第4話 搾取






「えいっ! やあっ! そっちいったぞ! 」


「まかせて明! えいっ! 」


「囲め〜」


「「「おー! 」」」



「危なっかしいな……」


「蘭は見ていてハラハラします」


「リーダーっぽい子はそこそこ動けているけど、他の子は全く動けて無いわね」


「今は角兎3匹に対して20人と数の暴力でなんとかなってますが、これ以上奥には行かない方が良さそうですね」


「夏海の言う通りね。確かこの資源フィールドは奥に行けば行くほど強い魔物が出るんでしょ? 」


「そうみたいだな。この先に一つ目狼の反応が12ある。アレには勝てないだろうな」


俺達は資源フィールドに入ってから子供達の後を車でゆっくり付いてきていた。これまで角兎相手に2回程子供達はエンカウントして、なんとかそれを倒してきていたが既に怪我をしている者も出てきている。

角兎はFランク魔物で、茶色い毛並みに額に20m程の角を生やしている攻撃的な魔物だ。が、その攻撃パターンはひたすら前に突っ込むだけで読みやすく、耐久力も普通の動物に毛が生えた程度なので初心者用魔物として扱われている。この資源フィールドでは倒すと魔石か兎肉か毛皮のどれかがドロップするようだ。これまで毛皮と魔石だけで子供達は皆残念がっていた。肉はレアドロなのかね?

フィールドを出る時にはドロップ品から3割税金を取られて、更に食糧の半分は強制的に換金させられるらしい。だから皆出る前に食べるらしいんだけど、あの子達はお腹減ってるんだろうな……


「あっ! ダーリン奥に行くわ! 」


「角兎を倒して自信を付けたか……あの方向は不味いな。蘭、行くぞ! シルフィ達は以蔵達を外に出して待機していてくれ」


「はい! 」


「わかったわ。子供達を連れてくるんでしょ? 準備しておくわ」


「頼む」


俺はそう言って車を降りて子供達がいる場所向かって行った。





「一つ目狼だ! 」


あきらやばいぞ! あの数は無理だ! 」


「ど、どうするの明? 」


「ぼくたち奥にきすぎたんだ」


「や、やらなきゃ! 逃げても追いかけてくる! 俺が前に出る! イチローと久美子はみんなに円陣を! 」


「わ、わかった! 」


「わかったわ……みんな! 槍を外向きに出して練習した通り円陣を組んで! 」


「10頭以上いる……」


「しんじゃうよ……」


俺と蘭が子供達の所へ辿り着くと、一つ目狼が円陣を組んだ子供達を囲む為に展開しようとしている所だった。

あのさっき話した明と呼ばれてる子は知識があるな。

一つ目狼達は一人円陣から飛び出している明に向かって襲い掛かった。


「くっ……うおおおおお! 」


「無理すんな『プレッシャー』 」



「え? 」


「仲間を守るために囮になる精神は嫌いじゃないが、自分が死んだ後の事を考えるんだな。ここは円陣に参加してじっと耐える所だぞ? 」


俺は明に襲い掛かろうとした3頭の一つ目狼と、子供達を囲んでいる残りの狼に重力魔法のプレッシャーを発動した。狼達には今3G程の重力が地面に向かって掛かっている。あと1G掛けるかこのまま数分もすれば消滅してしまうだろう。


