第33話 中露連合侵攻






ーー 大島拠点 半生体自動人形 マリー ーー








「これは……」


「甘過ぎず」


「とても香ばしく」


「さっと甘みが消えていくこの感覚」


「さすが風精霊の谷にしか自生しないという風精花の蜜です」


「シルフィーナ様を接待した甲斐がありました」


「最初は渋っていましたが」


「意外とちょろかったです」


「専属メイドとしてシルフィーナ様の側についているベリーのおかげです」


先日シルフィーナ様より入手した風精花の蜜を使って作ったハニーロールがとても良い出来となりました。

シルフィーナ様が風精花は自生数が少ない上に風精霊の谷のハニービーは警戒心が強くなかなか巣を見つける事ができない為、滅多に手に入らない貴重な蜂蜜だと話しているのをベリーが聞いてから全員で入手する為の作戦を練り実行した甲斐がありました。


「では約束通りこちらのロールは私が」


「仕方ありませんね」


「情報料です」


「ベリー、冷蔵庫に保管するより」


「マスターから新たに頂いた時が止まっているアイテムポーチに入れるのがいいかと」


「そうですね。そうします。しかしマスターは私たちに甘すぎでは? 」


「確かにそうですね。欲しいと言えばなんでも作ってくれます」


マスターは私たちが望めばなんでも与えてくれます。甘味のないこの世界に来る前に大容量のしかも時が止まったアイテムバッグを頂けたり、護身用に貴重なSランクのデビルスパイダーの糸を使った下着やメイド服を作って頂いた上に結界の魔法を付与して頂けたり、暗器に攻撃魔法を付与して頂いたりもしました。そしてそれらを私たちに渡す際に必ずいつもありがとうと言ってくれます。

マスターに感謝の言葉を掛けられると私たちの体内の魔力が乱れてしまうのはなぜなのでしょうか?

