!? 」


「まあまあ、光一。いきなり自分の息子と夏美さんそっくりな人間が現れたら混乱するもんだ」


「そうそう、光希君の言う通りよ。パラレルワールドとかなんとかはよく分からないけど、でも他人じゃないってのはなんとなく感じるわ。それより貴重な薬をくれてありがとうね。もう起き上がれないと諦めていたのよ。でもおかげでこの通り元気になったわ! 」


「それは良かった。世界が違うとはいえ親孝行ができただけで俺は満足ですよ」



シルフィが企画した大会が終わって二日後のこの日。連隊の訓練時に光一からお袋が霊薬のお礼を言いたいみたいだから来てくれと言われていたので訪問する事にした。実家なのに訪問するとか複雑だ。


そして夏海を連れてハマーに乗り実家へと訪問すると、記憶より痩せているお袋が光一と夏美を引き連れ元気よく出てきた。お袋は俺の姿と夏海を見てそれから光一と夏美を見てを何度か繰り返し、なぜか大笑いして俺たちをリビングへと迎え入れたのだった。

そして冒頭のように未だにパラレルワールドがなんなのか理解できていないようだ。さすがこの世界のお袋も単純思考だな。


「まあ! なんていい子なの! あれ? 光一が息子だったかしら? それとも光希君が息子だったかしら? 」


「ちょ、おいっ! お袋! そこ悩むとこ!? 」


「ふふふ、光一もお義母さんのために一生懸命戦ってましたよ? 」


「あははは、そうだったわね。もうちょっと落ち着いてくれればいいのにね。光希君の方が年上に見えるから、光一も数年したらもう少し落ち着くかしらね」


「光希はこう見えても36歳らしいぞ? 俺だってそんくらいになれば落ち着くって」


「ええー!? そうは見えないわ! なに? あの薬みたいに老化を防ぐ薬とかあるの!? 」


「ええ、ありますよ。夏海も26なんですが20歳くらいに見えるでしょう? まずこれが内臓機能を若返らせる薬にこれが肌を若返らせる薬。他にも5年ほど若返りができる木の実や痩せる薬もありますよ」


「は? え? またまた〜光希君は真顔でそんな冗談を言って!あははは、お母さんちょっと信じちゃったわ」


「お袋、光希の言ってることは本当だぞ? 正直お袋の病気は医者が匙を投げてただろ? それがあの霊薬とポーションを飲んでから数分で走れるようになったんだ。若返りの薬があってもおかしくはないだろ? 」


「いやだわ光一までお母さんをからって。夏美さんも真顔で頷いたりしてグルなの? そうやって若返りに食い付くお母さんを見て笑うつもりなんでしょ? 騙されないわよ。そんな薬あるわけないじゃない」


「そんな意地の悪いことしねーって! 」


「そうですお義母さん。私はそんなことに加担しません」


「ははは、俺しか手に入れることができませんからね。あ、でもこの実はおいしいので食べてみてください」


そう言って俺はピチピチュの実を二つ取り出してお袋に食べさせた。


「確かにいい匂いがするわね……あ、おいしい。もらった紅茶にあうかも。あ、ごめんなさいね。お茶も出さずに。今用意するわ。そうそう、光希君がくれた魔石式湯沸かし器だっけ? あれは助かったわ〜毎日お風呂にも入れるしありがとうね」


「いえ、遠慮なく使ってください」


「あ、お義母さん私も手伝います」


「いいのよ、なんだか身体が軽いわ。夏美さんも座ってて」


「あ、はい……あれ? お義母さん? 」


お袋はそう言ってパタパタとキッチンへと向かって行った。あ〜俺が小さい時のお袋はこんな感じだったな。決して美人じゃないんだけど、よく笑ってよく動いていて太陽のような存在だったな。




《 ええええええ!? 》



「どうしたんだお袋! 」


「お義母さん!? 」


「光一、夏美。大丈夫だ。お袋は単にビックリしたんだろう」


「びっくりって……ま、まさかさっきの木の実って! 」


「え? やっぱりあれがですか!? 」


「ふふふ、光希はいたずら好きなのよ」


「マジか〜二つ食ってたよな? んじゃお袋は31か……」


「な、夏海? 確かあの実は相当貴重な物でSランクの魔物を倒さないと手に入らないとか言ってなかった? 夏海の世界でも光希さんしか手に入れることができないって 」


「そうだけど光希は毎月6個手に入れてたわ。途中で凄く綺麗な湖があるの。そこで皆でピクニックするのが毎月の楽しみなのよ」


「毎月6個……そんな危険なところでピクニックって……」


夏海の返答に夏美が愕然とした顔をしてると、キッチンから洗面所に行っていたお袋が信じられないものを見たという表情でふらりとリビングに現れた。


「こ、こ、こ、光一! どうしよう! お母さんナンパされちゃう! 」


「されねーよ!なに心配してんだよ! 」


「あ、で、でも胸もお尻も上がってシワも! こ、光希君さっきのあれってまさか……」


「あれが一つで5年若返る木の実ですよ。本当だったでしょ? 」


「あ……あ……」


俺がそう答えるとお袋は目を見開き口を開けたまま、壊れたロボットのように首を前後にカクカクと動かして頷いていた。

そんな面白い光景を見た後に年相応な姿に着替えなきゃとか言ってるお袋を落ち着かせて、俺が異世界に召喚されてから魔王を倒すまでの話をしたり、並行世界の日本にあるダンジョンの話をしたりと楽しいひと時を過ごしたのだった。



お袋……お袋にはもう会えないかもしれないけど、並行世界のお袋に親孝行したから許してくれよな。


俺は並行世界で元気にやってるよ。だからお袋も長生きしてくれよ?





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