「あ……さっきの兄ちゃん」


「ほらっ! 一つ目狼は俺の魔法で動けないからみんなでトドメを刺せよ」


「え? あ、ほんとだ……」


「すげー! なんでだ? 一つ目狼が地面にへばりついて動かないぞ? 」


「これが魔法なの? こんな魔法聞いたことない……」


「やらないなら俺がこのまま押し潰すぞ? 」


「や、やる! みんな! 槍を突き刺せ! 」


「「「おおー! 」」」


俺が一つ目狼の状態を驚いて見ている明を急かすと、明が号令を掛け全員が槍を一つ目狼に突き刺した。


「練習はしていたみたいだな。お? 久美子って子とそこの男の子は魔力値が高いな。魔法の才能あるぞ? 」


「え? わたしが魔法を!? ほ、ホントに!? 」


「ぼ、僕にも魔法の才能が? お父さんみたいに僕も……」


「ああ、練習次第で良い魔法使いになれるぞ。お? 肉がドロップしたじゃないか。良かったな。そらお前達が倒した獲物だ、早く回収しないと」


「え? でも……兄ちゃんの魔法のおかげで……」


「倒したのはお前達だ。子供が遠慮なんかするな」


俺は子供が遠慮する姿なんて見たくなくてさっさと拾うように明に伝えた。


「あ……ありがとう。 みんな! 拾うぞ! 」


「やったー! 肉だー! 」


「ありがとうございますお兄ちゃん! 」


「「「ありがとうございます」」」


みんな楽しそうにドロップ品を拾い集めている。やっとこの子達の笑顔が見れたよ。肉は干し肉として出るのか……まあ生肉が地面に落ちていても嫌だしこの方がいいか。しかし100gくらいしか無さそうだ。命懸けで戦って100gの肉が4切れかよ。


「なんだみんなボロボロじゃないか。蘭、怪我してる子にポーションを」


「はい! 」


「ぽ、ポーション!? そんな高価なもののお金払えないよ! 」


「だから子供が遠慮すんなって言ってんだろ? 子供から対価なんかもらわねーよ。黙って治療されてろ! 」


「タ、タダ!? ポーションが!? 」


「わあ〜傷がなくなった」


「僕も痛くなくなった! 」


「ポーションすげー」


蘭が怪我している子に次々とポーションを掛けて回ると、子供達は更に笑顔になった。明だけが驚愕した表情で俺を見ていた。


「よしっ! 傷は治ったな。そしたら次は腹ごしらえだ。ちょうど俺達も昼ごはん食べる所だったから一緒に食わしてやる。付いて来い! 」


「え? え? ご飯……なんで? 」


「明! ごはんくれるってよ! いこうぜ! 」


「いこうよ明! あっちからいい匂いがするよ! 」


「助けてくれたし大丈夫だよ」


「あ、ああ……」


俺は蘭に子供達の後ろを歩くように行ってハマーがある場所まで子供達を連れて行った。


俺達がハマーの所まで来ると大きなテーブルと椅子が設置されており、その上を天幕が覆っていた。そしてそのテーブルの上には作り置きしてアイテムバッグに入れていたのか、出来たてのパンとご飯に大量の肉料理が置かれていた。


「「「…………」」」


「どうした? 席に着いて好きな物を好きなだけ食っていいんだぞ? 」


「お、俺達は一つ目狼に殺されたのか……」


「そうみたいだな。廃墟にあった昔の料理本に載ってる料理が現実にあるわけねーもんな」


「あーあ……12歳で死んじゃったのか……」


「「「しくしくしく……」」」


「何馬鹿なこと言ってんだ! 現実だよ! 死んでねーよ! 早く食え! 」


「うがっ! …………あ、うまい……」


「え? 死んでないの? 」


「え? 本当に? 」


「うふふふ。早く食べないとご飯が冷めちゃいますよ? さあ行きましょう」


「かわいそうに。さあ、お腹いっぱい食べていいのよ。席に着いて」


「お姉ちゃん達が作ったのよ? 冷める前に食べて欲しいわ」


俺はテーブルを前にして馬鹿なことを言ってる明の口にローストチキンを詰め込んだ。そして蘭は子供達を抱きかかえて席に座らせて、シルフィと夏海も子供達の手を引いて席へと誘導した。


