第3話 町おこし 後編








「こ、これは鹿児島未来球場? いや、それにしては新し過ぎる……」


「しかし看板に鹿児島未来球場と……新しく建てた? この短期間で? 」


「み、皆さんご覧ください! 1週間前まで何もなかった土地に突如球場が現れました! これは43年前に鹿児島県によって建設された…………」


「さあさあ皆さん! 中に入りましょう。施設の説明をしますよ。レイもほら、レポートはあとにしてくれ」


「は、はあ……」


「はい! 」


「あはは、みんな驚いてるわね」


「それは驚くわよ。鹿児島県にあった球場が、1週間前まで何もなかった土地に急に現れたんですもの」


「ふふ、確かにそうですよね。光希の能力を知らなければ私も同じ反応をしてます」


「なあなあ、これ方舟でマンションを持ってきたのと同じやり方でやったんだろ? こんなデカイものまで転移で持ってくるなんてさすがあたしの旦那さまだよな! 」


「うふふ、主様は日々進化しているのです」


そうだな。うっかり半神に進化しちゃったな。


俺は驚く観光庁と防衛省の制服組と、大島町長に地元の警察署長。そしてKSTテレビのレイほか取材班をコロシアムとなる予定の建物へと誘導した。


そう、俺の考えた町おこしは、魔物と人が闘う闘技場。つまりコロシアムの運営だ。色んな魔物と安全に戦いたいという冒険者と、町おこしで思い付いたのが古くからあるコロシアムの運営だった。これなら俺が創造魔法で魔物を用意すれば、入場料やその他の商売でガッポリ儲けられる。既に周りの土地は凛に言って皇グループの不動産会社に押さえさせてあるから不動産収入だって見込める。


魔物を用意するうえで掛かるコストは、魔石と俺の魔力だけだ。アトランに昔あった闘技場のように、危険を冒して魔物を捕獲しに行く必要もない。これがライオンとかだと動物虐待だとか一部の団体がうるさいが、この世界で魔物を殺して文句言う奴なんかいない。

最近になって大氾濫を経験していない若い世代の者たちが、魔物と話し合えばとか真心で接すればとか博愛精神を発揮して試みた奴がいたようだが、魔物に喰われたとニュースでやっていた。

当然だ。魔族ならともかく知能の低い魔物とどうやって話し合うつもりだというのか。魔族ですら圧倒的な力量差を見せなきゃまともに話すらできないというのにな。

この国は世界一ダンジョンが多いのに、壁で囲われてるからって平和ボケし過ぎなんじゃないかと思う。ここらで本物の魔物との戦闘を、個人で撮ったブレブレの動画ではなく生で見て感じて欲しいものだ。


冒険者と戦わせる魔物だが、俺に創り出され俺の命令に従う魔物が不利な状況でただ黙って殺されるのはさすがに心が痛む。だから魔物にも全力で冒険者を殺しに行かせる。が、冒険者や魔物が致命傷を負ったらフィールドにいる審判に止めさせる。審判に魔物への命令権を与えておけばそれは可能だ。熱くなっている冒険者の方は強者を審判にして力尽くで止めればいいだろう。

冒険者相手ならBランク以上の魔物を出すことになると思うから、いくら創造された魔物の能力が下がるとはいえ瞬殺されることはないと思う。


冒険者にはやる気を出させるために、闘技場での闘いに高額の賞金を用意する。個人討伐やパーティ討伐など、色々なシチュエーションによって金や上級ポーションや黒鉄の装備などを報酬に出せば、きっと世界中の冒険者が集まるだろう。テレビ放映は基本はレイのとこに任せ、恨みを買わない程度に他局に時々やらせればいい。


ん? 天城さんと呼ばないのかって? 夜のドラゴン遊覧飛行を実施する前にさ、約束通りオーストラリアから戻ってきたばかりの彼女を誘って蘭とシルフィと4人で夜空の散歩をしたんだ。その時に今後はレイと呼んでくださいとか言われたんだよね。それからは名前で呼ぶようにした。レイは凛とは違った元気さがあるいい子だよ。ハーフで美人だしおっぱい大きいし。なんとかセクハラが許されるくらいには仲良くなりたいと思ってる。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「それでは皆さんは観客席にいてください」


俺は役人とテレビ局のスタッフを一塁側の観客席に向かわせて、グラウンドに恋人たちを連れて出た。

グラウンドと観客席の境目には、等間隔に直結1m高さ20mの柱が前後に2本ずつ、計30本建っている。この柱には各2つずつ中級魔道結界盤が設置してあり、柱の根元のパネルを開いて魔力を通すと魔石を粉末にしたもので作ったケーブルを通って結界盤が起動する。解除する時も同じだ。

