第6話 宣伝






「おーおー! うじゃうじゃと来たな。どこからこんなに湧いて出たんだ? 」


「お屋形様。恐らくは門を通って関西や四国から集めたのではないかと」


「あーなるほど。燃料が少ない分そうやって流通を維持しているのか。言われてみれば資源フィールド内はやたらトラックが門を出入りしていたな」


「二千人くらいはいそうね。私達と倒れている特警の姿を見て困惑しているようだけど」


「誰かを待ってるっぽいわね。お偉いさんが来るのかしら? 」


「誰が来てもいまさら特警は引けないだろう。治安を守る者のメンツってやつだ」


俺達の周囲には多くの特警車両と特警隊員が盾や剣を構えてこちらの様子を伺っている。公園の中央には俺達と戦った300人程の隊員が倒れている。まだ息がある者がいるというのにお偉いさん待ちか? 結構薄情なんだな。腕と足を俺に切られた団体会長と警部は真っ先に治療されてるのに、末端の人間てのはどこの組織でも哀れなもんだ。


「弱者を虐げておいて治安を守るとか笑っちゃうわよね」


「凛の言う通りよ。子供を魔物と戦わせるよう追い込むなんて人間のする事じゃ無いわ」


「コイツら弱っちいクセに数ばかり集めるよな〜300人で駄目だったから2000人なら勝てるとか思ってんのかな? 」


「セルシア、大きな組織で強い権力を持つ者ほど負けを認めないものさ。中にはまともな人間もいるんだろうが、そんな事を言ってたら戦えないしな。それよりもお偉いさんが来たようだ」


俺達が固まりつつものんびり話していると公園の入口で動きがあり、制服を着たみるからに偉そうな50代くらいの男が護衛を引き連れ警部の所へやって来た。

鑑定をしてみると20人ほどの護衛は全員Bランクで、その中には魔法使いが5人も含まれていた。中級魔法は一人しか使えないようだけどね。やっぱり中級魔法書は軍が優先なんだろうな。


「西新宿公園立てこもり犯に告ぐ! 私は首都圏特別警察の正木 誠警視正だ。君達は完全に包囲されている。我々は軍にも応援を要請した。無駄な抵抗はやめて大人しく投降しなさい。抵抗をするのであればこの国の治安を守る者として全力で排除する」


「シルフィ」


「ええ……シルフ、コウの声をこの新宿全域に届けて」



「俺の名は佐藤光希。こことは違う世界から来た異世界人だ。俺たちはそこの新宿協同団体により配給を搾取され、10歳の子供が資源フィールドで食糧を求めて戦うのを見ていられずここで自主的な配給を行なっていた。その際団体会長を名乗るそこの権田とかいう奴に襲われ、物資を奪われそうになったので抵抗した。そしてその後に来たそこの警部に状況を説明したが、一方的に団体の肩を持ち更に窃盗団だと濡れ衣を着せた上に俺たちを殺そうとしたのでやむを得ず戦う羽目になった。これは正当防衛だ」


「正当防衛? フッ……経緯はどうあれこの国の秩序を守る特別警察の警官を君達は殺めた。武装を解除し投降すればその正当防衛とかいう妄言の話くらいは聞こう。異世界人かどうかもその時に聞いてあげよう。このままでは君達はここで死ぬことになる」


普通ならここは投稿して弁護士立ち会いのもと事情聴取って流れなんだけど、絶対そんな事にならないよな。しかもその鼻で笑った顔! 絶対正当防衛とか異世界人とか信用してないよな!


「断る! 投降しても身の安全が保証されそうもないからな。俺にはここにいる者達を守る義務がある。そしてここにいる特警隊員達よ聞け! 治安を守るべきお前達の仲間が自治体と組み、子供達の食糧を奪い魔物と戦わせている!まだ10歳の子供が食糧を得る為に、手作りの槍一つで狼の群れと戦わざるを得ない所まで追い込まれている。お前達には子供はいないのか? 自分達の子供を魔物と戦わせられるのか? まだ警察官としての矜持がある者はそこから動くな! そこより前に出た者は全員死ぬ事になる。俺は子供を死に追いやるような社会は決して許さない! 子供は国の未来だ! その子供を虐げるこの国はいずれ滅ぶ! だったら俺が滅ぼしてやる! 」


