第2話 町おこし 前編





「え〜? 町おこしに協力して欲しいだって? 」


「そうなのよ。観光庁を通してうちのドラゴンに目を付けた全国の市区町村から、場所は用意するので期間限定でもいいからドラゴンの遊覧飛行をやってくれないかって」


8月に入り夏真っ盛りとなり、楽しみにしていた女神の島の別荘がハリケーンによって工期が来月にズレ込むと連絡があり、俺は家で不貞腐れていた。

するとそんなテンションの下がっている俺に対して凛がとても面倒な話を持ってきた。


どうやら過疎化が進む町からすると、うちへドラゴン目当てで夏休みを利用して遠方から訪れる観光客が羨ましいようだ。

夏休みシーズンはうちも毎日クオンたちを飛ばしていて忙しいんだけどな。Hero of the Dungeonも60~70階層開放と、魔王実装と魔法職実装をしてから連日超満員なんだ。事前に人は大量に募集して教育してあるから運営は問題ないけどな。


「うーん……ドラゴンはクオンとエメラしかいないからなぁ。グリ子やメイじゃ人数を乗せれないし。それにこっちでの遊覧飛行を楽しみにしている子供たちもいるからな。夜の遊覧飛行も始めたちゃったし難しいな」


「そうよね。一応難しいとは言ったんだけど、ママの大学時代の後輩が観光庁の観光産業課にいて困ってるみたいなのよ。ママからも、どこでもいいから町おこしに協力してあげて欲しいって言われちゃって私も困ってるのよね」


正直めんどくさいけど、凛ママの頼みじゃ何か考えるしかないよな。

何か無いかなにか……


「それならHero of the Dungeonを導入すればいいんじゃないか? 」


どこかの体育館とか廃校とかでやれば人は集まると思うんだよな。現に大阪や福岡では解体予定だった集合団地を利用してやっていて、人気があるらしいしな。


「予算がないのよ。どこも夏休みや冬休みの期間限定の運行料に、あとは場所の提供くらいしかできないわ」


「金は無いが町の宣伝はしたいか。うーん……ちなみにどの町が希望してるんだ? 」


「一覧をもらってきているわ……これよ」


俺は凛が取り出した紙に目を通した。

北海道に東北に四国に中国地方……関東は長野に群馬か。近いけどやっぱドラゴンを派遣するのは無理だな。岩竜を連れてきても日本じゃな。振動で家が倒壊したら嫌だしな。

かと言って風竜とか新しい竜を創造しても期間限定じゃその後の維持がな。人だって育てて派遣しなきゃいけないし……うーん。ドラゴン遊覧飛行以外で人を集められて、あわよくばうちも儲かるものかあ。

できれば期間限定は避けたいな。たいていそういうのは儲からない。どうせ成功したらうちにも是非! って来るに違いない。慈善事業は命を懸けて戦う探索者相手だけにしたい。


「やっぱりドラゴン遊覧飛行は無理だな。内陸ばかりだからスーの遊覧船も厳しいだろ」


「そうね〜ドラゴンを創造で増やしても期間限定じゃ維持が厳しいしね。ほかのイベントを考えないと」


「Hero of the Dungeonが一番いいんだけどな。魔物と戦ってその映像をモニターで流してさ、プレイしていない人でも見て楽しめるしな」


「確かにそうなのよね。でも機材をレンタルしたとしてもフィールドとなる建物の改修は必須だし、意外とお金掛かるのよね」


うーん……土地は用意してもらえる。町がお金出せないならうちが儲かるイベントにするのは必須だな。魔物と戦うHero of the Dungeonはお金が掛かるから無理と。ん? 魔物と戦う?