「リム達と以蔵達は給仕をしてやってくれ」


「ハッ! 」


「はっ! 喜んで」


「よしっ! それじゃあみんないただきます! 」


「い、いただきます……」


「ほんとにこれ食っていいのか? ……駄目だ! もう我慢できない! いただきます! 」


「もぐもぐ……あ……いただきます……」


「「「いただきまーす! 」」」


俺が号令を掛けると既に食べていた久美子と一部の子以外が、恐る恐るフォークを手に持ち料理に手をつけていった。


「美味い……」


「うめーーー! 」


「美味しすぎる……もぐもぐ」


「おいしい……」


「あははははは! 凄い食べっぷりだな! お前達相当腹減ってたんだな! いっぱいあるから好きなだけ食っていいんだぞ! あたしの旦那さまは優しいんだ! 」


「うわ〜凄い食欲! まだまだあるよ! ジャンジャン食べてね! 」


「あらあら、そんなに急いで食べても無くなったりしませんわよ? ほら、服が汚れてますわ」


「リムちゃん! ダーリン特製の果実水を子供達に配ってあげて」


「ハッ! お妃様! 」


「うふふふ。ちゃんと野菜も食べないと駄目ですよ〜 」


「紫音! このお皿を下げて持って行って! 」


「……わかった」


「ふふふ、子供は可愛いわね。紫音と桜にも早くお屋形様の子を産んでもらわないと。でも二人ともイマイチ色気が無くて、見向きもされてないから先は長いわね」


「クククッ……サキュバスのユリ殿でも見向きもされてないのだ。色気は関係無かろう。じっくりと時間を掛けて少しずつだな」


「そうね、お屋形様の寿命は無いような物だしエルフ種同士だと思えばいいのよね」


「我等も婚姻まで100年間掛けたからな。そういう事だ」


最初は恐る恐る食べていた子供達だったが、いきなりトップスピードで食べ始めた。やはり相当お腹が減っていたらしい。急に給仕が忙しくなり、恋人達もサキュバスやダークエルフ達も大忙しとなった。でもみんな優しい目で子供達を見ているな。サキュバスもダークエルフも子供が少ない種族だからか、Hero of the Dungeonの時も子供客の面倒をよく見てくれてたんだよな。

リムも顔がほころんでいるからきっと子供好きなんだろう。あと以蔵、ユリの誘惑に見向きもしてないんじゃ無い。理性が保たないから見ないようにしいるだけだ。



こうして小一時間程食べて飲み続けた子供達は草むらに寝転がり、幸せそうな笑みを浮かべていた。ここは魔物のいるフィールドだから年長者としては注意しなきゃいけないんだけど、あんな幸せそうな笑顔を見せられたら何も言えないよな。


「あ〜食った〜」


「すげーうまかった……おれもう死んでもいいや」


「美味しかった〜 あんなに美味しい物がこの世にあるなんて知らなかったわ」


「留守番の子に食べさせてあげたかったな……」


「腹は膨れたか? 確かここにいる子は孤児だったよな? 留守番の子もいるのか? 」


「あ、兄ちゃん! ごはんありがとう! うまかったよ。 そうだよ、俺達は孤児なんだ。施設にまだ小さい子がたくさんいるんだ」


「さっきも聞いたが国から配給があるはずだろ? 成人前なのになんでそんなに飢えてたんだ? 」


「……俺たちの施設がある新宿地域を管理している団体に配給を減らされたんだ」


「10歳になったならもう戦えるだろうって」


「アイツら私達の分を懐に入れてるのよ」


「僕たちだけじゃ無くて他の親がいる家も減らされいるんだ」


「んん? 以蔵? どういう事だ? 」


「はっ! 恐らくですが……」


俺は配給が減らされるという意味がわからなくて以蔵にどういう事なのか聞いた。それによるとひとえに配給と言っても一人一人が配給日に門まで来て並んで受け取っている訳では無く、一つの町毎にまとめて渡しているそうだ。確かに何百万人が並んでいたら受け取れるのはいつになるか分からないな。そこで団体や町内会のような自治体がまとめて配給所に取りに行き、住民に配っているそうだ。うん、システムとしては良いと思う。人間が善人だけである事が前提だけど。


基本的には住人に信頼の厚い人がその町の代表になるんだけど、多くの人の命を握れる存在だ。悪に染まる者もいるらしい。そんな奴がトップの団体や自治体の住人は、自分の命を握っている相手に逆らえるはずも無く言いなりになるしか無いようだ。特に戦えない女性や子供や老人はな。

そしてそういう悪党はより強い権力を持つ者に媚びへつらうものだ。住人の配給を削りそれを管轄の特警、特別警察へ賄賂として渡しているそうだ。そうなるともうやりたい放題だ。賄賂が住人の若い女性になったり、自治体で勝手な法律を作ったり気分はもう王様だな。


そしてこの子供達は正にその悪党の被害者で、本来なら15歳まで受け取れる配給を10歳で打ち切られたらしい。孤児施設の施設長が協同団体という所に抵抗したが、団体で決めた事だと全く聞き入れてもらえなかったそうだ。それならと特警に掛け合ったが当然特警もグルで話すら聞いてもらえず追い返されたそうだ。

