第7話 異世界人
ーー ワシントンD.C. ホワイトハウス アメリカ合衆国 第51代 大統領 ミッキー・ローランド ーー
「ニホンがドラゴンに襲われた? 」
「はい。ニホンのポリス数千名が焼き殺されたようです」
「なにを馬鹿なことを……ジョークでは無さそうだな」
「はい。ニホンのカスミガセキに滞在している外交官が直接見ておりますし、衛星にもドラゴンは映っておりました」
「衛星にか……方舟の魔物が外に出てきたのかもしれないな。今までそのような事は一度も無かったが、そうとしか考えられん……それで? そのドラゴンはナガタチョウやカスミガセキを焼いたのか? ニホンの軍はドラゴンを倒せたのか? 」
補佐官のジャンが朝からつまらないジョークを言ったと思ったらどうやら本当らしい。
ドラゴンが現れたなどと若い時に聞いたら大笑いして流していたが、方舟とその中にいる魔物の存在がこの話に信憑性を持たせていた。この落ち着きようから大阪の連合軍は無事のようだが、ドラゴンと言われてもどれほどの強さなのか想像がつかん。
「それがポリスを焼き殺した後は一切攻撃をせず、カスミガセキ上空を旋回してオオシマへ着陸したようです。ニホン軍の攻撃はバリアのような物で全て防がれ、傷一つ付けられなかったとの事です。さらにその背には複数の人影らしきものが確認されております」
「戦闘機や対空砲火の攻撃が一切効かなかっただと? そんなことが……いや、オークにすら銃火器は殆ど通用しなかった……ドラゴンともなればあり得るか……それに人影らしきものとは何者なんだ? 」
「そこまではまだわかりません。ニホンも混乱しておりますし、現在我々は制裁発動中ですのでニホンも警戒して情報をなかなか渡しません」
「チッ、ジャップめ。選択肢など無いのに無駄な抵抗を……南朝鮮といい東洋人のせいで我らは二方面の戦争をしなければならなくなった。そのうえ助けた南朝鮮は敵の中華国にベッタリだ。なんだあの民族は! 恩も恥も知らないのか! これだから色付きなんかに関わっては駄目なんだ! 」
「大統領。悪い癖が出てますよ。ニホンと南朝鮮はその思考も能力も方向性が大きく違います。ニホンの技術力と能力は認めるべきです。そう言った大統領の姿勢がニホンの抵抗を招いているのですよ? 」
「……ああそうだったな。悪かった。ニホンだけはまともだな。あの技術力と発想力は確かに優れている。だから我々が保護しようと言うのだ。我々がいなければあの国はとっくに中露に占領されていた。カナダのように小国は大国の属国になるしか生き残る道は無い事に気付かせてやらねばならん」
前政権まではニホンと仲良く協調してやってきたようだが、それではいつまで経っても2億ものアメリカ国民を飢えから救う事などできはしない。色付きだがニホンは使える。我々が保護しその技術力を有効活用してやらねばならない。そうすれば方舟の攻略も加速するだろう。期限は刻々と迫ってきているのだ。もう今までのような仲良しこよしでやっていてはいつまで経っても方舟を攻略する事などできはしない。
「正直に申し上げますと、これまで協力してきたニホンを追い詰めるような今のやり方は賛同できかねます。しかしこのままでは期限が来てしまい、いつまで経っても我が国の国民を救う事はできません。ニホンを吸収し国力を増せば、方舟を完全攻略する事も可能となるはずです。そしてこの神の試練を乗り越えたあかつきには、我が合衆国が神に選ばれた存在となれましょう」
「そうだ。あの時、神は我々に語りかけてくださった。我々の力と勇気を示し種を残せと……我々は選ばれたのだ。その我々が方舟のあの豊かな土地を手に入れるのは当然の事だ。今は中露の妨害で神の試練をなかなか乗り越えられないでいるが、ニホンを手中に収めれば必ずや乗り越えられることができるはずだ。それをドラゴンなどに邪魔される訳にはいかない。万が一の時の為にニホンの技術者達を方舟へ移住させるよう話してみてくれ 」
「はい。しかしニホンも我々を警戒しております。望みは薄いと思います」
「そうだったな、制裁前に移すべきだったな……やむを得まい。技術者の居所は把握しているのだろう? ドラゴンがニホンを攻撃した際は保護できるように準備をしておいてくれ。技術者と若いニホン人だけいればなんとかなる」
「はっ! ご命令通り実施いたします」
ニホンめ手間を掛けさせおって……我がアメリカが方舟の支配者となり繁栄していく為にはあの国の技術力は不可欠だ。あの刀鍛冶が作る武器は強力だ。普通の鉄の剣では中世界は厳しかった。
あのニホンの鍛治技術とポーション製造技術が無ければ、ここから先方舟を攻略するのは不可能だろう。もう少しだ、ニホンは連合の助けが無ければ生き残れない。ニホンを追い詰める事に国民の反対は多いが、国民はタイムリミットの事など知らないからな。どうせあの技術が我らのものとなり攻略が進めば反対している者などすぐに態度が変わる。豊かな土地に住めれば皆が私を称賛するだろう。