俺がそう言うと包囲していた隊員が騒ついた。命令されてなにも知らされずここに来た者も多いんだろう。

何人踏みとどまってくれるか……


「語るに落ちたな。君達の目的は国家転覆。作り話で子供を使っているようだがそんな事に惑わされる我々ではない。国家転覆を企む者よ、我々の正義の裁きを受けるといい。総員抜刀! 生死は問わない! 殲滅せよ! 」


「「「ハッ! 」」」


「警告はしたぞ? リム!以蔵!軍がこっちに向かって来ている。一瞬で終わらせるから手を出すな! 」


「「「ハッ! 」」」


「「「はっ! 」」」


「魔法隊攻撃開始! 総員かかれ! 」



《 炎弾 》 《 水刃 》 《土弾 》 《風刃 》


『女神の護り』


パシーン パシーン パシーン


『プレッシャー』





『轟雷』


ドンッ!




「…………ばか……な……」


「思いとどまったのは100人程度か……公務員って辛いよな」


俺は一歩前に出た魔法隊が放った数十の魔法を広範囲に展開した結界で弾いた。その後にこちらへと向かって来る者重力魔法を放った。5G程の重力が下向きに掛かり、俺たちへと向かって来ていた隊員は一人残らず地面に張り付いた。そこに轟雷が降り注ぎ隊員達に雷が連続して降り注いだ。そのオーバーキルとも言える強力な雷に打たれた隊員達は、例外なく黒焦げとなりその身を崩壊させていった。


「か、雷? な、なん……に、2000人はいた……それがたった一撃の……魔法で……そんな……こんな……」


「お前が殺させたんだ。自分だけ無傷でいられるなんて思わないよな? 」


「ひっ! ま、守りなさい! 私を早く! 魔法使いは撃て! 撃てー! 」


「け、警視正! わ、私も! 」


「け、警部! そんな! 私も一緒に! 」


「は、ハッ! ア、『アースウォール』 」


「 え、『炎弾』 」


「 す、す、『水刃』 」


「なんだその魔力のこもってない魔法は……『雷矢』 」


正木とかいうお偉いさんは目にした光景が信じられないようで、腰を抜かしてその場に座り込んでいた。慌てて護衛の者に指示をしているが、護衛はビビリまくっているからか中途半端な魔法を発動していた。

俺は向かって来る魔法を全てレジストし、雷矢を30本頭上に発動しその内5本を土壁へと放ち粉砕した。そして固まって震えている警部と警視正の両肩へ突き刺し、残りを20人の護衛達とデブの会長の首へと放ち絶命させた。デブにはもう用が無いからな。


「あがああああ! 」


「がああああ! 」


俺の放った雷矢に両肩を貫かれた二人は、叫び声をあげた後にあまりの激痛に失禁して気を失った。


そろそろ潮時だな。


「軍の大部隊がこっちに向かっている! 撤収するぞ! 俺たちの世界だとわかる物資を少し置いて残りは回収する! 」


「「「ハッ! 」」」


「「「はっ! 撤収! 」」」


「なるほどね〜この世界で今では余裕が無くて作れないような物を置いていけばいいのね。何がいいかしら?」


「そうですね……凛お妃様ミラの最新ゲーム機などいかがでしょうか? 」


「ええー!? リム姉さんそれはダメだよー! まだクリアしてないんだよぅ」


「あはは。ゲーム機は確かに有効だけど、スマホとかでいいんじゃない? そういう物の方が伝わりやすいわよ」


「ふむ……そうですね凛お妃様の仰る通りかもしれません」


「凛お妃様ありがとう! 流石ゲーム仲間だよね! 」


「ははは、ミラ必死な顔していたな。スマホは俺の生まれた世界で普及したのは10年ちょっと前くらいからだし、俺たちの住む世界でも3年前からだから有効かもな。他にまだこの世界の人間では辿り着けていないフィールドにいそうな魔獣の素材を置いていくか。適当なAランク魔獣の素材セットとミスリルでも置いていくよ」


リムにゲーム機を取られそうになって涙目のミラを見ながら俺は物資を回収しつつ、未使用のスマホと充電器に少量のAランク魔獣の素材セットやミスリルの他に元の世界の近代歴史のDVDセットも置いていくことにした。DVDは1999年以前に高価だが普及してたみたいだから大丈夫だろう。軍がまともなら分析する筈だ。


「そろそろ包囲されるな。流石に軍は動きが違うな。遠くから隙間なく包囲しようとしている。さて、ゆっくり戻るとするか 『ゲート』 」


「え?ダーリンここでゲート開くの!? さっきから新聞記者っぽい人が写真撮りまくってるわよ? 空間魔法見られてもいいの? 」


「別にいいさ、俺たちはこの世界に永住する訳でもないしな。クオン! 来い! 」


俺は探知で軍の展開を見ながらゲートを埠頭へと繋ぎ待機していたクオンを呼んだ。

呼ばれたクオンはのっそりと頭をゲートに突っ込ませて現れた。


「蘭! クオンの幻術を解いてくれ! 」


「はい! クオンちゃんのお披露目ですよ〜! 」


クォォォォン!