それなら……お? 大島町も希望出しているな。しかも空港と漁港の間の土地を提供してくれるみたいだ。

大島は横浜からクオンで15分、スーで1時間くらいだったな。近いから期間限定ではなく、できれば永続的にって書いてあるな。方舟世界で世話になった島だしここにするか。あとは……


「そう言えばまた冒険者たちがHero of the Dungeonで遊ばせろとか言ってきていたよな? 」


「ええ、そんな暇があったらダンジョンに挑めって毎回リムたちが追い返してるわ」


「そうか、つまりアイツらは命を懸けないで戦いたいわけだ」


「完全に遊びってわけでも無さそうなんだけどね。冒険者って言っても攻略組以外は迷宮タイプのオークやオーガ専門とか、フィールドタイプのダンジョンで採取専門とか色々いるのよ。だから上海の時みたいに緊急依頼が出て、強制的に駆り出された時に戦った事のない魔物と戦うのは怖いからHero of the Dungeonで練習したいみたいなのよね」


なるほどな。オーガとしか戦ったことがない奴が、いきなりリッチと戦えって言っても経験が無いから怖いと。なら普段から色んなダンジョンに挑めって言いたいがな。


「まあ、甘い考えだが色んな冒険者がいるからな。なら思う存分戦わせてやろうかな」


「え? なにか思い付いたの? 」


「ああ。確かこの間テレビで南九州の復興の際に野球かなにかのスタジアムを解体するって言ってたよな? 南九州の復興責任者に言ってうちが無償で処理するって許可もらっておいてくれ」


「ええ!? スタジアムを!? そんなのいったいどうするのよ……まさか私と蘭ちゃんに壊させてくれるの!? 」


「させないから! そんなことしたら周囲の家屋に被害が出るだろ。俺は復興の邪魔をするつもりはないぞ? 」


「ちゃんと制御できるわよ……多分。でもそれならスタジアムなんてどうするのよ」


「それはな…………」


俺は大島の町おこし計画を凛に説明した。

案の定凛は絶対それ儲かるわって大喜びだったよ。まあ古代からあるイベントだからな。政府への説明も楽だろう。SSSランクパーティのうちが全責任を持つと言えば、役人や政治家もそこまで反対はしないだろう。




次の日から俺は凛に渡された貢物セットを持ってさっそく冒険者連合と政府への根回しをしに行った。中身は何が入ってるか知らない。こういうのは凛に任せてるから俺は見ないようにしている。知らなければ口を出すこともないしな。

冒険者連合への説明は副理事長へしに行った。シルフィには夜のうちにベットで話してある。アトランにも昔あった施設だから理解は早かったよ。副理事長の谷垣さんはかなり驚いていたし、安全を確保できるのかとかしきりに聞いてきたが絶対に大丈夫だと言って納得させた。


総理や官房長官、観光庁長官と警察庁長官と防衛大臣にも説明した。俺の契約の魔法があれば絶対に大丈夫だと何度も言い、成功すれば世界中から観光客が来る可能性があるとも言っておいた。そして公営でカジノをやれば利権が増えるよと言ったら許可を得ることができた。

それでもすぐにできるとは思ってないみたいだけどね。


政府の許可を得た俺は次に大島へと飛び、町長と話をして計画の説明をした。

まあ町長は全く理解できていなかったよ。ただ、日本の救世主であるLight mareを全面的に信用しますので、思うようにしてくださいと言ってくれたのは嬉しかったな。住民が高齢化して減る一方で、若い人は都心に働きに出て探索者になったりで戻って来ない者も多いそうだ。

こう言っては不謹慎だけど、大島にもダンジョンがあればこれほど人口減少はしなかったかもしれないとも言っていたな。

普通はダンジョンが無い土地に住みたがるもんなんだけどな。40年前は多くの人が避難しに来たらしいが、ダンジョンを壁で囲み安全性が高くなるとみんな本土へと戻っていったようだ。やっぱり生まれ育った土地がいいんだろう。



