第5話 諸悪の根源







「はいはいそこの人! 割り込んだから一番最後尾ね! 嫌ならあげないよ! 」


「食糧は全員に行き渡る量があるのでちゃんと並んでぐださーい! 」


「貴方はさっきも来ましたね。私達は記憶力がいいんです。誤魔化せませんよ? 」


「子供達はこっちにご飯と甘〜いお菓子とジュースがあるから集まって〜! 」




「シルフィもう一回シルフを使って新宿エリア全体に案内を頼む」


「ええ、わかったわ」



『新宿にお住いの皆さん。現在西新宿公園にて特別配給を行なっております。小さなお子さんには炊き出しとお菓子の配布もしておりますので、お誘い合わせの上お越しください。尚、この配給は私達Light mareの提供にて実施しております』


昨日資源フィールドで孤児の子供達を鍛えた俺達は、そのまま子供達が暮らす施設へと付いて行き留守番をしていた小さな子達にも料理を振る舞った。そしてその後に上海ダンジョンで手に入れた兵士用の大型魔導テントを出して子供達を入れ、お風呂を堪能してもらった。

子供達は初めて入るお風呂におっかなびっくりで、蘭達やサキュバスにダークエルフ総出でお風呂の入り方を教えて身体を綺麗にした。そして用意してあった子供用の新品の下着と服に着替えさせた。子供達は皆はしゃいで楽しそうにしていて、風呂上がりのいちごジュースに頬を綻ばせていた。そして散々はしゃいで疲れたのか皆が笑顔で眠りについた。


その後泣いて感謝の言葉を並べる施設長の老夫婦と色々と話をした。

この施設は元は保育園の建物のようで、ここ新宿にはこのような孤児院が複数あるのらしい。しかしどの施設も運営は町で行なっているようで、国からの配給を多くもらい搾取する為に作ったとしか思えないほど子供達は飢えているとの事だった。これまでは施設を出た子供達が資源フィールドで稼いだ食糧を分けてくれたりなどでどこもギリギリ運営できていたが、今回の10歳以上の子供への配給停止で完全に詰んでしまっていたそうだ。

既に他の施設の子供で資源フィールドに行き亡くなった子供もいると聞き、施設長達はとても心配していたそうだ。その話を聞いた俺達はこの自治体にケンカを売る事にした。


そして翌日の早朝。俺は拠点から残りのダークエルフを呼び西新宿にある大きな公園に大量の物資を積み上げ、テーブルを並べてダークエルフとサキュバス達を配置した。ダークエルフ達を全員呼んだ事で拠点の守りが薄くなるけど、今日は資源フィールドにいる訳でも無いし何かあれば連絡が来るから大丈夫だろう。

そしてシルフィの精霊魔法で広範囲に放送をしてもらったところ、多くの人が押し掛けてきた。

俺達は一人ずつに二ヶ月は食うに困らない程の物資を与えた。食糧に衣服に石鹸だ。子供連れには少し離れた場所で行なっている炊き出しへ誘導して、家族で食事をしてもらっている。


中にはズルをして何度も物資を受け取ろうとする者もいるが、そこはサキュバスの記憶能力頼みである程度は防げている。しばらくすれば町の住人以外も来るだろうけど、別に物資は大量にあるからそんなのは誤差だ。ここにはどうせ長居できないだろうしね。

そんな風に思っていると今日は発動しっぱなしにしている探知に集団の反応があった。

思ったより来るの遅かったのは人を集めてたからか。



「おいっ! お前達何をやっている! 勝手な事をするな! 」


「そうだ! お前は誰の許可を得てこんな事をしてるんだ! 」


「何ってボランティアだが? 飢えている人に俺たちが稼いだ物資を配って何が悪いんだ? 」


俺たちか物資を配っていると、頭の禿げた太った男が取り巻きらしき者と100人程の武装した連中を連れ怒鳴りながら歩いて来た。それを見た住人は物資を受け取り急いでここから離れて行った。