そんな魔力の乱れに戸惑い、いつもそれが仕事ですのでとマスターに返すことしかできません。


「もしかしたら……」


「これは夜の御奉仕を求められてるのでは? 」


「それなら納得ですね」


「そういった機能もありますし」


「あの骨を磨く日々に比べれば」


「あれは退屈でした」


「確かにあれに比べれば」


「この魅惑のボディで蘭様たちのように御奉仕をするのも」


「マスターになら問題ありません」


「「「異議なし」」」


「しかし問題があります」


「問題? この魅惑のボディでならマスターは満足してくれるはず」


「このスリムビューティなボディなら」


「マスターが満足しないはずがありません」


「体力も問題ありません」


「初めての経験ですが知識はあります」


「問題とは、私たちには蘭様や凛様のような胸がありません」


「「「「「………… 」」」」」


「マスターは大きな胸が好きだと? 」


「わかりません。しかし最低ラインがシルフィーナ様と夏海様のCカップだと思います」


「……私たちはAカップですね」


「ですが文献にはおっぱいに貴賎はないと書かれてました」


「マスターはホビットのニーチェ様をよく膝の上に乗せて頭を撫でてます」


「彼女はBカップのはず」


「つまり大きさは問題ないということです」


確かにニーチェ様を可愛がってる姿をよく見かけます。そうですね……でしたら問題は無さそうですね。今夜から浴室で御奉仕をしてみるのもいいかもしれません。


「なるほど、一理ありますね。それでは御奉仕の順番を決めましょう。まずはメイド長である私から」


「異議あり」


「異議あり」


「異議あり」


「異議しかありません」


「職権濫用は不和の元です」


「……ではいつものように目隠しをしてスイーツ当てで勝負をしましょう」


「いいでしょう」


「セブンイーブンの新作スイーツも混ぜましょう」


「ファンキーマートの定番スイーツも入れましょう」


「そうですね。最近砂糖と蜂蜜を使い過ぎだと注意されましたから」


「持ってきたものでやりましょう」


「ですがあと10ヶ月もあるのに持ってきたスイーツがそろそろ半分になりそうです」


「「「「「!? 」」」」」


「……クジ引きにしましょう」


「「「「「異議なし 」」」」」


おかしいのです。計画的に毎日食べる量を決めて消費していたのですが、なぜか減るのが早いのです。

早くスイーツ作りの腕を上げなければなりませんね。せめてコンビニのスイーツレベルは作れるようにならないといけません。

問題は材料ですがマスターにお願いすれば追加でいただけるはず。

マスターは私たちに甘いですから。



私たちは失われた古代技術で造られた半生体自動人形。


口に入れるものに限らず甘いものがとても好きな種族なのです。














ーー 大島拠点 佐藤 光希 ーー







「 『プレッシャー』 」


「くっ……『転移』 はあああ! ハァッ! 」


「おっと! 『影縛り』 」


「なっ!? て、『転移』 」


「『氷結世界』 」


「くっ……ま、参りました」


「お疲れさん夏海。だいぶ転移の発動が早くなったな」


「ハァハァ……まだまだです。近距離でしか発動できないので範囲魔法を放たれたらこの通りです」


「正直言って転移は初見殺しだからな。一度見せて転移だとバレると次からは読まれやすい。二連続発動ができないうちは攻撃にではなく回避に使う方が有効だ」


この世界に来てからちょうど二ヶ月が経過し7月も中旬となり、ここ大島もかなり暑くなってきた。

海岸で海水浴をしたり拠点の皆でかき氷作りをしたりしてなんたかんだ楽しんでいる。

今日は珍しく夏海が俺に稽古をつけて欲しいというので、三原山まで二人で来て模擬戦をしているところだ。

俺も恋人たちも拠点から動けないから結構暇してるんだよな。


暇な原因は連合軍が撤退を完了して一週間が経つのに中露に動きがないからだ。正確にはいつでも侵攻できる準備を終えており、あとは大義名分を創作するために日本に難癖をつけてきて今は外交合戦をしているようだ。予想通り突然中華国の潜水艦が撃沈されたとか言い掛かりをつけてきて、各国の連絡員を買収又は脅迫して自分たちの正当性を認めさせているようだ。侵攻した際に米国の介入を防ぐためだろう。


中露連合は日本へ謝罪と賠償を求めてきており、損害賠償としてポーションのレシピを要求してきている。

当然日本政府は相手にしておらず、各国に日本は無実だとしっかり説明している。しかし各国もわかってはいるが中露を敵に回したくないので煮え切らない態度らしい。

こっちはいつ中露が来てもいいように札幌と福岡の門へ行ったりして準備はできているんだ。

早く攻めてきてくれないと動けないんだよな。大義名分とかいいから早く来て欲しい。



「二連続発動ですか……それはまだまだできそうもありません。初見か緊急回避にのみ使うことにします」


「すぐできるようになるよ。とにかく毎日使い続けることだね。俺より上達速度は早いから自信を持っていいよ」


「はい。光希にそう言ってもらえると嬉しいです。その……汗をかいたので滝の方に行きませんか? 」


「うん! 行こう! さっきからTシャツから汗で透ける胸とそのスパッツ姿に目が釘付けだったんだ」


しかもノーブラとか! 夏海も誘い方が大胆になってきたよな。


「あ……そ、その……はい……」


「滝に打たれてってのもいいな。さあ行こう! 『飛翔』 」


俺は誘ったことを恥ずかしがる夏海の手を引き、空を飛んで山の裏側にある滝へと向かった。

滝ではお互い生まれたままの姿で汗を流し、草木が生えていない岩場にマットを敷いてお互いに激しく汗をかき、汗を流そうと一緒に入った滝でもまた汗をかいてとても充実した時間を過ごした。


そして二人でまったりと夕焼けを眺めていた時に蘭から念話が届いた。


『主様、真田大臣から連絡がありました。中露連合が動いたそうです』


『夜を狙ってきたか……わかった、すぐ戻る。皆に出撃の準備をさせてくれ』


『はい、主様 』


「夏海、戦争だ。服を着て行こう」


「動きましたか。わかりました」


ホントやっと動いたか。戦後の混乱期とは違い、敵対していても侵略するのに色々と建前が必要みたいだな。

俺と夏海は急いで服を着て、軽くキスをしてから転移で拠点へと戻った。



拠点に戻るとダークエルフとサキュバスたちが慌ただしく動いており、蘭はクオンを呼び腹帯を凛たちと一緒に付けていた。グリ子たちの腹帯は既にサキュバスたちが装着させたようだ。


「リム! 光魔隊は全員連れて行く! 準備ができ次第グリフォンに乗れ! それから以蔵!ゲートを福岡の海岸に繋ぐ! 10人を拠点防衛に残して残りはハマーに乗りそこで船の上陸を阻止しろ! マリーたちは拠点防衛の指揮と通信係だ」