《 りゅ、竜だ! 》


《 ど、ドラゴン!? で、でかい……》


《 ひやっ! ヒッ! と、特ダネ……ヒッ! 》


生き残っていた隊員達は突然現れた巨大な門に驚き、その門から現れた全長50mほどもある竜に腰を抜かしながら後ずさっていった。新聞記者らしき女性は腰を抜かしてもカメラから手を離さず、シャッターを押し続けていた。なかなか根性あるなあの女性。


「よしっ! みんな乗れ! 東京を遊覧飛行しながら帰るぞ! 」


「あははは! いいわね! この世界にクオンの魔法障壁を破れる兵器なんて無いしね。帰りましょう」


「やっぱりプランBは有効だわ。これで私達がこの世界の人間じゃない事は伝わるわね」


「ふふっ、光魔王軍のお披露目だな」


「リム姉さん楽しそうだね……」


「リム姉さんは小さい時から魔王様のお伽話が好きでしたからね」


「よしっ!乗ったな! クオン! 先ずはこの公園の外側に展開している軍の上空を旋回しろ! 皆はあの根性あるカメラマンに笑顔で手を振れ! 明日の新聞の一面を飾れるぞ! 」


リムがなんだか楽しげにしているけど、何となく理由がわかるからそっとしておこう。俺は皆に記念撮影のように笑顔でカメラマンに向かって手を振るように言った。


「やだ、髪乱れてる! ちょっと待ってて記者さん! 」


「凛? もう遅いわよ。さっきからシャッター押しまくってるわよあの人 」


「待って! その写真は採用しないで! 今直すから! 」


「凛ちゃん諦めなさいもう飛ぶわよ」


「大丈夫だ、凛は可愛いよ。ほら笑顔で手を振って! 」


「あーもうっ! 変な顔の写真採用したら承知しないからね! 」


クォォォォン!


記念撮影が終わった俺たちは、シャッターを押しながら引き攣った顔をしているカメラマンの女性を後にクオンを飛び立たせた。そして公園周辺に装甲車やらトラックを展開している軍の上空をゆっくり旋回した。そこでシルフィにまた広域に俺の声を届くようにしてもらい、俺たちが何者なのか何故こんなことになったのかを説明した。そして大島にいるから救って欲しいなら頼みに来いと伝え、もしも軍を差し向け排除しようとするのならその軍を壊滅させもうこの国は救わないと伝えた。

俺の話を聞いた軍人達は警戒をしながらも攻撃をしてくる事は無かった。この巨大な竜には敵わない事がすぐわかったのだろう。


そしてその後、俺たちは北上した。するとすぐに戦闘機がやってきて攻撃をしてきた。たった三機だったけど戦闘機を飛ばせるんだなと驚いたよ。通常弾じゃクオンの魔法障壁に傷すらつけられなかったけどね。俺達はパイロットに笑顔で手を振ってゆっくり北上した。

その後もヘリが来て魔法を放ってきたりとなんとか霞ヶ関に来させないように牽制して来たが、これを全て無視し地上からの対空砲火も無視した。ミサイルはそんなに無さそうだな。なけなしの弾薬使わせて悪いことしちゃったな。

流石に皇居の上空を飛ぶのは不敬だと思い、俺達は国会議事堂を低空で通過した後に大島へと向かった。

議事堂付近を通過した時にやたら厳重に警戒している建物があったけどアレは何だったんだろう?



さて、後は政府の出方を待つだけだな。軍が押し寄せてくるなら殲滅し、俺達で方舟を攻略して国民と陛下を移住させればいい。連合なんか無視だ。そして残りの期間を方舟での治安維持にあて、新しい組織を作ればいいだけだ。それならアマテラス様も合格にしてくれる筈だ。


俺は取り敢えず今後の方針を決め、早く帰って恋人達とお風呂に入る事を楽しみにしていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る