第31話 エピローグ
「おおー! この子をワシらにくれるのか! 」
「あげませんよ。貸すだけです。人や建物に危害を加えたら取り上げますからね? 」
「大丈夫じゃ大丈夫じゃって! ワシらは武を極めようとする者。人様に迷惑など掛けはせぬわ! カカカカカッ!」
どの口が言うか!
「婿殿安心してください。私が十兵衛をしっかり見張っておきますから。それにしても……ふふふ、とうとう竜に乗って戦えるのですね」
千歳さん口元がニヤケていますよ。それに貴女の見張りは信用ならないんです。聞きましたよ? 明美がワームの腹を爆発させて出てきたなら、師として私は体内からワームを真っ二つにして出てこないといけませんねと言っていたって……
「佐藤君安心してくれ。与えられたロットネスト島の警備の仕事とドラゴン便の護衛の仕事はしっかりやるよ。高給だしな。しかしドラゴンを所有できるなんて夢のようだ。休みの日にこの竜で秋子と世界旅行にでも行くかな」
「あなた! それはいいわね! アメリカやドイツやフランスの空を竜に乗ってお散歩したいわ。確か魔導テントを竜の背に張れば寝泊まりも可能なのよね? 夏海の妹ができちゃうかも♪ 」
どこに安心する要素があるんだよ! あんたらは絶対にこの大陸から出さないからな!
「お父さんにお母さん駄目ですよ? 他国の空なんて岩竜で飛んだりしたら討伐されますからね? その岩竜は通常の岩竜より弱いんですから。アメリカの魔法弾頭のミサイルを大量に撃ち込まれたら討たれますからね? 」
「夏海、そうなのか? 言われてみればクオンに比べると魔力が少ないような……」
「六郎さん、その灰色の岩竜は飛竜よりは強いですが、ガンやガン子に比べると劣ります。戦闘に使おうなんて考えず、この広い大陸を移動する足くらいに考えてください」
「あら、そうなの? それは残念ね……でもこのオーストラリア大陸も観光名所がたくさんあるわ。グレートバリアリーフにエアーズロック、先ずは近場から観光ね」
「まあ取り敢えず軍の飛行場に警備隊専用のドラゴンポートを作ったのでそこに待機させておきます。餌は勝手に取りに行くので、あげてもいいですしあげなくても大丈夫です。この岩竜には十兵衛さんたちの言うことを聞くようにと、人と建物を攻撃しないこと。それに街の上空を飛ばないことを言いつけてます。なので無理にやらせようとすると振り落とされて喰われますから気を付けてください」
「く、喰われ……む、婿殿それはちょっと厳し過ぎな命令じゃないかのう? 」
「つまり使いこなせなければこの竜と戦うことになるのですね。ふふふ、それくらいではないと竜使いにはなれませんね」
「つまりこの竜に認められればいいってことだな。戦って勝てばいいのか」
「飛竜より強い程度ならやれそうよね? 」
そう受け取ると思ったよ……まあ戦って勝てたらとしてもこの竜は魔力が切れて消えるだけだけどな。
「お祖母様にお父さんも……そうじゃないわよ……なんでそう受け取るのよ」
「夏海、大丈夫だ。想定していた返答だ。いいんだ。俺たちは日本へ帰ろうな」
「……はい」
俺は岩竜を旧軍飛行場に行くように命令し、喜ぶ多田一族とその門下生たちを置いて夏海と家に帰るのだった。
パース市周辺の魔物狩りを終えてからこの三日間で、千葉にある多田家の残りの荷物はゲートを使って全て移動した。門下生たちはもともと貸したアイテムバッグに自分の荷物を詰めて回り、それから多田家に集合してからこっちへと来たから、残りは多田家の家具や道場の資材だけだったんだ。
そして基地の一番西のはずれにある3階建ての旧軍宿舎のニ棟を男子寮と女子寮にして、株式会社Light mareロットネスト支店の管理にした。今後は軍の倉庫だった建物を道場にする予定だ。
今後、千歳さん率いる薙刀隊にはこの島の俺たちのプライベートエリアの境界線の壁の警備をしてもらい、十兵衛さんたち男どもには島の港の治安維持と、ドラゴン便に同乗してパイロットの警護をさせるつもりだ。パイロットにはしない。配送そっちのけで魔物と戦われでもしたら大変なことになるからな。
ドラゴン事業部はヤン・カイ・レム・シム・メイの5人が中心となり、冒険者連合から紹介されて雇った30名の元探索者たちを使って一頭に2名を乗せて輸送業務をしている。だけどこの2週間ほどの配送で、風切り鳥とヒッポグリフの群れや、飛竜やガーゴイルに遭遇して処理に時間がかかり配送が遅れたりがあったんだ。それならこの狂人たちを護衛に付ければいいかと思い付いた訳なんだ。
秋子さんにはこの島を登録した転移のスクロールを30束ほど渡して管理を任せてある。万が一の時は門下生を囮にして岩竜のパイロットを逃がすためにね。そう、彼らは囮役だ。十兵衛さんと六郎さんに渡すと試そうとするから渡さないように言ってある。あの2人なら結界の腕輪もあるし、オーストラリア大陸の真ん中の魔物ひしめくエリアに落ちても生きて帰ってこれるさ。
