第66話 超絶ブラック企業 Light mare CO. LTD.







「きょ、教官! 夏美さんを生き返らせることができるというのは本当なんですか!? 」


「うおっと! 神崎落ち着けって! 」


俺が実家から拠点に戻り格納庫の中に入ると、神崎が俺の腕を掴み必死の形相で問いかけてきた。

神崎の落ち込みように夏海と凛が見ていられなくなって教えたんだろうな。まあ神崎にも見せるつもりだったから別にいいけど。


「で、ですが蘇生の魔法だなんて信じられなくて……でも、もしできるなら夏美さんとまた会えるのなら……」


「結論から言うとできる。色々条件はあるが夏美さんはその条件を満たしている。いま蘇生してやるから黙って見てろ」


「あ……ああ……お……お願いします……どうか夏美さんを……」


「夏美さんは俺の愛するこの世界の夏海だ。死なせたままにするはずがないだろう? 安心しろ」


「……は……い……ううっ……」


俺が夏美を蘇生させることを笑顔で言うと安心したのかまた泣き出してしまった。神崎はクールな美人て見た目なのに案外泣き虫だったんだな。

俺は神崎の肩を抱いて皆が集まるソファのところへと向かった。


「ダーリンごめんなさい。悲しむ神崎さんを見ていられなくて……」


「光希、すみません。魔法のことを話してしまいました」


「ん? ああいいさ。蘇生させるつもりだったしな。神崎になら見せても大丈夫だろ。どうせ夏美さんが生き返ったらバレるんだし」


「そうよね! ダーリンなら絶対蘇生させると思ってたわ! 光一さんをここから離したのは反省させるためなんでしょ? 」


「ああ、あまりにも夏美さんを死なせた理由が酷かったからな。強力な力を与えた俺にも責任はあるが、まさかあそこまで馬鹿だとは思わなかった。俺なだけに落ち込むよ……」


「光希は悪くないです。強い力を得たからといって、その力を完全に使いこなせないうちから驕った光一さんの責任です」


ぐっ……耳が痛い……俺も偉そうなことを今まで言ってきたがアトランに召喚されてからの二年目は酷かった。聖剣という強力な武器のお陰で勘違いして驕り高ぶってたんだ。幸い蘭と出会う前にそれが元で苦い経験をして、師匠である騎士団長にボコボコにされたお陰で気付くことができたんだけどな。あの事だけは永遠に秘密だ。

そう考えるとやっぱり光一は俺なんだよな〜見事に俺が辿った道を歩いているよ。このままだとアノ病気を発症するかも……うん、アイツにはアニメを見せないようにしておこう。


「そ、そうだな。自分の力を過信した時に失敗はするものだからな。さあ、夏美さんを蘇生しようか」


「なあなあ旦那さま〜。夏海のことは聞いていたし疑うわけじゃないんだけどさ、本当に生き返らせることなんてできるのか? 」


「セルシア、だから私が間近で見たって言ったでしょ? もうね凄かったんだから! えっちな格好をした女神様が現れてこう光に包まれてパァァァって! 」


えっちな格好って……確かにあの時は蘭に着せようと思って買ったキャットスーツを着て現れたな。まあ今回は人が大勢いるから大丈夫だろう。一応女神としての体裁を気にする女神様だしな。


「時の古代ダンジョンを完全制覇したのは俺だけらしいからな。過去にそんなことができる奴なんていなかったから信じられないのも無理はないさ」


「私にしてくれた蘇生をこの世界の私に……少しドキドキしてきました」


「ははは、そうだな。夏海は二度目になるな。そう思うとこれも運命だったのかと思ってしまうな。そして俺と出会う運命だったのだともな」


「光希……そうですね。私はあの時に死ぬ運命だったのかもしれません。その運命が光希と出会うことで変わりました。死ぬ運命から幸せに生きる運命に……これが運命……これが赤い糸……」