「ここは我々新宿協力団体が国に許可を得て任されている土地だ。そういう事は我々がやる。物資を置いてここから出て行ってもらおうか 」


「食糧で住人を手懐けて何か企んでるんじゃないだろうな? 」


「これは俺たちの所有物だ。なんでお前に渡さなきゃなんねえんだ? 出て行けと言うなら撤収して隣の町に行く事にする」


「我々の土地で勝手な事をやったんだ。その物資は迷惑料としてもらってやる。我々から住人に公平に分配するからお前達はここから出て行け」


「はあ? ちょっとそこの禿げ! あんた何言ってんのよ! 頭おかしいんじゃない? 」


「正直に物資が欲しいのでくださいって頭を下げたらどうなの? 」


「そうです。貴方のやってる事は恐喝ですよ? 」


「なんだと! 俺を誰だと思ってる! この新宿協力団体会長の権田ごんだだぞ! 甥が社会党の議員でもある俺に暴言を吐くとは世間知らずにも程がある! そこの女どもは侮辱罪で訴えてやるから置いて行け! 」


「そうだ! きっちり俺達で教育してやるよ。くひっ」


「すげーいい女! 今日はラッキーだな! 」


「へえ……断ると言ったら? 」


「町の治安を乱す者は自警団で対処する事になっている。抵抗してもいいが、我々は特警のバックアップを受けている事を忘れるなよ? 」


「治安……治安ね……俺達は飢えている人に善意で食糧を配っていただけだ。それが違法だと言うのなら、子供から食糧を巻き上げてるお前のやってる事はなんだ? このご時世にその肥え太った醜い脂肪は誰の犠牲で付けた物なんだ? 」


「うるさい! 黙れ! 団体で決めた事だ! 住人はそれに従う義務がある! おいっ! 構わん! この無礼な奴を痛めつけて追い出せ! 女は捕らえろ。力ある者に逆らう無知な女は教育が必要だ」


「はい! 俺達にも味見させてくださいよ! よしっ!お前ら殺すと後が面倒だから腕の一本や二本へし折ってやれ! 女は捕らえろ! 」


「以蔵! 腕の一本や二本を折られる覚悟があるらしい。望み通りにしてやれ。『プレッシャー』」


俺は会長を名乗るデブの号令で腰に差している剣を鞘ごと抜き、こちらに走って来た80名ほどにプレッシャーを掛け動きを封じ、以蔵達に対応するように指示をした。


「「「はっ! 」」」


《ぐっ……な、なんだ……ぎゃあああ! 》


《か、身体が……ぎゃっ! 》


《ま、まほう……ぎゃああ! 》


以蔵達ダークエルフは俺の魔法で身動きが取れない男達に一斉に飛び掛かり、その腕を取り肘関節に膝を当てテコの原理で次々と折っていった。


「なっ!? な……な……」


「ま、魔法……」


「Dランクなんてこんなもんだな。これだけの物資を用意できる俺達を舐め過ぎじゃないか? 特警や議員の名前を出せば抵抗されないとでも思ってたのか? 」


「お、おまえ…… 自分が何をやったかわかっているのか! 治安を守る自警団に手を出してただで済むと思っているのか!! 」


「お前は人を痛めつけていいが俺は駄目なのか? 意味がわからん。正当防衛って言葉知ってるか?」


「うるさい黙れ! お前はもう終わりだ! おいっ!緊急無線で特警を呼んでこい! 敵は手練れで魔法を使うと伝えておけっ! 」


「は、はいっ! 」


「リム! 住人達を避難させろ!」


「ハッ! 」


やっと特警を呼んだか……俺は元々特警が目的だった。全ては特警が国民を守る義務を放棄したのが原因だ。特警がマトモならこんな奴らがのさばる事も、子供が魔物に殺される事も無かった。役に立たない組織なんかいらないよね。


