第8話 フィリピンの門





西新宿公園で特警部隊を殲滅した日から3日が経過した。

最初の2日は日本軍が攻めてくるかもしれないからと拠点で大人しくしつつ、時折ラジオを聞いて本土の様子を伺っていた。ラジオではドラゴンを操る謎の集団が特警の実働部隊と交戦し、特警部隊が全滅した事だけを報道していた。どうも報道規制が掛かってるっぽかった。あ〜これはダメかなと思い、2日目の夜にサキュバス達をグリ子達に乗せ周辺国の偵察に行かせた。

しかし夜が明けた今朝になって各地でデモが起こり、首相の東堂という人が国民に対し各自治体と特警を徹底的に調査するとメッセージを出した事で少し望みが出てきた。


「この東堂って総理はまともそうね? 」


「未だに公務の合間に資源フィールドで狩りをしてる人みたいだからね。真っ直ぐな武人のかもね」


「で? どうするの? 東南アジア行く? 」


「そうだなぁ……俺たちの疑いが晴れるならここらで実力を見せておいた方がいいかもしれない。その方が話が早く進みそうだ」


昨夜リムたちに周辺国の偵察に行かせた結果、東南アジア諸国は住人が一人もおらず門が放置されていた。

それを聞いた俺たちは、日本人である事を隠してフィールドを一つ攻略してみようかと話していたところだ。

方舟の攻略フィールドではボスを倒すと鍵を落とすらしく、その鍵があればボスが倒されてるとフィールドの最奥に現れる神殿に入れるそうだ。神殿に入ってからの事は誰も知らないようで、中がどうなっているのかはわからなかった。恐らくその神殿でフィールドを開放できるんだろう。


「やっと魔法をめいっぱい撃てるわ! ここには訓練室が無いから思いっきり撃てなくてストレス溜まってたのよね」


「凛ちゃんは蘭ちゃんに幻術掛けてもらって海に向かって撃ってたじゃない」


「え? 凛そうなの? たまに海の方で水蒸気が上がってたのは凛の魔法だったのね」


「標的もない海に撃ってもつまらなかったのよ。やっぱり魔獣の群れに撃ち込んでこそスッキリするのよね」


「蘭も一緒です! 万単位の魔獣の群れを蹂躙すると気持ちいいです! 」


「え……万単位はまだちょっと……」


「ふふふ、ランちゃんレベルのスッキリと凛レベルスッキリには差があるみたいね。ランちゃんは私と暴れましょうね」


「はい! 蘭は凛ちゃんとシル姉さんを乗せて暴れまくります! 」


「なんで私が入ってるのよ! 無理だから! 蘭ちゃんに乗って万単位とか無理だからね! せめて空からやらせて! 」


「あははは。さすがに万単位の魔物はまとまって出てこないよ。人間の数に比例して魔物が増えるようだけどあちこちに分散するさ。それに小世界は各連合の規模によって200~300人、中世界は700~1000人までと攻略人数を決めているみたいだ。単国の場合はその国の人口によって決まるらしい。フィールドの魔物が3分の1以下になって、さらに魔物のリポップが間に合わない状態になるとボス軍団が現れるらしいから、早くボスを出すために各連合でそう決めてるみたいなんだ」


敵同士とはいえ、一応どの国も方舟を攻略したいから最低限攻略人数の協定は守っているみたいだ。攻略人数増やしても魔物が増えるなら意味ないしね。だったら精鋭で挑んだ方が攻略できる確率が上がると考えているんだろう。それでもボスの発生条件を考えると各連合毎に300人でも多いと思うけどね。


「え!? フィールドダンジョンみたいに奥に行けばボスがいるんじゃ無いの!? 」


「私も奥に行けばいると思っていたわ。結構厳しい条件よねそれ」


「少数で各国が協力して挑めばそれほど厳しい条件では無いのでしょうが……」


「そうなんだよ。恐らく創造神は肌の色や思想の違いで争ってばかりいる人間に、協力してこの方舟を攻略するように仕向けたいんだと思う。各国の精鋭を出し合って協力して挑めばそれほど難易度は高くないんじゃないかな。人類にそれを気付かせたいのか、そうせざるを得ない状態に追い込みたいのか……このまま各連合ごとに何百人も出してたら、シルフィの言う通り難易度は高いままなんだろうけどね」


「そんなの永遠に無理じゃない? 8割の国が一致団結しようとしても、2割の国が邪魔をしようと協定を破って攻略人数増やしたら魔物は多いままよね? 絶対どこかが足を引っ張るわよ」


「そうだね。今はまだ小世界はダンジョンで言うなら中級ダンジョンレベルだから、ゆっくりだけど攻略はできてるみたいだ。けど、中世界は当然難易度が上がるだろう。そうなった時に協力しない国がいれば、先にそっちを潰そうとするだろうね」