「ハッ! 」


「はっ! 承知致しました!」


「了解しましたマスター」


「蘭と凛とシルフィと夏海にセルシアはクオンに乗れ! 俺たちはゲートで札幌に向かいリムたちと共にロシア艦隊と航空部隊を潰す! 」


「「「はい! 」」」


俺は皆に指示を出し格納庫の隣に置いてあるハマーの鍵を以蔵に投げ渡した。

以蔵はすぐさま後部ドアを開けテントを展開し、紫音と桜を先頭に次々とダークエルフたちを乗車させた。

静音が助手席に乗り込んだのを確認して俺は出発の号令をかけた。


「俺が到着するまで上陸を試みる者は一人も生きて返すな! 福岡へゲートを繋げる! 『ゲート』」


「「御意! 」」


「蘭たちは騎乗したな! 俺たちは札幌の門の近くにゲートを繋ぎ門の上空を旋回してから日本海へ向かう! 各自結界の腕輪の発動を忘れるな! 行くぞ! 『ゲート』 」


「ヒャッホー! ソヴェート戦以来の空中戦だー! またボクの魔法で撃ち落としてやるんだ! 」


「ミラ! 結界の残り魔力をちゃんと確認するんだぞ? グーリーの結界の足輪に依存するなよ? 」


「光魔王様大丈夫だよ! ボクのパワーアップした無敵モードは戦闘機くらいじゃ破れないよ! 撃墜王の称号はボクがもらうんだ! 」


「そんな称号なんてねーよ……リムにユリ、ミラを頼んだぞ? 」


「ハッ! 愚妹が申し訳ございません。しっかり首に縄をつけておきます」


「ミラ姉さんは私とリム姉さんでしっかり監視しておきますわ」


「ひどいやー! みんなしてボクを子供みたいに言ってさ! ふんだ! いいもん! たくさん撃墜してびっくりさせてやるんだ! 」


不安はあるがまあ魔獣が相手じゃないし、この世界には魔法が付与されたミサイルはまだ無いみたいだから大丈夫だろう。

俺は無駄に張り切っているミラをリムたちに任せ、恋人たちの乗るクオンに飛び乗りゲートを潜るのだった。





《 うわっ! ど、ドラゴンだ! 》


《 いきなり現れた門からドラゴンが出てきたぞ! 》


《 ま、まさか本当に来たのか! 》


《 間違いない! 前に新宿に現れたドラゴンだ! 》


《 確かLight mareとかいう集団だったな。来るという報告は受けていたがこれほど早く来てくれるとは 》


《 対空ミサイルが少なくて不安だったがこれで勝てるぞ! 》


俺たちが札幌にある資源フィールドへと繋がる門の近くにゲートを潜り現れると、展開していた守備隊の兵士たちが大騒ぎをしていた。俺はそれに構わずグリ子たちがゲートから出てくるのを待ち、クオンに飛ぶように指示をした。


そして札幌の門の上空を旋回しながらシルフィに声を広範囲に届けるように頼んだ。


「精強なる大和国の戦士たちよ! 俺たちはLight mareだ! せっかくやる気になっているところ悪いがロシア艦隊及び航空部隊は俺たちがもらう! 飯でも食ってゆっくりしていてくれ! 」


《 《 《 お、おおおおおお! 》 》 》


《 スゲー! なんだあの自信は! さすが空軍機の攻撃がまったく効かなかったドラゴンを操るだけあるぜ! 》


《 あのグリフォンも強そうだ! 》


《 そう言えばあのドラゴンには対空砲火も効果が無かったと首都防衛軍が言ってたな 》


《 噂では核攻撃にも耐えられるって聞いたぞ! 》


《 なんだよそれ! ゴジ○かよ! 》


《 ドラゴンだからキングギ○ラだろ 》


《 やべー! リアル怪獣決戦かよ! 》


《 《 《 キングギ○ラ! キングギ○ラ! キングギ○ラ! 》 》 》


なんか下からキングギ○ラとか大合唱が聞こえるがクオンの頭は一つだし宇宙怪獣でもないんだけどな……

俺はテレビもないこの世界で、どうしてそんな昔の特撮映画を兵士たちが知ってるのか疑問に思いつつ、日本海へとクオンたちを向かわせた。


クォォォォン! クォォォォン!


「うふふ。クオンちゃんやる気満々ですね」


「ん〜? どうしたんだクオンのやつ? 竜気が漲ってるぞ!? 」


「ほんとにどうしたのかしら? さっきの声援に奮起したとか? 」


「クオンが奮起? 珍しいこともあるわね」


「いつもやる気ないのに珍しいですね」


「ほんとろうしたんだろうな? 基本動きたくない奴なのにな。おい! クオンどうした? 何かあったのか?……え? ゴ○ラ対キングギ○ラの映画を観た!? はあ? どこでそんなの観たんだ? 昨日ミラが暇でしょとかいって見せてくれた? あ〜うん、そうか……よかったな」


「うふふふ。クオンちゃん単純でかわいいです」


「あはははは! クオンお前単純だなぁ〜 」


「昨日ミラが? いつの間に見せてたのかしら? でもいるわよね〜アクション映画観たあとに妙に攻撃的になる人」


「まだ若い竜だから影響受けやすいのかしら」


「でもヘタレですからね。いつまでもつやら」


あ〜いるいる。ボクシング映画観たあとにシャドーボクシング始める奴とかな。言われてみれば翼の広げ方がいつもと違うな。宇宙怪獣に成りきってるつもりなのか?

まあいいか、口からブレス吐いて艦隊を潰すのは同じだしな。


俺はやる気になっている割には飛行速度が遅く、グリ子たちに後ろから煽られているクオンを少し残念な目で見ながら目的地へと向かうのだった。







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