「凛に夏海。ここはもう日本じゃない。秩序が崩壊している。徹底的にやる」


「わかったわ! 私も頭にきてるのよ。こんな奴らのせいで子供達が死ぬなんて間違ってる! 」


「悪は滅ぼさねばなりません。私は光希にどこまでも付いていきます」


「皇室だけ残せばアマテラス様もなんとか許してくれるだろう。それでもせめて軍はもう少しマトモだといいんだけどな。こんな奴らをのさばらせてるんじゃ期待薄かな」


戦争が人を変え、食べるものが無くなった事で悪が生まれる。異世界も現代も人の本質は何も変わらない。秩序だなんだってのは衣食住が足りている上じゃないと成り立たないんだよな。



ウーウーウー

ウーウーウー


俺が痛みにのたうち回る自警団の連中を見ていると、あちらこちらからサイレンを鳴らした護送車がやって来て公園を包囲するように止まった。そしてそこからゾロゾロと機動隊の紺の制服に革鎧を身にまとい、腰から剣を差している者達が降りて来た。

300人くらいか……まだ少ないな。


「ハンターの集団が暴れているのはここか!」


「千田警部! ご苦労様です。権田です。あの者達が何処からか盗んできた大量の物資を住人に勝手に配っておりまして……私達は毒でも混入していては大変だと注意をしたところ、いきなり襲い掛かって来て自警団の者があの通り……」


「なんと!? とんでもない奴らだな! おいっ! 貴様! 傷害と盗難の容疑で逮捕する! 大人しく両手を挙げ跪け! 抵抗をすれば我々は治安維持の為に貴様達を処分する権限を持っている! 」


「何処かで聞いたセリフだな……シルフィ、声を広域に届けてくれ」


俺はデブと話しているガタイの良い千田とかいう指揮官らしき奴が、資源省の一件でいた警部と重なった。

俺達の物資を見て驚いた後にニヤつき、俺の恋人達やサキュバスを見て嬉しそうな顔をしている分こっちの方がゲスいか。


「わかったわ。シルフお願い」


「俺達は自分達で用意した物資をそのデブの団体に搾取されている人達にボランティアで配布していただけだ。それを強引に奪い取ろうと襲い掛かって来たから正当防衛で対応した。それを一方的に俺達を逮捕とかおかしくないか? 」


「まだこんな世間知らずの馬鹿がいるのか……貴様は20年前からタイムスリップでもして来たのか? 正当防衛? 一方的? 戦後この荒れ果てた日本でそんな事を気にしていたら秩序など守れるはずが無いだろう! 裁判? そんな物はある程度の地位を持った者の特権だ! 今の日本にそんな余裕は無い! 犯罪を犯せば方舟で資源狩りの日々を送るたけだ! そうやってこの日本の秩序を守って来たのは我々特別警察だ! 」


なるほどね〜方舟で力を付けた犯罪者の数に対して警察の数が足らないから、強硬手段をもって恐怖にて統治していたのか。自治体と組んでなきゃ納得する所なんだけどな。公平中立では無く明らかに悪人に肩入れしてちゃ説得力無いよな。


「へえ……一般人は裁判受けられないのか。で? そこのデブの団体は10歳から15歳の子供に与えられる国の配給を横領しているんだが? 明らかに法を犯しているのは見て見ぬ振りか? 」


「そんな事実は確認されていない! この場を逃れる為にデタラメを言うな! 貴様は罪も無い一般人に集団で暴行を行なった! そしてその物資だ! その大量の米など明らかに軍倉庫から盗んでくる以外手に入るはずがない! よって貴様達はネズミ小僧を気取った窃盗団だ!総員この窃盗団を捕らえろ! 抵抗するなら女以外処分して構わん! やれ! 」


ま、こんなもんかな。俺の言い分を聞いて誰一人躊躇わないとか腐り過ぎじゃないか?