そう、もう少し……もう少しだ。
ーー 永田町 内閣府 緊急対策本部 内閣総理大臣
「それで分析の結果はどうだったんだ? 」
「はい。鑑定魔法と科学的な分析の結果、非常に高度な技術で作られている携帯電話だと判明致しました。現在の技術では材料の確保の面と、それを加工する設備が無い事から再現は不可能と思われます。また、少量の魔物の素材と思われる物につきましては、その強度や魔力浸透度から中世界の魔物よりも遥かに強力な魔物の物と思われます。そして銀色の鉱物と思われる物ですが、これは鑑定魔法によりミスリルという金属である事が判明いたしました。このミスリルは黒鉄よりも遥かに魔力を通しやすく、そしてとても軽い金属だという事でした。最後にDVDにつきましては、教材のように見えますが内容が内容ですのでなんとも申し上げられません」
「それは俺も見た。確かに世界中にダンジョンが現れ、魔物によって多くの国が滅ぼされたなどとはにわかには信じられん。が、方舟の存在があるからな、フィクション映画だと思えないのも確かだ。しかしそのミスリルという金属は黒鉄よりも魔力を通すのか……それに現代の技術では再現ができない携帯電話……そしてドラゴン……」
俺は2日前に現れた自称異世界人達が、特警隊員と争った現場に残した物の分析結果を内閣調査室の室長から聞き、陛下がお受けになった御宣託を思い出していた。確か、こことは異なる世界から日本を救うために天照大神様が強者を遣わしてくれたという内容だったな。
初めて聞いた時は日本にだけそんな都合の良い存在が現れるはずがないと、これは陛下が国民を慰めるためにおっしゃられた事なのだろうと思っていたが、事ここに至っては本当だったのかもしれんな。
しかし事件の詳細は調査中だが、特警隊員を千人単位で殺害した彼らを敵視する者は多い。
「総理! 奴らは私たち特別警察の警官を二千人近く殺害した大量殺人犯です! 至急軍を大島へ進軍させてください! このまま放置などして、治安を守る為に勇敢に戦い殉職した部下の家族になんと言うおつもりですか! 」
「それはそうだが、足利陸軍大将。あのドラゴンに勝てると思うか? 」
「はっ! ドラゴンにはあらゆる兵器も魔法も通用いたしませんでした。誠に遺憾ながら現状の我々の戦力では例え1万人で攻め込んでも全滅するでしょう」
「だそうだ警察庁長官の日下君。君は火山が噴火したから消防車をかき集めて噴火を止めてくれと言ってるんだよ。部下を大量に失って辛いのは分かるが、二次災害を起こすわけにはいかない。それにだ、調査室の者に現地住民に聞き取りをさせてみたが、どうやら彼らの言っていたように15歳以下の子供の配給を団体が横領していたのは間違い無いそうじゃないか」
「う……そ、その件は現在千田警部が入院中でして……その……現在事実確認をその……」
「……防衛長官、君の直轄の陸軍警務隊は国民からの苦情を受けて無かったのか? 」
「は、はい……警務隊長の報告では一切そのような苦情は無かったとの事です」
「一切無かっただと? 新宿の多くの住民は特警と警務隊に苦情を申し立てたと言っているぞ? それを一切無いとはおかしいだろ! 警務隊長を更迭してマトモな奴に特警を調査させろ! 今すぐやれ! 」
「は、はっ! 」
「わ、我々は関与していません! 調査など不要です! 我々は常に公平に国民に接しております! 」
「じゃあなぜ今朝から議事堂前に市民のデモ隊がいるんだ? 大阪も四国もデモが起きているのはなぜなんだ? どこも特警の横暴を許すなと言ってるぞ? 日下君、本当にやましい事が無いのなら堂々としていればいい。違うか? この件に関しては警務隊とこちらで対処する。君は黙って調査を受け入れろ。わかったな? 」
「あ、そ、それは……はい」
新聞とラジオで今回の件を知った市民が今朝からデモを起こしている。恐らく今まで特警が恐ろしくてできなかったのだろう、しかし今回2000名もの実働部隊が特警からいなくなった。これをチャンスと見て決起したのかもしれんな。
そしてどうもこの日下と警務隊長は怪しい。配給品横領など重罪だ。しかも子供の配給品を横領したなどこのご時世じゃ極刑ものだ。それだけこの国はギリギリの状態で、この20年間国民全員が力を合わせて命を繋ぎ耐え忍んできたんだ。
戦後方舟が現れ食糧を得る為にフィールドで魔物を倒し、なぜか身体能力が上がり魔力という物を感じ取れるようになった。それからは少ない食糧に民心は荒れ、強盗や殺人に婦女暴行と犯罪が絶えなかった。やむを得ず警察に強権を与え治安は良くなったが、奴らは法の番人を気取り始めた。今回の件も自治体とグルになって横領していたとしても俺は驚かない。だからそういう時の為に特警を取り締まる存在として、防衛大臣直轄の陸軍警務隊を用意したんだ。しかしその警務隊までグルだったとしたら……これは大火事になるな。
