第67話 妙案







夏美を蘇生させてから三日ほど経った。

夏美と神崎は俺たちの拠点でしばらく生活することになり、昨日から夏美には夏海が、神崎には同じ火魔法の使い手である凛が資源フィールドで付きっきりで色々教えているようだ。

当然リムたちや以蔵たちをグリフォン付きで護衛に付けている。ちなみに夏美と神崎は蘭の幻術でダークエルフに見えるようにしているので、彼女たちを知る者が見かけても気付かないだろう。


護衛役に行ってないサキュバスやダークエルフたちは、攻略済みの中世界森フィールドでオージーに採取方法を教えに行っているし、ドワーフやホビットたちは量産品の装備作りに忙しくしている。

黒鉄の在庫はたくさんあるがそろそろ中世界山岳フィールドを攻略して、恐らくあるだろう黒鉄の鉱脈を見つけないと減っていく一方だ。


黒鉄は元の世界だと、フィールドタイプの中級ダンジョンの最下層や上級の上層に鉱脈があることが多いが、魔獣が絶えず湧くことから大規模な採掘が難しい。冒険者連合ではいくつか確保しており依頼を出して採掘しているらしいが、それ以外はほとんどが宝箱産となる。これがミスリルなら軍が動くんだが黒鉄にそこまではできないのが実情だ。


しかし方舟なら攻略さえしてしまえばダンジョンより遥かに安全に採掘できる。俺が探知で鉱脈を見つけさえすれば安定した量を手に入れられるだろう。埋蔵量がどれほどあるかはわからないが、それでも安全に採掘できるのは魅力だ。


拠点の皆がそれぞれ忙しくしている時に俺はと言うと、蘭とシルフィとセルシアに手伝ってもらいテントの外で解毒薬作りつつ、どうやって世界の人々を救うか日がな一日考えていた。


「お? 外は雪が降ってきたぞ? 」


「あら? 今日はそんなに寒かったのね。格納庫の中は暖かいから気付かなかったわ」


「うわ〜あたし寒いの苦手だから外でたくないな〜」


「あ、セルちゃんそれは魔力回復促進剤の素材ですよ」


「あっ! やべっ! 」


「ははは、セルシアも集中力が無くなってきたし今日はこれくらいにしておくか」


「そうね。地味な作業が苦手なセルシアにしてはよく頑張ったわ」


「そうだな。お陰で大量に中級解毒薬ができたよ。ありがとうな」


あのセルシアが文句も言わずに苦手な作業を手伝ってくれるんだからな。変われば変わるもんだな。


「えへへへ、旦那さまとの共同作業だからな。こ、恋人として当たり前のことだからな」


「うふふ、セルちゃん照れてて可愛いです」


「そうか、俺も孤独なスクロール作りとは違って恋人と何かを一緒にやるのは楽しいな」


「でもコウはここのところ色々悩んでるのよね? 作業中も難しい顔をしてたわ」


「ええ!? 旦那さま悩んでるのか!? 」


「ん? ああ、他の国も救って欲しいと陛下に頼まれたんだよ」


俺は陛下とのやり取りと、アマテラス様の真意に対する考察を交えて説明した。


「蜘蛛の糸ねぇ……似たような話がアトランの人族の国にあったわね。過去の勇者様が広めたのかもしれないけど、神の導きの可能性も排除できないわね」


「なんだ? 世の中弱肉強食だろ? 弱い群れや国が滅ぶのは仕方ないんじゃないか? なんで助ける必要があるんだ? 」


「セルシア? エルフも竜神族も過去に女神様が遣わしてくれた勇者様に、種族滅亡の危機から救ってもらったことを忘れたら駄目よ? 」


「あ〜う〜そうかぁ……そうだった」


「これがエルフや獣人や竜神族なら喜んで助けるんだけどな。助けたくない奴らもいるし、善良な人を助けたとしても数十年後には日本の敵になるかもしれないしな。日本の将来にとっての潜在的な脅威になるのは間違いがない」


結局いくら考えたって未来のことはわからないんだよな。日本はお人好しが多いからな。平和になって生活が安定したら周辺国の食い物にされそうだ。光一が抑止力として機能するのも数十年だろう。世代が変われば恐怖も薄くなる。いずれ日本が世界各国から総攻撃を受ける可能性だってある。


「そうよね。Light mareの存在だって50年後には忘れている人が多いでしょうしね。また馬鹿なことやりそうよね。ロシアとか米国とかね」


「んん〜? だったら旦那さまが方舟を全部攻略しちゃって世界の王になればいいんじゃないか? 」


「うふふ、蘭も賛成です。その時は蘭は四天王としてがんばります」


「なんで世界征服する魔王みたいになってんだよ。俺はこの世界を征服するつもりはないぞ? 征服したらずっとここにいなきゃなんないじゃないか。俺は早く帰って女神の島の別荘でのんびりしたいんだ」


蘭は魔王城建てる気満々だな。勘弁してくれよ……


「そうだったわ。女神の島に別荘を建ててたんだったわ。楽しみよね〜」


「ん〜そっかぁ……あたしもこんな何もない世界にはずっといるのはやだな〜。でも旦那さまが征服するのが手っ取り早いと思ったんだけどな〜。逆らったら管理者権限だっけ? それでフィールドを奪っちゃえば誰も逆らわないだろ? 」


「セルシアの言うことももっともよね。自分の土地の管理者が永遠に生きてるなんて、為政者にとっては悪夢よね」


「そりゃそうだろうけどさ、ずっとこの世界で見張ってなきゃいけないのはな……」


ん? 待てよ? 敵対しそうな国の土地は光一を管理者にして……いや、それよりも……あれ? 別に世界征服しなくても簡単に言うこと聞かせられるんじゃね? しかもこれは……儲かる!