まあこの人数なら大丈夫そうだな。


「以蔵! リム! せいぜいCランク程度だ。殺してもいい思いっきりやれ! 」


「「「ハッ! 」」」


「「「はっ! 」」」


「蘭! ダークエルフ達の幻術を解け! 宣伝するぞ! セルシア! 飛んでいいから好きに戦え! 」


「はい! 」


「わかったよ旦那さま! クズと組んで子供を殺した罪は重いんだ! 思い知らせてやる! 」


俺が指示をするとサキュバスは幻術を解き光魔の姿になり空を飛び、ダークエルフは真の姿をさらけ出しクナイを手に四方から俺達に向かって来る特警隊員へと襲い掛かった。セルシアは昨夜子供達と同レベルで遊んだせいかめっきり子供好きになり、その分怒りが強いようで半竜化して真っ先に特警隊員を血祭りに上げていた。いきなり首チョンパとか容赦ねーな。


《ひっ! コイツら抵抗するぞ! 殺せ! 特警の威信にかけてこ……ぐぎゃっ! 》


《なっ!? なんだあの忍者かぶれの奴らは! 耳が尖ってる? エルフのコスプうおっ!速い! がっ!》


《天使? いや角がある! なんだあれは!? 空を飛んでるぞ! アガッ! 》


《こっちも鱗の腕の女が空を……うわっ! ぎゃっ! 》


「うふふふ。首がお留守ですよ」


「権力に溺れて子供達を死なせた罪は重いわよ! シルフよ切り刻んで! 『シルフの暴刃』 」


「凍りなさい! 紋章『氷河期』 」


《ギャーーーー! 》


《うわっ!足が! 魔法だ! 距離をとれ! 》


「多田抜刀術は人斬りの術……裁きを受けよ! 秘剣『蒼天雷撃』 」


《 か、雷が刀から……ぎゃっ! 》


「お屋形様に刃向かう者は死ね! 我が名は疾風の桜! 忍法『 桜花乱舞』 」


「……桜……それ造花……幻影の紫音……光希様の為に……にんぽー『影分身』 」


《な、なんだ!? 桜吹雪? ぎゃっ! 》


《うわっ! いつの間に背後に……ぎゃっ! 》


凛と夏海は殺さない程度に抑えているが、他の者は容赦無いな。

それにしても以蔵の霧といい桜の花吹雪といい、なんでわざわざ水と花びらをアイテムポーチから取り出して手動で振り撒いてるんだ? 闇精霊が手伝ってるようだけど絶対めんどくさがってるよ闇精霊。

まあ、あいつらにツッコんだら負けだな……俺は警部の相手をするかな。


「なっ!? お、お前達は何者だ! なんだあのデタラメな魔法は! こ、こんなファンタジーのような存在……あ、悪魔か! 」


「せ、千田警部……不味いですぞ、このままでは全滅します。奴ら強すぎる」


「一応パーティ名は光の悪魔だけどな。お前達から見たら悪魔だろう。俺たちはこの日本を救う為に天照大神の力でこの世界にやって来た異世界人だ。だが、お前達のような腐った奴らを見て助ける気が無くなった。だから先ずは日本の掃除から始めることにした。どうした? 仲間を呼べよ? でなきゃ……『闇刃』 」


俺は10人程の護衛を付けてこちらを驚愕の表情で見ている会長のデブと警部に仲間を呼ぶように言い、取り巻きの首を刎ねた後に二人のそれぞれの腕と足を半ばまで切った。


「ぎゃああああ! 腕が! う、腕が……」


「ぎひーーー! あ、あし……ああ……足……」


「ほらっ! お前達を守る奴らは首が泣き別れしてるぞ? お前達もこのまま死ぬか? 」


「ぐっ……ぐぐっ! お、応援を呼べ! 大規模テロだ! 応援を! 」


「そうだそれでいい」


痛みに顔をしかめながら警部は公園入口で待機している警官に応援を呼ぶ指示を出した。命令を受けたその警官は急いで公園の外へと飛び出していった。乗ってきた車両に向かったのかね?


俺はこの腐った組織に壊滅的な打撃を与えると同時に、俺達が異世界人である事を宣伝するつもりでいた。

本来なら資源フィールドで毎日大量の物資を手に入れ知名度を上げていく計画だったが、このままでは多くの子供が飢えて死ぬと分かりプランBへと計画を変更した。プランBとは取り敢えず暴れて目立てばいいのよと言うシルフィと凛の案だ。不本意だがこうなったら仕方ない。



さて、援軍が集まるまで休憩時間だな。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る