魔石や魔導結界盤のコストから、中級結界を設置するのが限界だった。上級結界にすると素材もかなり高価になるし、Bランク以上の魔石が必要になるからな。


この結界は観客を守るための装置であり、柱は2本ずつ前後に建っているから万が一最初の結界を破られても、もう一つの結界で観客を守ることができるようにしてある。

上級魔法を同じ方向に4連発とか放たなければ大丈夫だろう。そんなことができるのは恋人たちだけだしな。


俺は一塁側ベンチのインターホンを取り、外野にある出入口ゲートの地下で待機しているうちの警備隊の副隊長に連絡を入れた。


「木田さんお願いします」


《 はい! いま出します! 》


俺が木田さんに指示をするとホームベースから見て右奥のライトスタンドの一階出入口が開き、そこから全長5mほどのアイアンゴーレムが1体グラウンドへと現れた。


この1週間で俺は外野席の下にある一階の観客の出入口を全て塞ぎ、さらに地下へ深く掘り下げて魔物の待機場を作っていた。そしてその待機場の空間拡張をし、多くの魔物を収容できるようにもしておいた。まだオープンは先なので、今は取り敢えず餌のいらないゴーレムだけ創って待機させている。


《 おお……本当に魔物をここに…… 》


《 わ、私たちはここにいて大丈夫でしょうか……》


《 皆さんご覧ください! あの魔物はアイアンゴーレムと言ってパース市の魔物狩りの際に……》


「大丈夫ですよ。このアイアンゴーレムは俺の支配下にいます。アイアンゴーレムよ! その場に座れ! よしっ! 立て! 」


《 凄い! 言うことを聞いている! 》


《 どうやらドラゴンと同じく隷属させているようですね 》


「では観客席を守る結界の強度を確認してもらいます。アイアンゴーレム! この鉄塊を思いっきり三塁側へ投げろ! 」


俺がアイテムボックスから1トンはある鉄塊を取り出してアイアンゴーレムの前に置き、三塁側の客席に投げるように命令すると、アイアンゴーレムは鉄塊を持ち上げ三塁側へと駆け出し思いっきり投げた。


ガンッ!


《 は、弾いた! 》


《 信じられん! 相当な勢いだったぞ? 》


「次は魔法を撃ちます! 凛、弱めにな? 頼むぞ? 」


「わかってるわよ。ここで反対されたら儲け損なうから普通の火力でやるわよ。弱く弱く……『炎槍』 」


ちょ、三本は多いって!


パシーン パシーン パシーン


あぶねっ! ギリギリ耐えたか? 遠目に見える魔導結界盤の魔石の色がかなり薄くなってるからほんとギリギリだったな。凛は絶対ハイヒューマンになって上がった火力のことを計算してなかったと思う。

横にいる凛の顔を見るとちょっと顔が引きつってる……気付いたか。


「凛」


「あははは、一本でよかったわね……間違えちゃった♪ 」


「オーストラリアであれだけ練習してたのになんで間違えるんだよ」


まったく。


《 中級魔法まで弾いた!? それも三連続で……飛空艇乗りから聞いてはいたが、中級結界とはこれほどのものだとは…… 》


《 確かに初級結界とは強度が全然違いますね 》


「この結界は二重になっています。万が一破られてももう一枚ありますので、その間に審判が動けますから安全は確保できると思います。この結界の範囲は地上50mまでありますし、観客席の上の屋根にも設置していますから頭上から何か落ちてきても大丈夫です」


本当はドーム球場が欲しかったけどな。40年前にそんな物あるはず無いしな。まあ観客席は結界で雨には濡れないから同じっちゃ同じか。儲かるようならドームを建築してもいいしな。


《 なんと! この日よけの屋根にも結界が!? なるほど。それならば安心ですね 》


《 長官、これならば問題はないかと思います。あのLight mareが魔物をしっかり管理するようですし 》


《 そうですね。観客の安全さえ確保できるのであれば問題ないと思います。Light mareが腕利きの人材をしっかり配置してくれるようですし。しかしこれは間違いなく人気が出ますね 》


しかしさっきから誰も冒険者の安全を心配しないのな。まあBランクの人間なんて普通の人からすれば化物だからな。銃で撃たれても死なないんだから心配する気になるわけないか。


《 ご覧頂けましたかテレビの前の皆さん! このように観客席は強力な結界で二重に守られていて安全です! もしものことがあっても、世界最強のパーティであるLight mareが守ってくれます。なによりここで戦うために来た多くの冒険者の皆さんもいます。私たちが安心して観覧できる環境であることは間違いないと思います 》


レイは楽しそうだな。多分コロシアムでの試合を見たいんだろうな。

一応これで役人に対しての説明は終わりだ。まあしっかり根回ししてあるからここで反対はされるとは思っていないが、彼らにも立場があるからな。こういう現場説明は必要だ。


その後は避難経路などを説明して役所の人とレイたちテレビ局の人間と別れ、俺たちは家へと戻ってきた。

そして凛を連れ、リムと以蔵夫妻にドワーフのガンゾとホビットのヨハンを一階のラウンジに呼びコロシアムの説明をした。


「コロシアムで魔物と人間を戦わせ、それを観戦するわけですか。我らもほかの魔族と模擬戦をすることはありましたが……確かに見ている者たちは大騒ぎしていました」


「我らの里でも揉め事があり、決闘をする際は里をあげて大々的にやっておりました。決闘の観戦は面白いもので娯楽となっていたのは確かです」


「ふふふ、以蔵は私と夫婦になるために父と決闘をしたのですよ? 」


「こ、これ! 静音! いまそのようなことを言わずとも……しかも負けた試合の話など……」


「でも父上に認められたじゃない。父上も褒めてたわよ? 」


「そうだったのか……義父とは再戦したかったのだがな。寿命ではな……」


「惚れた女性の父親を戦って納得させたなんてカッコいいじゃないか。まあ、戦士に限らず他人が戦う姿ってのは魅力があるもんだ。そこでこのコロシアム……そうだな。名称はLight mareコロシアムでいいか。ここでのマネージメント、つまり冒険者と魔物とのマッチングやらパーティ戦の企画。俺に創って欲しい魔物の提案などをする者をダークエルフの中から5名ほど選出して欲しい。責任者を1人決めてくれればあとは交代でもいい。頼めるか? 」