こうして町長の許可を得た俺は、次に無償で貸与される予定の土地へ行った。そこには道路は通っていたが、それ以外何もない雑草が生い茂る広い平地だった。

俺は広範囲に一気に地形操作の魔法で深い大穴を開けて、周囲を2mほどの壁を作り囲んだ。


そして凛がスタジアムの処理の許可を貰ってくるのを待って俺は南九州に飛んだ。

南九州は復興開始から一年が経ち、かなり人の移住が進んでいた。電気も開通して商店も営業を開始している町が増えていた。そんな中、桜島の近くの町にあるスタジアムだけが蔦に覆われてボロボロだった。

このスタジアムは完成してすぐに大氾濫が起きてしまい、ほとんど使われないまま40年以上放置されていたようだ。設備は旧式だけど、その辺は順次入れ替えていけばいいだろう。


さて、さすがに大物だ。かなり操作が難しそうだ。

俺は方舟世界でマンションを移設したように、まずは地形操作でスタジアムの周りに数十メートルの深い穴を開けていき、次に空間魔法の次元斬で一気に土台を切り離した。


「かぁ〜! キッツ! さすがに範囲が広過ぎた。魔力は大丈夫だけど制御が難しいな」


さすがに対象が大き過ぎて真っ直ぐ切れたのか不安になった。下水などの配管だけはちゃんと残してあるから大丈夫だろう。急いで工事して繋げられれば施設としては使える。大島の業者は大変だろうが、報酬を上乗せしてやってもらうしかないな。


「よ〜し……ここからが大変だ。魔力をスタジアム全体に通して……ぐっ……いけるか? いける! くうぅぅぅ『転移』 」


俺はスタジアム全体に膨大な魔力を通し、転移魔法を発動した。

結果、転移は成功して大島の大穴を開けた場所にスタジアムを移設することに成功した。


「ハァハァ……さすがにある程度魔力を持っている生物ならともかく、無機物に魔力を通して転移させるのはキツイな……それにやっぱり傾くよな。『地形操作』 ……ん〜取り敢えずこんなものか」


まああとは建設業者呼んで傾きをまた直しにくればいいか。

俺はこの日は疲れたのでこれくらいににし、翌日業者を手配してまた来ることにした。




そして翌日。地元の建設業者を連れてスタジアムを移設した現地に来た俺は、突然何もなかった土地に現れたスタジアムに驚いている業者の尻を叩いて建物を水平にする作業を行った。

これは地形操作とプレッシャーを使い分け、なんとか水平にしたところで配管を避けて土台の部分を一気に地面を固めて固定した。ついでに硬化の魔法も掛け強化した。


業者には配管の工事を至急やってもらうように言い、その場から帰したところで俺は一気に時戻しの魔法をスタジアム全体に掛けたのだった。

そして時戻しの魔法で43年ほど戻したところで、スタジアムは新築のような真新しい姿を見せたのだった。


「よしよしよし。あとは建物管理のプロを凛が手配しているから、港近くの家をいくつか買い上げるか。スタジアムも空間拡張して改造しておくかな。やべ! 楽しくなってきた! 」


俺はその日の遅くまでスタジアムの中を空間拡張したり、結界の魔道具を埋め込んだりと改装していくのだった。

コストが思った以上に掛かったけどまあいいか。すぐに元は取れるだろう。


それから1週間は大島と家を行ったり来たりして周辺の不動産の取得をしたり、スタジアムの設備をいじったり工事を手伝ったりし、マスコミへ情報を流したりもした。

そして商業施設の管理を専門にする管理会社と契約も終わり、スタジアムの特殊な空間の警備にうちの会社の警備隊から臨時で人を派遣してもらうことにした。

建物内の普通の警備は管理会社が手配し、外の警備には地元の暇そうな爺さんたちに仕事を募集したりして人を集めた。


そしてスタジアム移設から10日ほどで、政府の役人を呼んでお披露目をすることになった。

配管の工事はまだ全て終わっていないが、電気は通ったからな。

恋人たちも楽しみにしているし、俺も結構楽しんでやったからみんなの反応が楽しみだ。



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