第10話 内政チート 【挿絵地図】




「ヴ、ヴェール大陸に住むのか!? 」


「ああ、人族の国を滅ぼすのは確定だ。その後のことを考えたら、アトランやムーアン大陸にいても落ち着いて生活できないだろう。新しくできた人族の国が、報復の名の下に攻めてくるのは容易に想像できる」


「そ、それは確かにそうだが勇者様。俺たちは幼い頃からヴェール大陸は魔族の大陸と教えられて育ってきた。そのヴェール大陸に住むのは……」


「なんだ? ゼルム。お前ら獣人は人族より圧倒的に数の少ない魔族程度に滅ぼされる種族なのか? ダンジョンも無いから氾濫も起こらないんだぞ? そのうえドワーフにホビットがいて、上等な装備を揃えられるってのに負けるのか? 」


「そ、そんなことはない! 俺たち獣人種は魔族程度に滅ぼされるほどヤワじゃない! わかった! ヴェール大陸に乗り込んでやるぜ! 」


「500年は守ってやる。その間に力を付けろ。魔族は強い者には敬意を払う。そういった存在になってみろ」


「おうっ! なってやるとも! 」


よしよし、これで計画通りにいきそうだ。



ドーラやエフィルたちと再会を果たした翌日。

俺はエルフと獣人に竜人、そして人族から逃れてきたドワーフやホビットのいる集落へと再度訪問した。


そこで最初にエフィルと小太郎たちと話し合いをした後に、竜人たちを束ねるトータスとドワーフたち。最後にゼルムとそれぞれ個別に話をした。


この集落にはエルフが350、ダークエルフは600、竜人は230、獣人は2800、ドワーフとホビットは300人が生活している。

獣人とドワーフにホビット以外はここにいるので全部だ。この世界でこれだけしかいなくなった。

エルフは全盛期には1800、ダークエルフは3000に届くほどに数を増やしたらしいが、俺がその楽園を見ること叶わず数を減らした。


これだけで人族は万死に値する。女子供以外皆殺しにしてやりたいが、リアラに怒られるからそれはできない。皆殺しににした後に責任持って人族を増やせと言われそうだからだ。


俺はエルフとダークエルフには俺たちの世界に来るように言った。

なぜならこの世界の精霊神の加護を受けた土地は人族に破壊及び穢されてしまい、この魔力の枯渇しそうな世界で復旧に何百年掛かるかわからないからだ。


このままでは精霊と契約できないエルフばかりになってしまう。そんなエルフは怖くない。人族の奴隷になる未来しか見えない。それならいっそ土地を変えてはと提案した。

当然生まれ育った故郷を捨てるのには抵抗があるだろう。しかしエルフは土地よりも精霊と共に生きる種族だ。


この世界に来る前にリアラに頼んで、女神の島に精霊神の加護をもらえることになっていると言ったらそれならということになった。エフィルとララノアは最初から付いてくる気満々だったけどな。そこは部族の長として一応皆を説得する材料が欲しかったという感じだ。


この事は以蔵たちにも事前に話してあり、同胞が増えることと女神の島に加護が得られることにかなり喜んでいた。これで子が作れると。

俺も思ったより早く精霊神と間接的にだが交渉できて胸を撫で下ろしたよ。


竜人たちは……やっぱ脳筋だった。ダンジョンのある世界に行きたいそうだ。

トータスは丸くなったけど、ほかのが駄目だ。女竜人も昔と違いかなり攻撃的になっていて、セルシアが女だてらに上位種のハイドラゴニュートになったのに大いに刺激を受けたみたいでさ、セルシアを姐御とか呼んでたよ。

もう竜人族はセルシアに丸投げする事にした。トータスにも憧れの目で見られてるしな。

一応大丈夫だとは思ったけど、セルシアに手を出そうと思っただけで殺すと言っておいた。

せっかく女の子になってきたセルシアに、できれば近付いて欲しくないんだけどな。同胞だから仕方ない。

セルシアも嬉しそうだったしな。


ドワーフとホビットたちは人族に奴隷にされている同胞を救い、その後の面倒をみてやりたいという事で残る選択をした。ただ、その中で好奇心旺盛な者がいると思うので、希望者は連れて行ってあげて欲しいと頼まれた。こっちとしては大歓迎だからいくらでも面倒をみると言っておいたよ。


そして最後にこの世界の亜人で一番数の多い獣人種だ。この集落には3千に満たない数しかいないが、人族の奴隷として10万はアトランとムーアン大陸にいるらしい。

人族3千万に対して獣人の割合が思ってたより少なかったが、獣人たちの生活のためにこの世界に来るまでに色々と大急ぎで準備をしてきた。


それを実行するには人族と同じ大陸だと色々と都合が悪い。

だからヴェール大陸に引っ越すように今代の獣王であるゼルムに言ったわけだ。



俺はゼルムの了承を得たあとに、エフィルからもらった現状の世界地図を取り出してテーブルに広げた。




リアラの世界


https://28930.mitemin.net/i411810/


「ゼルム。場所はこのヴェール大陸の最南端の平地だ。ここに城壁を作りその中に街を作ってもらう。当面はここにある集落を俺が転移魔法で移設するからそこに住めばいい。そして俺たちが教える知識をもとに技術を発展させろ。食糧に関してはこれから実験するから少し待て。当面は七日神麦と通常の作物でなんとかなるだろう」