「げっ! 神様怒らせておいてまた地上で戦争する気なの!? 」


「核で世界を滅ぼそうとしたくらいだしすると思うよ。石油が出る砂漠フィールドと、鉱山がある山岳フィールドを一番多く攻略した国が地上では有利になるだろうね。攻められた方は追い込まれて攻略済みのフィールドに逃げるにしても国民全員は無理だろうし、確実に力は落ちるよね。今はまだどの連合も食糧優先で森や海に戦力を多く割いてるみたいだけどね」


核燃料のウランとかはどのくらいの大きさの世界から採れるんだろ? さすがに地上を破壊した物質だから創造神は採れないようにしたかな? 攻略しないとわからないってのがなぁ。

家畜は攻略するとそのレベルに応じて返してくれるらしいけど、生きたまま方舟の外には連れ出せないらしい。地上には一切資源を戻さないって事か、徹底してるな。

それでも創造神が家畜や動物達や植物を保護しなかったら、放射性物質と急激な気温の低下で全滅していた可能性だってある。大規模な核戦争の後の世界にしては、まだやり直せる可能性があるだけマシなのかもしれないな。


「私が生まれた世界も核戦争寸前だったらしいからあんまり言いたくないけど、人間って愚かよね〜」


「私の生まれた世界も、古代文明が世界を壊すほどの強力な魔法戦争で滅びたと言われているわ。どの世界の人族も愚かよね。寿命が短いからかしら」


「寿命が人間と同じくらいの獣人はここまで愚かじゃないから関係ないだろうな。少しばかり知能の高い人族特有のものなんだと思うよ」


「そうね、知能が高いから欲も強いのかもね。それで? いつ出発するの? やっぱり夜? 」


「ああ、夜に闇に紛れて東南アジアの門から資源フィールドに行って、そこから攻略フィールドに入ろうと思う。4人乗りの座席を付けたグリ子達を連れて行くから、セルシアを含めた俺たちの他にあと18人連れて行く。せっかくだからサキュバスとダークエルフのランク上げもしたいしな」


「モメそうよね。リムちゃん三姉妹と紫音ちゃんに桜ちゃんは確定として、他の人たちが誰が行くか騒がしくなりそうだわ」


「そこはリムと以蔵に任せるさ」


そしてその後、案の定サキュバスとダークエルフ達で誰が行くのか大揉めして騒がしかったので、蘭がクジを作ってクジ引き大会を催していた。こっちの方がもっと騒がしかったな。

結局恋人達とセルシアにサキュバス7名、ダークエルフ11名の総勢24名で行くことになった。居残り組が悔しそうな顔をしていたので、別に攻略すべきフィールドはまだまだたくさんあるから順番で参加すればいいだろと言ったら皆が揃って目を輝かせていた。どんだけ戦いたいんだよ。


そんな戦闘狂の居残り組に見送られて俺たちはフィリピンのルソン島へと向かった。東南アジアは台湾同様戦後の物資不足の中で、中露が一番最初に略奪のために侵攻した地域だ。更にはここを拠点としてオーストラリアへと進軍したらしい。日本は台湾の人たちを救出するのに手一杯で、アメリカは自国のことで戦争の続きをしている場合ではなかったらしく、中露はやりたい放題だったようだ。日本が侵攻されなかったのは、在日連合軍が残っていてくれたからだと日本国民は口を揃えて言うそうだ。今はその連合も大統領など指導者が変わり、態度を一変させて日本を追い詰めてるのにな。相変わらず義理堅い民族だよ。


ちなみに世界各国の所属連合は、まず日本、アメリカ、欧州諸国とイギリスの『日米欧英連合』。日本には台湾臨時政府があり、アメリカはカナダを併合した。この二国は発言権が無いそうだ。人口は日本4000万人、アメリカ2億人、欧州1億人、イギリス2000万人ほどで台湾とカナダは500万人以下らしい。


次に中華国とロシアの『中露連合』。中華国の属国扱いで南朝鮮があり、その下にオーストラリアがあるそうだ。扱いは奴隷頭の南朝鮮と奴隷のオーストラリアという感じらしい。酷いもんだ。そしてロシアの属国に東南アジア諸国がある。こっちの扱いもオーストラリアと似たような感じだと言っていた。人口は中華国が4億、ロシアが7000万人、南朝鮮が1500万人ほどで東南アジア諸国とオーストラリアは1000万人ほどのようだ。ロシア人は数は少ないが強兵が多く、中華国と対等な立場を維持しているらしい。


そしてどことも連合を組んでいない国として、アラブ諸国が神の声を聞いたことでまとまってできた『アラブ神国』の1億人とインドの2億人。

一瞬アメリカと単独で同盟を組んで問題を多く起こすことから同盟を解消された『南アメリカ連合』の1億人。

内部で争ってばかりでどことも同盟が組めない『アフリカ連合』の2億人。最後に小国家同士で連合を組んだり解消したり動きが激しい小国家群の7000万人。概ねこんな感じの連合同士で方舟のフィールドを取り合っているらしい。

どこがどのフィールドを手に入れたんだっけな? 確か以蔵に紙に書いてもらったんだった。でももうフィリピンに着くからまた後で確認すればいっか。


「コウ、あの光ってる門がそうじゃない? 」


「ああ、あれだな。どの国の門も同じ形なんだな。よしっ! 降下して門に入るぞ! 」


キュオォォン!