それを見たこの子達は自分達の食糧は自分達で稼いでくると言って、近所の老人達の協力と教育を得てこの資源フィールドにやって来たという事のようだ。

アトランではよくある話だけど、日本で同じ事が起こってるとか聞くと結構くるものがあるよな。


「なんだそいつら! 子供の食べ物を奪うとか最低な奴らだな! 」


「主様……蘭が皆殺しにしてきます」


「そうよ! ダーリンやっちゃおう! 」


「酷い話だわ。コウ、なんとかしてあげましょう」


「しかし警察が抱き込まれているとなるとどうやって……」


「一方的に襲撃したら俺たちが犯罪者になってしまい、かえって施設の子供達に迷惑が掛かる。大丈夫だ方法はある。でもやるとしたら明日からだな 」


俺は蘭達の過激な脳筋発言に少し引きながら、既に対応策を思い付いていた。


「流石ダーリンだわ。みんはもう大丈夫よ。この問題は解決するわ」


「うふふ。主様が介入すればもう安心ですよ」


「コウが動くなら悪は滅びるわね」


「光希が動くのならもう大丈夫ですね」


「強欲な奴らは腐るほど見てきたからな。さて、せっかくフィールドに来たんだ。お前達も少しは強くなってから帰れ」


俺はそう言ってアイテムボックスから槍を取り出し、ナイフで長さを調整して子供達に渡した。そして次に軽くて頑丈な魔物の革で作った盾を10個取り出しそれも渡した。


「は? え? 槍……に盾? あ、軽い……」


「うおっ! なんだこの槍! 本物だ! 店で売ってるようなやつだ! 」


「え? 今どこからこんなに出したか見た? 」


「それはくれてやる。今からお前達に集団戦闘を教えてやる。久美子とそこの男の子はこっちに来い」


「こ、これを!? 俺たちに戦う術を? お、お願いします! 」


「すげー! こんな良い装備を貰えて戦闘も教えてもらえるとか今日はとことんついてる! 」


「あ、はい! ワタル行くわよ」


「あ、うん」


「ワタルって言うのか。2人にはこの本が開けるか試してもらう。魔法の適性検査だ。気楽に開いてみろ」


「は、はい……開けばいいんですか? 」


「これってもしかして……」


「ああ、開けたら適性があるって事だ」


恐らく魔法書なんて見たことも無いだろうと思って四大属性の魔法書を出したが、ワタルって子は何か気付いたようだな。


「それじゃあ……これは開けません……これも……あ、これは開けま……ああ……」


「これは駄目でした。これも……これも……僕には適性が無いのかも……あ、これは開けた! え? ああ……」


「久美子は水魔法でワタルは風魔法の適性があったようだな。おめでとう。今日から2人は魔法使いだ」


「わ、わかる……水弾に水刃の魔法が……ああ……私が魔法使い……」


「風弾に風刃……僕がお父さんと同じ風の魔法使い……」


「これは魔法書だったのね……お兄ちゃん貴重な魔法書を孤児の私達に……ありがとうございます」


「兄ちゃん……なんで僕たちにここまで……」


「さあな。気が向いただけだ。お前達にとっては凄いことでも、俺にとっては大したことないじゃない」


たまたま俺が門に入る時にたまたま隣を歩いていて、たまたま蘭が気付いたから助けただけだ。この子達は運が良かった。そういう事だ。


「ぷっ、ダーリンたら恥ずかしいのね」


「うふふ。主様は照れ屋ですから」


「ふふふ。コウが子供好きなのはみんな知ってるのにね」


「ふふっ、光希かわいい」


「さ、さあ行くぞ! 奥に行って一つ目狼と盾を前面に出した戦闘だ! ビシバシ行くからな! 今日中に全員ランクアップするまでやるぞ! 」


「「「はい! よろしくおねがいしますお兄ちゃん! 」」」


「ぷぷぷっ! ダーリンかわいい! 」


「うふふふ。主様かわいいです」


「リムと以蔵達は車を貸すから奥に行って魔物を狩りながらこっちに追い立てて来い! セルシアは子供達に付き添って護衛をしてくれ」


「「「はっ! 」」」


「わかった! 旦那さまのシゴキに耐えられるか見ものだな! 」


俺は恋人達のからかいの声を無視して子供達を連れて草原の奥へと進んだ。

取り敢えず魔物と戦ったことの無い大人に余裕で勝てる程度にはしておかないとな。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る