まあそんなこんなで多田一族とその門下生の新天地での生活が幕を開けたわけだ。
彼らには島の警備隊として、ドラゴン便の護衛として、有事の際の傭兵としてこれからは会社に貢献してもらうつもりだ。適材適所、狂人とハサミは使いようってやつだな。
そうそう、パース市の新領地はどうなっているかと言うと、魔物の剥ぎ取りを街中で行なって二日かけて終わらせたあと、防衛隊を中心としてまずは南の川の手前に柵を作る作業に入ったようだ。そこで護衛としてゴーレムを長期借りたいと市長から申し出があったので、ゴーレムの指揮権をカイに渡して有料でレンタルすることにした。その辺の契約はヤンに任せてある。
まあ維持費がかからないからボロ儲けだよ。使わなくなったらその辺でじっと立たせておけばただの石像になるし、有事の際にまたレンタルすれば稼げる。
この街での決済通貨は米ドルだ。うちは円でも支払いOKにしているからどっちでもいい。しばらくはこの支店で稼いだお金はロットネスト島の開発に消えそうだが、お金は貯めて持っていても仕方ないしね。使ってパース市の住民にどんどん仕事を与えないとな。
ちなみにキャロルは最近ヤンにお弁当を作って持ってきているらしい。情報元はレムとメイだ。ヤンには頑張ってサキュバスを増やしていって欲しいものだ。異種族間は数をこなせばなんとかなる! 超精力剤を今度渡しておくか……
「まったく……お祖母様もお父さんも全然人の話を聞いてないんですから」
「アレは聞いているけど思考がおかしいだけだよ。なんで岩竜に無理強いをしたら喰われるぞと言ったら戦うって発想になるんだろうな。無理強いをしないって考えないのが不思議だよ……」
「子供なんです。やりたいことを我慢する気なんてこれっぽっちも無いんですよ」
若返らせてから確かに我慢を全くしなくなったな。うーん……俺のせいだな。
「しかしあの一族にいてよく夏海は染まらなかったよな。奇跡じゃないか? 」
「反面教師ですよ。私も小さい頃は探索者がうちの道場の人たちを避けているのを見て、なんでだろうって不思議に思ってました」
「環境って恐ろしいよな……嫁として途中から一族に入った秋子さんですら結構染まってるもんな」
「お母さんも母方の叔母が言うには、探索者の時にちょっとおかしいと周りから言われてたみたいです。だからお父さんと意気投合したのだと思いますよ。類は友を呼んだんです」
確かに……秋子さんて一見まともに見えるし、話してることもまともな事を言ってる時が多いんだけど、突然ぶっ飛んだ発想をするんだよな。多分性格が結構大雑把だから、周りがそうならもうこれでいいやって思っちゃってるんだと思う。その周りがアレだからアレな発想になってるんじゃないかな。
それでもあの一族では一番まともなんだけどさ……
「でもさ、それで夏海が生まれたんだしな。そこだけは感謝だよ。そう言えば夏美だってそうだな。2つの世界で六郎さんと秋子さんは結婚して夏海をこの世に誕生させてくれて、その夏海は2つの世界で俺と出会った。これはもう運命だよ」
「ハッ!? 運……命……そうですね……私と光希は次元を超えて結ばれて……」
「夏海。夕食までまだ時間があるな」
「……はい。その……隠し部屋で隷属の首輪で……その……激しくお願いします」
「よしっ!すぐ行こういま行こう! 『転移』 」
俺は恥ずかしながらも求めてくる夏海が可愛く思え、家の前から部屋へと急いで転移をした。そして心ゆくまで夏海と主従ごっこをして、夕食に呼ばれるまでイチャイチャするのだった。
今回は会社の事業拡大に成功したし、リチャードたちも一皮向けて前に進めた。ヤンに春が来たし、英作たちに良い経験をさせることもできた。いま集めている魔石も、方舟と違って確実にドロするから万単位で苦もなく手に入れることもがきた。
世界には俺の作るアイテムを悪用したらどうなるか警告にもなったし、なにより多田一族を島流しにすることに成功した。
今回の依頼は受けて良かったな。
これでしばらくは古代文明の技術研究に専念できそうだ。
俺は恋人たちとの未来のために、今後は古代文明の技術の研究に集中しようと決めたのだった。
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筆者より
明日から8章が始まります。
8章はメイン世界で時間を進めます。
8章は日常系と9章への繋ぎのお話ですので章としては短くなる予定です。
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