今回は死傷者が大量に出た事もあり、またドラゴンが現れた場所でもあるから俺が内閣の調査員を派遣して当時の様子を調べさせたから色々と知ることができた。報告を聞いた時はどう考えても団体と特警に原因があるとしか思えなかった。そして日下警察庁長官の態度と警務隊長の報告で更に怪しくなった。もし特警と自治体、更に警務隊までグルになって国民から搾取していたとして、更に冤罪でドラゴンに軍を送って全滅でもしたら内閣総辞職ものだ。方舟の期限が近く、アメリカから脅迫を受けているこの時期に政争などしている暇はない。
いずれにしろこれだけあちこちでデモが起きているのだ、徹底的に調べなければ国民は納得しないだろう。
「調査室長、それであの戦闘機に手を振ってた者たちの写真は手に入ったのか? 」
「はい。現地におりました
そう言って室長はこの会議室にいる全員に写真を配布した。
「こ、コイツら……」
「これは! 門!? いや、しかし形が少し違うような……それにしても5列に並んで記念撮影ですか……」
「この天使の姿をした女性たちは角がありますな。天使なのか悪魔なのか…… 」
「確かに議事堂の前を通過したドラゴンですね。これはダークエルフという種族ですかね? しかしなぜ忍者のような格好を……」
俺はドラゴンの上でまるで修学旅行で来た学生たちのように整列し、満面の笑みで写真に写っているこの自称異世界人を見て顔が引き攣っていた。
「大量に人を殺した後とは思えんな。相当慣れているように思える。軍を大島に派遣なぞしたらドラゴンに乗って笑いながら皆殺しにしそうだな」
「はい。記者が言うには全員全くの無傷だったようです。この中央の男性が放つ雷の魔法のたった一撃で2000名近くの警官が命を絶たれたそうです」
「なっ!? アレはドラゴンの仕業では無く人間の仕業だったのか!? しかも一撃で2000人をだと!? 雷の魔法? そんなもの聞いたことがないぞ! 」
「はい。私も聞いたことがありません。しかし現場の遺体を調べたところ落雷にあったとしか思えないとの事です。それも強力な落雷を何度も身体に受けたと思われるほどの損傷具合だったそうです」
「そんな魔法があるのか……もしも方舟に同じ魔法書があってそれを他国が手に入れでもしたら……」
そんな魔法があるのか? いや、現に使える者がいるんだ。あるのだろう……そんな魔法を使われたら我が軍は全滅するしかないじゃないか。
「中露は躊躇いなく使ってくるでしょうな」
「南朝鮮など先陣を切って嬉々として乗り込んでくるでしょうね」
「総理。彼らは公園を飛び立つ際に天照大神様によって日本を救う為に呼ばれたと、助けて欲しいのであれば大島に来いと言ったそうです。そしてもしも軍を派遣するのであれば殲滅した後に二度と日本を助けないとも。門を出現させる能力といい、やはり彼らは陛下のおっしゃっていた異世界人なのだと私は思います」
「室長……俺もそう思うが我々は彼らに危害を加えようとした。先ずは今回の件をしっかり調査してからでないと、会いに行ったとしても追い返されるだけだろう。それに国民も納得はしまい。警務隊を動かしてはいるがどうも信用できん。すまんが調査室で徹底的に調べてもらえるか? 軍を使って構わない」
「はい。私どもでも動きます。軍は後方支援の者たちをお借りいたします」
「構わん使ってくれ。防衛大臣には俺から言っておく。俺はラジオ放送で今回の件は政府主導で徹底的に調べ、不正を行っていた者がいれば厳しい罰則を科すと国民に説明しておく」
現代より進んだ技術で作られた携帯電話に見たこともない金属。そしてドラゴンを使役しファンタジー世界の住人としか思えない者たち……やはり彼らが異世界人の可能性は高い。
ここは彼らの言い分が正しいと仮定して調査をしなければ、会ったとしても追い返されるだろう。
デモ隊の主張と、新宿の住人の話を聞く限りでは彼らが嘘やでまかせを言ってるとは思えんしな。ここは内部の膿を取り除いてからでないと、彼らが本当に日本を救いに来た者たちだった時に信頼を得ることができなくなる。
あれほど強力な戦闘力を持つ者がもしも味方になってくれるのなら……もう連合に苦しめられることも、方舟の期限に怯えることもきっと無くなるはずだ。
米国共め! 日本に逃げ場も選択肢もないことを知っていながら無理難題を言いやがって!要求を呑めば米国と欧州の奴隷、呑まなければ期限が来て飢え死にか中露の奴隷。この詰んだ状態から救ってもらえるなら彼らが悪魔でもなんでもいい。俺の魂が必要ならくれてやる! だからこの日本を国民を! そして民を思い食べるものを減らし日々痩せ細っていく陛下をどうか助けてくれ!
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