「セルシアありがとう。お陰でいい案が浮かんだよ」


「え? えへへへ、そうか? あたし旦那さまの役に立ったのか? 嬉しいなぁ。えへへへ」


「セルちゃん! 可愛すぎです! 蘭は今夜セルちゃんと一緒に主様と子作りします! 」


「うひゃっ! ら、蘭……ちょ、待てって! 抱きつくなって! 」


「ふふふ、セルシア可愛いわね。私も一緒にしようかしら」


「はは……体力持つかな。ま、まあいずれにしろ凛たちが帰ったらみんなで話し合おう」


俺はセルシアを抱きつき頬ずりする蘭を微笑ましく見ながら、蘭とシルフィとセルシアの相手をするのはかなりキツイなと冷や汗を流していた。


そして夜になり凛と夏海が帰ってきて、夕食どきに俺が考えた案を相談した。


凛は大喜びで賛成してくれて、他の恋人たちもいい案だと言ってくれた。セルシアだけが世界征服するのと同じじゃんとか言っていたが、まあ他国から見たらその通りなので特に否定はしなかった。


そしてこの日から俺たちLight mareは、この世界を救うべく本格的に動き出すのだった。











ーー 首相官邸 内閣総理大臣 東堂 勇 ーー





「なに? 倉木君が引きこもってる? 」


「はい。倉木さんの父親の件でアポイントを取ろうと自宅に伺ったのですが、母親は承諾してくれたのですが肝心の本人がもう五日も部屋から一歩も出てこないとの事でして……」


「確か森フィールドを攻略した翌日から、訓練のために再度森へと入って行ったんだったな。その時に喧嘩して失恋したとかならいいが……」


タイミングが悪い。秘書に倉木君の父親の件の謝罪のために日程の調整を頼んだが、どうもそれどころでは無さそうだ。


「そうなると次の攻略戦は厳しいか……」


「はい。ハンター組合も本人が指名依頼を受けに来ないため、明後日からの森フィールド攻略戦への参加は難しいと言っておりました」


「そうか……倉木君のパーティがいないのは厳しいが軍だけでやるしかあるまい。犠牲者が増えそうだがな。防衛省にはそのつもりで作戦を練るように伝えてくれ」


ここは草原フィールドの攻略に変更したいところだが、国際救済連合がうるさいからな。小世界の残りの海と砂漠、そして中世界の草原を同時攻略など奴らにできるはずもないのに文句ばかり言いやがって。


「はい。それともう一点報告があります。Light mareの皇様より会社設立の申請がありました」


「会社設立? 皇さんといえばあの狂炎の魔女とか呼ばれている佐藤氏の恋人の一人だろ? 佐藤氏の指示だと思うがどんな業種なのだ? 」


「はい。笑いながら逃げる魔物を燃やし尽くしていた彼女のことです。業種は賃貸専門の不動産業だそうで、警備業や孤児院の運営も将来的に行うとのことでした。会社名はLight mare CO. LTD.方舟支社で、外資系の会社として設立したいそうなのですが……」


「この時代に不動産業をやるのか? いや、しかし方舟のフィールドの土地は全て国有地になっている。期限がある以上今後民間に販売する予定はないのだが……それに支社? 元の世界に本社があるのか? 」


「はい。元の世界ではまた別の業種をしていると言っておりました」


う〜む……不動産業賃貸業? しかも外資系として? 国から方舟の土地を借りビルでも建てて貸すつもりなのか? そのために警備業を自社でまかなう? まあそれなら別に構わんか。孤児院も運営してくれるのならありがたいしな。そもそも佐藤氏絡みの事で我が国がノーと言えるはずがない。

しかし会社を作りビルやマンションを建てるとなると、佐藤氏はしばらくはこの世界に定住してくれるということか?

それはそれでありがたい事だな。よしっ! 資格関係は特例で免除して、手続きが円滑にできるよう政府の者を派遣してフォローさせよう。


「すぐに許可を出して官公庁をあげて全面的にバックアップしてくれ。外資系の会社だろうがなんでも構わん。Light mareを少しでも日本に引き留めることができるならどんな特例でも法改正でもする。会社登記の場所は方舟の政府機関移転予定地の住所にでもしてくれ。人手が足らないようなら派遣もしてやってくれ」


「は、はい。そのように伝えてまいります」


これは我が国にとっての朗報だな。佐藤氏は元の世界に帰る時は倉木君を影武者として使ってくれと言っていたが、顔は同じなのだが佐藤氏と倉木君では強さからくる圧迫感が比べ物にならないほどの差がある。

彼では一度佐藤氏と相対したことのある者には影武者だとバレてしまうだろう。


佐藤氏がこの世界にいてくれるならこれほど安心できることはない。

そうだ! これまでの貢献に対する報酬として契約している資源の他に土地も与えよう。そうすれば将来日本に万が一のことがあれば、その土地を守るために助けてくれるかもしれんな。


これは急ぎ党内で根回しをして議会にかけねば……


この時の俺は佐藤氏が会社を作ったことの意味を深く考えず、ただ彼に一日でも長くこの世界にいてもらう事だけを考えていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る