「お姉ちゃんがまた自分のメルヘン世界に入ったわ……」


メルヘンっておい……


「それよりコウ! 早くやりましょ! 凄く見たいのよ! 蘇生魔法だなんて興味が尽きないわ! 」


「うふふ、蘭も久しぶりに女神様に会えるのが楽しみです」


「そうだな。さっさとやるか」


俺はそう言って不安気な顔をしているダークエルフやサキュバスたちとドワーフやホビットらを見渡してからソファに横たわる夏美の前に移動した。

みんな話には聞いていたけど本当にできるのか不安ってことか。まあ訓練時や夏美が夏海と山籠りしていた時に少なからず交流があったしな。

俺は拠点の皆を見てそう思いつつ、夏美の姿を見ながら魔法を掛ける準備をした。


夏美……こんなにボロボロになって血まみれになって……光一を逃がすために自分を犠牲にして……お前は本当に夏海だよ。


「まずは傷口を塞ぐ……『時戻し』」


俺はまずパックリ開いた首の傷を塞ぐために、夏美の身体全体に時戻しの魔法を発動した。身体全体にしたのは装備もついでに直そうと思ったからだ。

魔法を発動すると俺の手から数十の歪な形をした時計が現れ、夏美の全身を包み込んだ後に一斉にその針を逆回転させた。

そして半日ほど時を戻し魔法を解除すると、そこには首の傷と鎧の傷が消えた綺麗な顔の夏美が横たわっていた。


「よしっ! 次は……時の女神よ……愛する者のためにその身を犠牲にし真の愛を体現した者に、今一度この世界で生きる権利を……『蘇生』 」


ぐっ……相変わらず大量に魔力をもってくな。

俺は急激に魔力が抜ける感覚に耐えながら魔法の発動を完了させた。

すると夏美の頭上に巨大な魔法陣が現れ周囲が闇に包まれた。


「なっ!? く、暗く……」


「こ、この闇は普通の闇とは違うわ……」


「こ、これは破壊神シーヴ様の神殿で感じた力に似ている……」


「リ、リアラ様の神殿で感じたお力に似ている……」


え? そなの? 確かに時の女神の神力というかそういうものはリアラに似ているけど、破壊神にも似てるの? イマイチ神界のこととかよくわからないんだよな。破壊神も創造神が作ったというから善とか悪とかは無いんだろうけどさ。

俺は以蔵たちやリムに信心深いホビットたちが驚いているのを横目にヴリエーミアの登場を待った。


そして少しもしないうちに夏美の頭上の魔法陣から黒いローブに身を包み、フードの隙間から青白い肌と美しく整った顔を覗かせたヴリエーミアが現れた。

ヴリエーミアは俺をチラリと見て少し口を尖らせてから夏美の身体に手を当てた。

人がいっぱいいて恥ずかしいんだな。悪かったよ。ん? いま前かがみになった時に見えた白い物には見覚が……あのローブもなんか慌てて着てきた感が凄いするな……


俺が思い浮かんだ物にまさかなと思っていると、ヴリエーミアの手にかざされた夏美の身体から眩いばかりの光が溢れ出した。その光は周囲の闇を隙間なく照らした後に徐々に弱くなっていき、最後には消えていった。

そして光が消えた夏美の身体からは魔力を感じることができ、胸元もゆっくりと上下していた。


ヴリエーミアはそれを確認した後にわざとだろうか? 俺に背を向けてお尻を突き出し魔法陣へと帰っていった。俺はその時にローブの中のヴリエーミアの足からお尻まで全て見えてしまった。


白いTバック水着じゃねーかよ! みんながいなかったら海水浴でもするつもりだったのかよ!

俺は相変わらずの時の女神の行動に脱力しつつ、一連の出来事に目を見開いて固まっている皆に声を掛けた。


「まあ今のが時の女神ヴリエーミアだ。最上級時魔法は女神を召喚して行う魔法なんだ。夏美を見ろ。魔力があるだろ? 呼吸もしている。蘇生が成功したということだ」


「は……はい……あれが女神様……」


「い、以蔵……なんて言っていいのかわからないけど、凄かったわ」


「か、神を召喚するとは……さすが私の光魔王様……」


「す、す、すごいやー! 光魔王様すごいやー! 」


「……本当に生き返ってますわ」


「二度目だけどやっぱり凄かったわ……」


「私はああやって生き返ったのね……光希の魔法で……光希と愛し合うためにこの世に戻ってきたのね……」


「初めて見たけどとんでもない魔法ね……神を召喚するなんて……私が死んでからコウはどれほどの試練を乗り越えてきたというの……」


「す、すげー……旦那さますげー……」


「やっぱり女神様は恥ずかしがってました。いつものポーズが無かったです」


「な、夏美さん……ほ、本当に……生き返った? あ、魔力……な、夏美さん! 」


皆が驚いている中でも一番驚いて固まっていた神崎が夏美の魔力を感じとり、ソファに横たわる夏美に駆け寄っていった。

俺はそれを見送りつつ未だに驚いて騒めく我が社の従業員たちに、今までちゃんと言っていなかった労働条件を告げることにした。


「そういう訳でLight mare CO. LTD.の社員諸君! 我が社は超ブラック企業だ! 休日も多く給料も高いし終身雇用の会社で一見ホワイトに見えるが、実はお前たちが死にたいと言うまで何度でも若返らせ、死ねば生き返らせまた死ぬまで働かせ続ける新しいタイプの終身雇用制度を導入している会社だ。ちなみに依願退職は認めないし、定年退職も無い。だから歳を取っても再雇用に悩まなくていいんだ、安心して欲しい。もう死にたいと言い出すまでこき使ってやる。俺と出会ったんだから仕方ない。呪うなら俺と出会った運命を呪うんだな」


俺と出会って俺のもとで働きたいと言ったのはお前たちだからな。

まあ就職したら聞いてない話だらけだったってのはよくあることだ。特にブラック企業なんかに入ったら聞いてない話だらけだし、退職なんて簡単にできない。運が悪かったと諦めるしかないんだ。