キュオォン!


俺はグリ子たちに門の前に降りるように指示した。

そのままグリ子には歩いて門を潜ってもらい資源フィールドに入り、グリ子を歩かせ山岳地帯前にある5つの門の所にやってきた。


「旦那さま……綺麗だな。こういうの神秘的っていうんだろ? 」


「そうだな、さすが創造神が造った物だよな。代々木公園から入った資源フィールドでは子供たちを鍛えるのに忙しくて遠目でしか見てなかったけど、近くでみると凄いよな」


セルシアが神秘的に光る門を見て回りながら女の子らしいことを言っている。ほんと変われば変わるもんだよな。戦闘時以外はほんと変わったよな。


「ダーリン、この薄い緑色に光ってる門だけ少し大きいわ。門の隣の石版には六芒星の記号が20個光ってるから中世界に繋がってるって事よね? 」


「ああ、薄い緑色の門は草原フィールドの門で小世界の30フィールドは全て攻略済みだから、次の中世界の門になったんだろう。隣の緑色に光っている門は小世界の森フィールドに繋がっていて、石版には8個の光っている六芒星と光っていない22個の六芒星があるだろ? これは攻略済みのフィールドが22個で、未攻略のフィールドが8個あるって事らしい。以蔵、そうだよな? 」


「はっ! その通りでございます。光っている六芒星は未攻略のフィールドの数となります。攻略すると一つ光が消えるようです。そしてその中世界の草原フィールドはその難易度から、現在どこの国も少数精鋭で攻略しているようです」


「だったら人の少ない中世界の草原フィールドがいいんじゃない? 」


「そうだね。俺たちの実力を証明するために来ているから、難易度が高い方がいいかもね。以蔵、草原は狼系と鬼系でいいのか? 」


フィールド系ダンジョンだと、草原は狼系や馬系にゴブリン系にたまにアント系とバラエティーに富んでるんだよな。方舟はどうなんだろ?


「はっ! 主に狼系と鬼系で黒鬼馬も現れます。飛行系は夜魔切鳥と黒死鳥が多いようです」


「黒死鳥がいるフィールドなら上級ダンジョンの中層レベルか……余裕だな。よしっ! それじゃあ中世界の草原の門に入るとするか。俺たちで攻略して世界中のマスコミにニュースのネタを提供してやろう! 」


「あははは、大騒ぎになりそうよね」


「ふふふ、コレよコレ! 勇者とエルフの大冒険! もう冒険者連合に戻るのやめようかしら」


「シルフィそれは困ります。シルフィが連合にいてくれるおかげで、光希は好きなことができるんですから」


「蘭はシル姉さんと昔みたいにもっと一緒に冒険したいです」


「夏海わかってるわよ、冗談よ冗談。コウの為なら頑張るわよ。でもそうね、またランちゃんと昔みたいに古代竜に突撃したいわね」


「ら、蘭はアレはトラウマなのでもう遠慮します……」


「あの時はランちゃん小さかったからよ。今ならイケるわ! この方舟にいないかしら? 」


「シルフィ……まだ小さかった蘭ちゃんを連れて古代竜に突撃したのね……」


「私たちにトラウマを植え付けた蘭ちゃんに、トラウマを植え付けるだなんてシルフィ恐ろしい子……」


「今頃気付いたのか? 蘭は俺にじゃなくてシルフィに似たんだよ。あの時の俺は古代竜相手に蘭を抱きかかえてシルフィの手を引いて必死に逃げることしかできなかったんだ。でもその時シルフィ大笑いしてたんだ」


「シルフィ……」


「シルフィ頭大丈夫? 」


「凛たら失礼ね! 大丈夫よ! あの時はコウが半べそかいて必死な顔してたから、それが面白くて笑っちゃっただけよ。 私だって怖かったんだから」


「え? ん? んん? 」


俺は古代竜から逃げ切った後に、あー面白かった! また来ましょうと言っていたシルフィを思い出してどこら辺が怖がっていたのか頭をひねっていた。


「光希がそこまで怖がっていた相手に突撃したのね……」


「決めたわ!フィールドではシルフィと蘭ちゃんから離れておくわ」


「凛ちゃん……蘭はシル姉さんほど無鉄砲じゃないです……」


「ランちゃんまで! 私は無鉄砲じゃないわよ! 好奇心が少し強いだけよ! 」


なんだか語れば語るほどドツボにハマっていってるな。凛と夏海はおろか近くで聞いていた紫音と桜もドン引きしてるよ。


蘭をあんなにしたのはやはりシルフィの影響だったんだ。俺の育て方は間違っていなかった。子供ができても普通に育てることができる。うん、自信がついた。


俺は青く光る海フィールドに繋がっている門をペタペタ触っているセルシアを呼び、わいわいと騒いでいる恋人たちを連れ門を潜るのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る