リムたちは人数が少ないのに他国の諜報や、家の警備の仕事に凛の仕事の手伝い。さらにはドラゴン便の仕事と手一杯だ。

それでもリムをここに呼んだのは、会社として今後なにをするつもりなのか聞いてもらうためだ。


「はっ! 上忍の半蔵と朱雀夫妻が適任かと。この二名を中心として方舟に行った者たちを選任致します」


半蔵に朱雀……確か方舟でSランクになったんだったな。上位精霊持ちだし問題ないな。


「わかった。魔物には半蔵と朱雀の言うことを聞くように言っておく。半蔵たちの手足となって働く人員はいま集めているところだ。集まり次第大島に向かわせることにする。頼んだぞ」


「はっ! お任せください 」


運営の人員は、谷垣さんが引退した探索者や冒険者に声を掛けてくれているからすぐ集まるだろう。

施設の管理は管理会社に任せればいいから、半蔵たちは魔物の管理とイベントの発案に試合の審判などに専念してもらえばいい。


「凛、コロシアムの外観の改装と飲食店の誘致は手配してくれたか? 」


「ええ、オープンまで2ヶ月しかないから、最初は屋台形式の店ばかりになるけどね。外観はいつものとこに頼んで急ピッチでやってもらえるようになってるわ」


「もとは球場だからな。コロシアム内はそんなんでいいさ。ビールを売り歩くお姉さんもいた方が雰囲気出るかもな」


「あはは、そうね。そっちも声を掛けておくわ」


あとは公営賭博だが、まあそう簡単には許可はおりない。しばらくは勝手に客にやらせるさ。うちは手を出さないが、公営賭博になったらあがりはもらう。わざわざ表に出て恨みを買うのは御免だ。八百長とか言われて絡まれも面倒だしな。金が掛かると人間怖いもの知らずになるものだからな。


「ヨハンさんにはコロシアム内に冒険者用の店を用意するから、人を派遣して装備の補修をしてもらいたいんだ。ガンゾは横浜の工房でヨハンさんが受けた武器の補修をして欲しい」


「はい。2人ほど派遣します」


「おう! 任せておけ! なあサトウの旦那、俺も試合を観に行ってもいいか? 」


「ん? こういうの好きなのか? いいぞ。みんなにはここと大島を登録した転移のスクロールを渡すから、好きな時に観に行っていい」


「ありがとよ! 酒のつまみには丁度いいぜ」


そういうことかよ。酒を楽しく飲むために観に行くのか。こりゃロリコンのゾルがまた無理矢理付き合わされるな。


「それじゃあ各人2ヶ月後のオープンに間に合うように準備をしてくれ」


「「はっ! 」」


取り敢えずあとは人の募集と魔物の用意だな。転移のスクロールも多めに作っておかないとな。宣伝はマスコミが勝手にやってくるだろう。専用ホームページも作らせているしもう俺が忙しく動くことはないな。

古代技術研究はアンネットに古代書を全部持っていかれて俺は何もできなくなったしな。アンネットは研究室にもう10日は引きこもってるんじゃないか? まあ研究室にはベッドもシャワーもあるし、ピーチとライチに食事の世話を任せてあるから大丈夫だと思うが……あの美巨乳を見れないのは寂しいな。


それにしても早く女神の島の別荘が完成しないかな。

プライベートビーチで恋人たちとキャッキャウフフを早くしたい……

とりあえず恋人たちにはトップレスから慣らしていくか。恥じらう凛と夏海とセルシアの反応が楽しみだ。

ダークエルフの里もすぐそばだからくノ一たちも呼べるな……そして夜はみんなでお酒を飲んで組んず解れつで……おっと、人妻が間違って来ないように紫音に仕切らせないとな。紫音に桜か……リムたち同様毎日のようにセクハラしちゃってるし、俺も色々してもらってるから何かお礼をしないとな。


こんなにいい女たちに囲まれてホント俺は幸せ者だなぁ。これも巡り巡ってリアラのおかげなんだよな。アトランではさんざん罵ったり心の底から呪ったりしてごめんな。

今ならもう一回魔王を倒しに行ってとかリアラに言われても、俺は微笑みを返す自信があるよ。


そのあと全力で逃げるけどな。まあ賢者の塔のクリスタルに触れなければ大丈夫だろう。


それよりも新しい特殊水着を沖田に注文しないと! 今回は大量発注するぞ!









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