「ククク……死にたいと言うまで使って頂けるとは光栄です。この以蔵、お屋形様の生がある限り忠義を尽くすことを誓います」


「ふふふ……この命尽きるまで忠義を尽くしますという言葉では軽くなってしまうものね。お屋形様、この静音も以蔵と同じく永遠に忠義を尽くすことを誓います」


「同じくこの桜も! 永遠にお側に仕えさせて頂きます」


「……紫音もベットで永遠に」


「「「「「我らもお屋形様へ永遠の忠義を! 」」」」」


お前たちには数を増やしてもらわないといけないから、死にたいと言っても1組につき3人の子供ができるまで死なせないつもりだ。


「光魔王様、我ら光魔王軍も同じく永遠にお仕えさせて頂きます」


「ボクも光魔王様の親衛隊になってお守りするんだ〜」


「あらあら、私も光魔王様の子をたくさん産んで育てますから死ぬ気は無いですわ」


リムたちはかなり使えるし数を増やす約束をしてるからな。どんどん増えてもらって働いてもらわないとな。ちなみに我が社の従業員の子供は強制入社だ。ブラック企業はその性質ゆえに常に人手不足だからな。

地獄の就職活動をしなくていいなんて羨ましいな。


「死ねないとかサトウの旦那マジやべえな……ん? てことはチリルと永遠に一緒にいれるってことか? やべえ……ブラック企業とかサイコーだな! 」


「死にたいと思うまでか……それだけの時間があれば恩返しができるな」


「長く生きてれば……そ、そしたらオレもいつかコウキとい、一緒になるチャンスがあるかも……」


「……イスラ、一緒にがんばろ。私もいつか光希様と……」


ドワーフとホビットたちは数が少ないからな。増えるのには時間が掛かりそうだ。全員若返らせて媚薬と精力剤配るか? いやいやいや、思考が横浜ダンジョンの吸血鬼みたいになってるな。こういうのは自然に任せないと駄目だな。でも増やしたいな〜


「あはははは! ダーリンうちの会社は確かにブラックね。勤続年数500年とかになったら昇給はどうなるのかしら? 一度計算しないと駄目ね」


「凛ちゃん普通昇給は上限あるわよ。毎年上がり続けないわ」


「そうよ、私は戻っても冒険者連合のお給料はもう上がらないわ」


「そうだぜ? あたしも昇給もうしないんだ。長命種には損だよな〜」


「夏美さん! 夏美さん! 」


「あっ、なっちゃんが目を覚ましましたようです」


凛が真面目に給与形態のことを考えだしシルフィとセルシアが愚痴をこぼしてると、先ほどから夏美に呼びかけていた神崎の声が一際大きくなった。どうやら夏美が気が付いたようだ。


「ん……んん……玲さん? ここは? ……ハッ! 光一! 」


「おはよう夏美さん。ここは俺の拠点だ。光一は無事だよ」


「夏美さんごめんなさい。私がハーピーに攫われたからあんなことに……ごめんなさい……ううっ……」


「良かった……玲さんも無事でよかったわ。玲さん気にしないで、あれは仕方ないわよ。私も探知できていなかったのだし、そもそも光一の馬鹿を止められなかった私も悪いのよ。でもおかしいわ……私は間違いなく致命傷を負ったのに……」


「夏美さん。落ち着いて聞いて欲しい。君は一度死んだんだ。そして俺の魔法で生き返った」


「え? え? ええーー!? い、生き返った!? そ、そんなことが……あっ! 時戻しの魔法!? 」


「ああ、時戻しの魔法と同じ系列の蘇生魔法でこの世に戻した」


「そ、そんな魔法が……ま、まるで神ではないですか……」


「ははは、人間だよ。お袋と同じこと言うなよ」


俺は目を見開き、後退りながら驚くという夏美のリアクションに笑いながらこれまでの経緯を話した。

夏美は終始驚いていたが、光一には反省をしてもらうためにしばらく会わせられないということを告げると悲しげな表情をしていた。


「そうですか……確かに最近光一は危なっかしかったです。どこかで光希さんにお灸を据えてもらおうと思って夏海に相談していたところですし……良い機会なのかもしれません」


「そう悲しい顔をするな。夏美さんも神崎もまだまだ弱い。会えない間は徹底的に鍛えてやる。神崎、軍には連絡しておくからしばらくこの島にいろ。覚悟しておけよ? 」


「は、はい! 教官! お願いします! もう仲間を失いたくないのです! どうか鍛えてください! 」


「私もお願いします。あの時私にもっと力があれば……」


「蘭に幻術を掛けてもらってフィールドで鍛えてやる。光一は俺がなんとかするから二人は強くなることだけ考えろ。もう死なないようにな」


「「はい! 」」


俺は夏美と神崎と話し終えると拠点の皆に解散するように言い、セルシアには前に使っていたテントを夏美と神崎用に用意してやるように指示した。


とりあえず光一はしばらく放置しとけばいいな。

先にこの二人を強化しないとまた死にそうだからな。



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