「あ、ああ……魔法で建物をと……それに知識を……あと神麦? だな。わかった勇者様! 」


絶対わかってない。

まあいい。この男に知能は期待していない。リーダーシップと獣王という獣人最強であることを証明する地位さえあればいい。あとはマリーたちがスパルタでなんとかしてくれるだろう。


俺はとりあえずゼルムにアイテムバッグを複数渡し、割れ物など衝撃に弱い物を明日までに各家から集めて入れるように指示をした。



このダンジョンが無くなり魔力の枯渇した世界に俺は科学を持ち込む。


俺に大地から魔力を吸い取る装置を破壊され、魔石を作れなくなった人族は一気に300年前の軍備に戻るだろう。さらにそこにはダンジョンも魔法もなく、ランクアップもしない。今回の戦いでエフィルから聞いた養殖しているらしいオークは根こそぎ回収するからな。

つまりダンジョンが現れる前の地球人の肉体と、中世時代の文明に逆戻りするわけだ。


そして人族の文明が退行している間にヴェール大陸の獣人の街で科学を発展させる。

魔族は俺が隷属させた幹部クラスが最低でも500年は生きているだろう。その間に文明を発達させ、いつか人族が攻めてきた時に撃退できるようにしておく。


獣人たちにはその間の逆侵攻は禁じるが、まあそれで人族が滅ぶなら因果応報だ。魔族を滅ぼすならどうぞどうぞって感じだな。もともと魔族は特殊能力がある分強いし、魔物を倒せばランクが上がるから相当恵まれているしな。それで滅ぶならそれまでだ。


滅ぼされるのが嫌ならその特殊能力を駆使して技術を盗むなりして魔族たちも努力すればいい。

一番いいのは獣人と魔族での共存だな。ただ、基本的に『悪』の性質を持つ魔族との共存には力が必要だ。常に強敵として君臨していなければ魔族は牙を剥く。

そんな環境で生きていけるのは脳筋獣人種くらいだ。エルフには無理だ。


そして食糧だが、この世界の植物は成長に魔力が必要だ。だから大地の魔力が減ったから作物の生育に影響が出ている。大地に魔力が十分にあれば、地球の作物より成長が早い。ただ、同じ畑でまた育てようとしても魔力不足でうまく育たない。なので広い土地を必要とする。

結果的に年間で収穫できる量は地球の作物より少し多いくらいだ。


俺はいまこのヴェール大陸の地質をマリーたちに調べさせている。そのための機材も持ってきた。それにより地球の麦や米が育つかがわかる。


そう、魔力を必要としない地球の作物を俺はこの世界に定着させるつもりだ。

土の中にはミミズがいたし、微生物だって当然いるはずだ。この世界の作物を育てる時に魔力以外にも肥料は必要だし、同じ育て方でいけるはずだ。


過去に召喚された勇者は地球の作物の種なんて持ってなかったからな。

当たり前だ。ある日突然召喚されたんだ。たまたま麦の種もみを持ち歩いてましたなんて奴はいないだろう。相当な確率だと思う。


俺は一度はやってみたかった異世界での内政チートをやる。


失敗したら失敗したで疲れるが手はある。かなり疲れるからやりたくないけどな。

聖女が飢饉の時によくやっていた、大地に魔力を補充する上級聖魔法の祝福を掛けて周るなんてキツ過ぎる。

毎回全魔力を一定の範囲の土地に注ぎ込むんだ。10万人分の食糧を育てる畑にな。

成功しても何年効果があるかは不明だ。恐らく数十年はいけるとは思うんだけどな。魔力EXだし。

でもできればやりたくない。そういう意味でも地球の作物には期待している。


まあそういう訳でまずは救出した獣人たちの受け入れ準備をする。

そして七日神麦を急いで育てて当面の食糧を作りつつ、地球の作物も育てる。そしてドワーフやホビットに、鼠人族などの頭の良い者たちにマリーやサキュバスたちを教師にして日本語を教える。

それから彼らに化学と物理の教科書を読ませる。魔石式発電機にDVDプレイヤーとプロジェクターも複数持ってきたから、DVD教材もしっかり見せて勉強させる。

サンプルの火薬もレシピも実験機材なんかも置いていくから、あとはなんとかしろって感じだな。


獣人たちは訓練に勉強に農作業とかなり忙しくなるだろう。

俺の内政チート実現のために是非頑張って欲しい。


さて、次はヴェール大陸の掃除に行くか。


俺は魔王城に転移してドーラと蘭を呼び、ヴェール大陸の掃除と警備員を確保しに向かうのだった。




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